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カタチなきセカイへ  作者: ツカサマコト
後章
30/36

一生のお願い

 7月7日。招待状に記載されていた日。


 山形から1年ぶりになるだろうか。

 彼は再び都会に来た。


 少し迷いながらも招待状に記載されている建物についた。

 まだオープン前の建物。


 彼は招待状に記載されている通用口に向かい、

 そこにいた警備員の人に招待状を見せた。


 警備員の人はどこかと連絡を取り、

 特殊なチョーカーとリストバントを渡され、首と手足に着用を促された。


 彼がチョーカーとリストバントを着け終わると、

 招待状に記載されていた建物内の1つのエリアに行くように言われて、

 建物内に通された。


 彼はまだほどんど内装もされていない何もない建物内を移動して、

 目的の場所に向かう。


 彼が目的の場所につくと大きな扉があった。

 その扉に彼が近付くと自動でその扉が開いた。


 誘導されるままに彼はその大きな扉の中に入ると、

 扉の中にもう1つ扉があり、

 彼がそのもう1つの扉を通過して奥に進むと

 特に壁があるだけで何もない。


 彼がそんなことを思っていると入ってきた扉が自動で閉まる。

 扉が閉まると今度は何か動いているような感覚を感じていた。


 それは、エレベーターのように、

 この部屋全体がせりあがっているような感じだ。


 しばらくすると動きが止まり、

 正面の壁と思っていた所が中央から左右に分かれるようにスライドして開いた。

 

 開いた先には、また扉がある。

 彼はその扉に近付いてみるが時に自動で開くことはなかった。


 扉をよく見ると、どこかの教会の扉のような感じなので、

 手動で開ける感じだろうか。


 彼は手動で扉を開いて中に入ると、

 その先にはすごく大きな天井も高い部屋というより空間というべきだろうか。

 それぐらいに大きな広間の部屋があった。


 でも中には特に何もない部屋。


 彼がどうすればよいのか困惑していると、

 部屋の中央の床に光のサークルができた。


 彼はその光のサークルの場所に行けばよいのだろうと解釈して、

 とりあえず部屋の中央に向かって歩き、床の光のサークルの中に入った。


 すると床の光のサークルが消える。

 どうやらこれで良かったという事だろうか。


 彼が部屋の中央にしばらく立っているが、

 特に何かが起こるような感じがしない彼がそう思った時だ。


 彼の背後から女性の声がした。

 

 「もう、忘れちゃっているかな?」


 その声を彼は聞き覚えがあった。

 彼の中で時折聞こえて、気になっていた女性の声そのものだった。


 彼が驚きながら声がする方を振り向くと、

 綺麗な女性がそこにはいた。


 彼女の顔を見てもはっきりと思い出すわけではないが、

 時折感じていた何か足りない存在感が彼女だと彼は一目見て察した。


 「あなたの思い出がありますって、どういうこと?」


 彼が彼女に向かって質問を投げると彼女がしゃべりだす。


 「初めて出会ったのは、

  高校の時にだと思っているかもしれないけど、

  実は秘密にしていたけどもっと前から私は知っていたんだ」



 彼の言葉と話しが噛み合っていない気がするが彼女は一方的に話を続ける。


 「幼い時、私が両親を亡くして、そのお葬式から逃げ出して公園にいた時、

  ノートパソコンで自作のゲームやプログラミング映像を見せてくれて、

  和ましてくれた。


  それは、マジックショーのような不思議な魔法にも見えて、

  プログラミングに興味を魅かれて、プログラミングの勉強もその後に始めた。

  

  結局、その時はお互いに名前を聞くこともなかったけど、

  私は一方的にノートパソコンに書いてあった名前を覚えていて、

  今度、会った時は私が不思議な体験をさせるんだと、

  仕返しするような気持ちを思っていて、

  なんだろう……、ライバルのような存在に思っていたのかなぁ……」

 

