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カタチなきセカイへ  作者: ツカサマコト
前章
16/36

 ̄_



 そして夏が終わり、

 クリスマスや新年が今年もまた近づいてきた11月のある日。


 いつもと変わらないやり取りをしているとカノジョが、


 「あっ。買い忘れていたのかな。あれがないなぁ」


 どうやら夕食の材料が足りないようだった。


 「じゃあ、買ってくるよ」


 カレはそう言うと、

 カノジョが紙に必要な材料を書いてカレにメモを渡す。

 受け取ったメモを持ったカレは買い出しに出かけた。


 カノジョは再び夕食の準備をしていると、

 あれもついでに頼もうと何かを思いたちカレに電話をかける。


 するとカレの携帯電話がリビングのテーブルの上で鳴り響いた。


 一方で、買い物に出かけたカレの方も、

 家を出た途中で携帯電話を忘れていることに気づいていたが、


 『まぁ買う物のメモは持っているし、

  財布とお金はあるようだし、まぁいいか』


 とそのまま買い物先に向かっていた。



 それからカレは買い物を終えると、

 家に向かって戻る。


 買い物が終わったとカノジョに連絡したくても、

 携帯電話は家だから連絡のしようがない。

 そんなカレは『連絡したいなぁ』と考えていたら無意識にどこか足早になっていた。


 好きな人が家では待っていると思うと、

 両親を早くに亡くしていたカレにとっては、

 あまり家族というのを知らないだけにより幸せ感を感じていたのだ。


 そして、もうすぐ家が見えるくらいの距離に近づいた時だ。


 ドーン。ドーン。バチバチバチ…。


 花火でもどこかで打ち上げたのかと思うような爆発音が聞こえたと思い、

 爆発音のした方向の空をカレが見上げると、

 それは、カレとカノジョが住んでいた家の近くの方で、

 空が赤く、黒い煙も上がっていた。


 もしかしたら家が燃えているのでは、

 カノジョは大丈夫なのか。

 カレの顔があおざめるように一瞬でこわばる。


 消防署に連絡なども考えるが、

 携帯電話を忘れていては何もできなかった。


 ただ、とにかく自分の目で確認するというアナログな手段しか取れなかった。


 カレは急いで家に向かうと家の近くについた時に、

 消防車や救急車、そしてパトカーだろうか、

 こちらに複数のサイレンの音が向かっているのが聞こえた。


 そしてカレが家の前につくと近所の人が避難してざわざわしていた。

 カレはカノジョの姿を探すが、

 避難している人込みの中にカノジョの姿は見当たらなかった。


 あたりには熱と焦げるような匂いがただよっていた。

 まさかと思い自宅の方をカレが振り向いて見ると完全に自宅は炎で燃えあがっていた。


 さすがにあそこにはと避難した人から探そうとカレが再び振り向こうとした時だ。

 まさかのまさかだ。


 炎に燃えあがる家のドアの所が突然開いて、

 意識もうろうとした感じのカノジョが出てきたのだ。


 それを見たカレはさっきまで感じていた焦げた匂いも、

 非難する雑踏の音も聞こえず、無心にカノジョに駆け寄っていくが、


 それはスローモーションのように感じ、

 ほんの数秒の時間のはずがカノジョにたどりつくまでの時間がとても長く感じる。


 そしてカノジョが倒れこむ直前にカレがカノジョの前について、

 カノジョを抱きかかえるが、カノジョの顔色が普段よりも良いように見えるけど、

 心臓の鼓動は弱々しくカノジョの鼓動が止まろうとしていた。


 そんなカノジョの姿を見て、絶望的な感情に包まれ、

 カレは手の触覚の感覚さえもなくなっていた。


 そしてカレの視界の先には一緒に過ごしていた家も燃えている。

 それは、とてもいきおいよく……、

 カノジョとの色々な思い出もすべて無かったかのようにするように

 全てを燃やしていた……。


 その時、


 「おい!危ないぞ!」


 誰かが叫ぶようにいうがカレには聞こえていないようだった。

 そして、燃えていた建物が崩れる。

 その絶望的光景にカレの視界の感覚も奪われた。


 五感の感覚を奪われ、カレは良く分からない状態のなかで、

 忘れていたはずのある光景が映像のように流れる……。


 それはどこかの室内、男性が幼い男の子の上にマウントを取るように乗っかっていた。

 上に乗っかていた男性が両腕を振り上げて幼い男の子に振り下ろそうとしている。


 そして男性の腕が男の子に振り下ろされた時だ。

 別の中年の男性が幼い男の子の上から男性をどけるように飛び込んできた。

 幼い男の子の視界から男性がいなくなると、その先には女性の人が倒れていた。


 そのあと飛び込んできた中年の男性の方向を見ると、

 何かを言っているようだがよく聞こえない。

 ただ、中年の男性は外に行けというようなジェスチャーを必死でしている。


 そうだ……。


 これはカレ自身もトラウマとして忘れていたはずの

 カレの両親が亡くなった事件のフラッシュバックだった。


 そして、さっきまさに最愛のカノジョの命も目の前で亡くなろうとしていた……。


 『人生はいつか終わる……。

  終わるならいつ終わるのか?……。


  それならいっそのこと、

  今この場でカノジョと一緒にこのまま連れて行ってほしい。


  こんな世界、もういやだ……』


 そうカレが思うと、どんどん漆黒の闇に埋もれていくような

 そんな感覚にカレは飲み込まれていった。


 そしてカレの意識や感覚がうすれていき暗闇に包まれて、

 時間の感覚もなくなり、どれだけ経過しているのかも分からない。

 大きなブラックホールに落ちたような、そんな感覚だろうか。


 『もう、このままでいいんだ……』


 カレは漆黒の闇と同化するような、

 そんな感覚を受け入れようとしていた……。




【次話】 ∽

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