12月・クリスマスと虚像
12月。もうすぐ1年も終わる。
都会では珍しい雪も山形では当たり前のことで、
ずっと前から外は雪が積もった雪景色になっている。
屋根や道の雪を除雪したり大変なことはあるが、
真っ白な雪を見ていると頭の中も真っ白になるようで、
暖かい部屋の中から見ているとなぜか落ち着く。
彼はそんな落ち着いている場合ではなかった。
『外を見て寒そうで嫌だなぁ』と思っていた彼だったが、
クリスマスという事で、
山形のおじさんの家でクリスマス会があるらしく招待されていた。
意を決して、
クリスマスプレゼントをもって彼は山形のおじさんの家に向かった。
山形のおじさんの家はイルミネーションも飾られて、
綺麗にクリスマスカラーでライトアップもされていた。
山形のおじさんの家について、
クリスマスプレゼントも渡した彼は、
山形のおじさん達のクリスマス会のおもてなしを受けて楽しく過ごしていた。
山形のおじさんの孫娘が近くに来て、
「サンタクロースって本当にいるの?」
そう質問してきた。
「よく分からないけど、その言葉があるってことは、
もう心に住みついて存在しているってことじゃないのかな?」
どう答えるべきか迷って彼はそう答えてみたが、
「どういうこと?」
良く伝わらなかったようだ。
「まぁ。言葉に出せて、想像できるってことは、
いてもおかしくないんじゃないかな」
とりあえず、そう返すと、
「でも、お願いしても違うものが届く時があるの?」
サンタクロースといっても神様ではない、
出来ることには限りがあるのでよく言われる疑問だろう。
こういう時にどう答えるべきなのか、
困った彼は何かでクリスマスの話を調べたことがあった時の話を思い出しながら話す。
「物語とかお話は大抵はその時その時で、
付け加えられたり、消されたり、
多くの人によって変化して伝わっているものだから、
始まりの元々の話とかが、どうだったかは分からなくなっているよね」
っと本当かどうかは分からないものと前置きをしながら話を続ける。
「実はサンタクロースはお願い事を叶えてくれてる訳ではないんだよ。
元々は、良い子に飾っていた靴下にお金やお菓子を入れてくれて、
ちょっとした幸せをくれたっていう感じの話しなんだよ」
そういうと山形のおじさんの孫娘が少し寂しげな顔をして言う、
「願いは叶えてくれないの?」
その顔を見て彼は話を続ける。
「サンタクロースは決して何でも出来る神様ではないからね。
でも、プレゼントが希望通りにならない事もあっても、
出来る範囲で幸せを感じてもらえるように努力してくれているってことだから、
何もないよりは、貰えて嬉しくはないの?」
っと彼が聞くと、
「貰えないよりは、嬉しいかもしれないけど……」
少しまだ不満そうな感じなのを見て彼は思い出したように言う、
「あっ。そういう意味では、
クリスマスプレゼントを用意しておいたけど、
たいした物ではないから喜んでもらえないのかな?
そう思うと期待にこらえられないサンタクロースの気持ちがなんだか分かるな……」
彼は自分もクリスマスプレゼントを用意していたことを思い出して
そう言うと気をつかったように
「えっ、そんなことないよプレゼントは嬉しいよ……」
っと山形のおじさんの孫娘が言ってくれるのを聞いて、
よく考えたら楽しく過ごす日に夢を妥協を促すような、
そんな言い方になっていたことに彼は気付きフォローするように、
「でも、サンタクロースの出来ることが分かれば、
その範囲のお願いなら希望通りに叶えてくれるかもしれないね。
家族の人に聞いてみたら。手紙を届けられる所もたしかあった気もするし……。
どんなお願い事か分からないけど、誰かに伝えて叶う事もあるし、
神様にだけ伝えて叶えてくれることもあるかもしれないし、
誰に何をお願いして、どう過ごすのか使い分けが大事かも」
彼はなんとか夢のある話に戻せないか切り替えそうとすると、
「う~ん。ちょっと確認してくる」
そういって、山形のおじさんの孫娘はどこかにいってしまった。
家族にサンタクロースについて確認しにいったのだろうか。
それとも彼のプレゼント中身を確認にいったのだろうか。
とりあえず話はこれでひと段落できそうだ。
それから、彼は外の雪景色を見ながら考えていた。
真実って何なのか、
聖夜やサンタクロースのことなどを考えながら、
夢現な不思議な気持ちにもなる中で、彼は物思いにふけっていた。
人の記憶は曖昧だ。
自分の都合のいいように解釈することもあるし、
言い訳をして都合のいいように誤魔化すこともある。
知っていることを知らないように合わせたり、
知らないことを知っているように合わせたり、
様子が違うと感じたら、途中で多少の辻褄がおかしくても、
分からないように方向転換や切り返しもする。
やっかいなのは思い込んで書き換えることもあれば、
夢のように記憶から消し去ることもある。
そんな人間が関わっている伝承、怪談、昔話などは噂話のようなもので色々な話には、
比喩や脚色、創作や空想、誇張や希望など様々な思いによって、
膨らませた話の種は多く、印象に残らないものや印象に悪いものは欠落もするものだ。
たとえ、歴史だとしても書物などに残っているからと言って、
真実のように伝わっていることもあるが、
それが作りものという可能性もある。
結局はマジョリティという多数派をどう論じて信じて動かせるか、
それがたとえ虚像だと分かっていても、魔女が不思議な魔法を信じさせるように
不思議なことでも、いつしか違和感も薄まり真実や伝説のように伝わるものだ。
それが、ましてや生まれた時からこういうものと信じたものは、
変えられると確証がない限り、興味やリスクを考えれば触れようとしないものだ。
人は他者と接していると
関係性で立ち位置というか、イメージというのは何となくできる。
あまり考えないで触れずに来ていたが、
記憶に空白のある自分は、まさにシンのない虚像のようなもの。
イルミネーションや雪景色で、何か思い出があったような気もするが、
それを思い出せそうだけど思い出すと自分自身の中の自分という何となくのイメージの何かが、
変わってしまいそうな恐怖のような不安を感じて、
自分自身の存在について彼はあまり深く考えるのをやめた。
【次話】 1月・新年の運だめしと音色