 彼は話を聞いていても良く分からないという表情を浮かべるが、

 自分の記憶に関係することなのだろうと黙って聞くことにした。


 「それからは山形の方でお祖母ちゃんと暮らしていて、

  もう会うこともないと思い始めて、いつしか忘れかけていたけど、


  小学生から中学生になろうとしていた時にお祖母ちゃんの病気の関係で、

  もう一度戻ってきて、


  両親を亡くした時に行った公園の事を思い出して、

  よくその公園に行っていたら、


  高校の制服を着た男の人が聞いたことのある名前で呼ばれていたのを見て、

  もしかしたらと思って高校は、その高校に行くことにした……。


  でも結局、高校生活では同じ部活動にも参加していたけど、

  先輩後輩という距離もあったり、

  まともに話すようなきっかけは作れなかった……。


  それでも色々話や噂とか遠くからでも少しは情報が入ってくるので、

  どんな人になっているか想像したりしていた……。


  高校卒業後は、

  知り合いを通じてインカレサークルに入っているという噂を聞いて、

  知り合いになれる最後のチャンスかもと思い切って、


  高校の元後輩というのを前面に出して話しかけた時は、

  どんな反応をされるのかドキドキしたけど、


  知ってくれているような感じで話も出来たことで、

  知り合いになれるきっかけ作りはできたので、

  その後も勇気を出して話しかけたりしていた……。

 

  さすがに幼い時に会ったことがあるなんて覚えている訳もなく、

  あくまでも同じ元高校の後輩と先輩という感じだったけど、


  どんな人か知りたかった人の事が、

  色々直接的に知れていくことが楽しくなっていた。


  そんな矢先にお祖母ちゃんも亡くなって一人になったように感じていた時も、

  たまたま、だろうけど私の前に来てくれて、

  気落ちしているのを忘れさせてくれるくらい、また楽しさで和ませてくれた。


  まだ、その時はその楽しさや安心感を感じていて、

  もっと一緒にいたいという不思議な自分の感情を

  良く分かっていなかったけど、


  クリスマス直前のあの日、突然に一緒にいたいと言われてビックリした時に、

  客観的に憧れとかではない、

  自分の抱いていた心の奥の気持ちに気付かされた……。


  それからお互い魅かれあいながら過ごしていく中で、

  お互いの気持ちを知って、幸せな日々が暮らせていることで十分だったけど、


  人はいつどうなるか分からない……。


  自分と幸せだった両親の事も重なって、

  よく未来の事を考えるようになっていた」



 彼は一方的に話される話を聞きながら、

 どこか何か心に刺さるものを感じていた。


 たぶん、忘れているこれは彼女との出会いの馴れ初めなのだろう。


 彼女の話はまだ続く。


 「そんな、もしものことを考えていた時にある事を思いついて、

  怒られるかもしれないけど、

  生涯で叶えたい夢があるとしたらこれだったから、

  本当はこんなもしものことが起こらないで、

  いつか自然に叶うのを待っていられた方が良かったけど……」


 深刻そうな表情を一瞬見せたが、彼女の顔が真剣な顔になる。

 

 「私の一生のお願いを聞いてほしいの……」

 

 真剣な顔で彼女がお願いするような顔を見せて、

 一呼吸おいて、彼女は彼に笑顔を見せながら、

 なぜか一粒の涙を流しながら言う。

 

 「私をこのまま、あなたのお嫁さんにしてください」


 その言葉を聞いた彼は思わず、


 彼も思い出が完全に戻っている訳ではないのに心なのか頭の中なのか、

 何が反応したのか分からないが、

 彼の中の透明なガラスが割れるような感覚と同時に

 反射的に彼は彼女を抱きしめようと行動していた。



 ……しかし、

 彼は彼女を抱きしめようとしたはずが、なぜか彼女の体を透過してしまい、

 彼女を抱きしめることができなかった……。


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