傍観者≠神様
高校生活もそれからは特に何事もなく、
彼は高校を卒業して大学生になっていた。
そして、大学生活にもなれた夏休み頃をきっかけに、
義父さんに少しでも迷惑をかけないように1人暮らしを始めた。
お金の面では、まだ補助してもらうことにはなるが、
彼は自分でも、できるようなアルバイトも探して、
コンビニや飲食店などではなく、
なるべく人と接触しないような職業を探していた時に見つけた、
アミューズメント施設いわゆるゲームセンターでの仕事を始めることにした。
仕事内容は基本的には見回りや清掃、機械の調整などがメインで、
時折お客さんの相手もしないといけない時もあるが、
なんとかこなしていた。
この職場では色々な人がくる。
お年寄りからスーツを着た会社員、
それに学生服をきた学生も……。
『あれは、通っていた高校と同じ学生服かな……。
そんなに時間は過ぎていないけど懐かしく感じる』
そこには通っていた高校の制服を着た学生グループがいた。
彼も懐かしさもあり、そのグループを目で追って見ていると
一人の子がこちらに振り向こうとする……。
『あっ』
彼は何かに気付き、すぐに目をそらして、
何もなかったように装いながらすぐに隠れるように彼はその場から移動した。
たぶん一瞬の事だと思うし、仕事着として帽子も付けているので、
気づかれてはいないと思うが、目が合ったような気がした。
ほんの少しの時間とは言え、人の目を見るのは苦手で、
その瞳に吸い込まれそうな感覚と知られたくないという緊張感で、
心臓がドキドキしていた。
それも、こちらを振り向いたのが、
高校時代に少し気になっていたあの彼女だったからだ。
よく考えてみれば同じ高校の制服という事は後輩達になるわけで、
知った顔がいてもおかしくはなかった。
仕事先で知り合いに見られたり、
ましてや知り合いに接客とかするのを考えると、
何でも人目を気にする彼としては何か気恥ずかしく、
とても嫌なものだった。
その為、時折、彼女達が来ることがあったが、
見かけてはバレないように避けるように仕事をしていた。
それから数か月が過ぎて、
新しい春を向かえようとしていた頃から彼女達の姿を見かけることが減っていた。
それもそのはず、
彼女達も高校3年生になったから将来に向けて、
遊びというのからは遠くなっていたのだろう。
彼女達を見なくなり、
仕事としては少し安心してできるようになったが、
どこか姿を見れないことで寂しさを感じていた。
それからまた数か月後、
見なくなっていた彼女達がやってきた。
その手には筒のようなものを持っていた。
どうやらみんな高校を卒業したようだ。
手に持っているのはそれを証明する卒業証書だろう。
卒業記念の最後の思いで作りの写真を撮りに来たという感じだった。
もう一度彼女たちを見れたことを少し嬉しく感じながら、
2年前の高校生活という終わりの時を思い出し、
懐かしみながら楽しそうにしている彼女達を彼は遠くから見ながら、
『いつ見ても自分とは真逆な人生という感じで、
あんな輝きながら生きられたら……』
そんなことを彼が考えていたら、
彼女達の姿はもうなくなっていた。
そして、それ以降は彼女達の姿を見ることはなくなった。
同じ制服を着た学生が来ても彼女達が卒業したという事は、
もう彼を知っている後輩達ではないだろう。
ただ、遠くから見ているだけで、
その時は良かったと思っていたかもしれないが、
そんな傍観者のままでいられる日常は、
神様でもない限りそのまま変わらずに見続けられるという事はない。
時間が進むのと同時に人も未来へと進んでいる。
その変化の実感には個人差があるかもしれないが、
同じことの繰り返しのような日々でも、
色取り取りの人の様々な選択肢が交差した組み合わせの中で生きているからには、
枝分かれする道でいつ何が起こるかは分からない。
考えないでいただけで、ある程度は想定できたことでもあるが、
彼女の姿を見ることがなくなってしまった現実を実感することで、
彼は少し後悔のようなものを感じていた。
【次話】再会・〇・距離