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カタチなきセカイへ  作者: ツカサマコト
前章
10/36

心の火種


 そうこうしていると季節は夏を迎えた。


 そんな夏のある日。


 彼はサークルのイベントで今度花火をするからと、

 その花火をやる公園が近くにあるという事だけで、

 花火の買い出しを頼まれていた。


 なんで花火の買い出しをさせられているのか、

 少し不満そうに買った花火を持ちながら夜道を帰宅していた。


 「そういえば、花火をやる場所はこの坂道の上にある公園か……」


 何気なくちょっと下見でもしてみようとその公園に寄り道をした。


 公園には広く噴水もある広場がある。

 噴水のある広場では噴水の水もだが、

 燃えそうな木や建物も遠くにあるので、

 ルールを守れば花火をすることが許可されていた。


 その為、夏といえば花火という事でサークルの一部メンバーで、

 花火をしようという話になったのだが、

 彼は、まさか買い出しを一人でやらされるとは思っていなかった。


 夜の公園。人もあまりいないようだ。

 彼は噴水の前まで来た。


 街灯などである程度、夜とは言え多少明るいようだ。

 噴水に面して少し距離が離れた所にベンチがあった。


 あまり人がいないと思っていたがベンチには、

 1人誰か座っている人影があった。


 空を見上げているが、どこか寂しげな雰囲気を彼は感じたので、

 あまり人もいないようなので変なことが起こらないか万が一の事も考えながら、

 注視しながら公園を出ようとすると空を見上げていた人が顔を下に向けた。


 よく見ると……女性……。

 いや……。そこにいたのは彼女だった。


 彼女もこの近所なのだろうけど、

 まさかこんな所にいるとは。


 彼とは違いよく見ると彼女は下見にきたような雰囲気ではまったくなかった。


 下を向いた彼女はすごく重い空気感で、

 深刻そうに落ち込んだような表情だった。


 そんな夜の公園で深刻そうにしていたい彼女が心配で彼は声をかけた。


 彼女の話を聞くと彼女の家族の話になった。


 幼い小学校1年生の頃に両親は事故で亡くしていて、

 最近は祖母と一緒に暮らしていたけれど、

 その祖母が亡くなってしまったのだそうだ。


 都会から祖母の田舎に移って小学6年生の頃までは暮らしていたが、

 そこから祖母の病気が悪くなって治すために田舎から、

 都会の病院に一緒に移ってきたので、

 元々それなりに覚悟をしていたはずだったが、

 やっぱり、ひとりぼっちになったことがショックだという。


 なんでこんな公園にいるか聞くと、

 昔に両親を亡くした時、

 公園にいた時に見ず知らずの人が状況を良く分からないだろうけど、

 元気づけようとしてくれた事があるのだそうだ。


 その時の事を思い出すので、公園にいると少し落ちつくそうで、

 彼女は昔から少し寂しいことがあると、

 よくこうして公園で過ごしていたのだとか。


 いつも明るい彼女からは想像していなかった。

 かなり重い話だった。


 彼女の明るさは、

 そういう悲しい過去の暗闇をはらうような所からきた明るさだったのだろう。


 彼女の話を聞いて、

 自分の事ばかり話をさせるのは思い出させることばかりだろうから、

 少し似た生い立ちに彼も自分の家族の話しをしだした。


 彼も幼い時に良くは覚えていないが、とある事件で両親は失くしていた。


 彼女とは違い両親を亡くしたことに対してあまり覚えていないが、

 彼には親戚はいなかったので、一度施設で生活していた。


 それから小学校に入る前のこと。

 養子として今の義父おじさんの所に引き取られた。


 あまり覚えていないが最初は赤の他人。

 あまり話もしなかったらしい。

 彼が今も人見知りなのは、その時の名残なのかもしれない。


 ずっと気落ちしていた感じだった幼い時の彼に義父おじさんは、

 何を思ったのかパソコンとプログラミングの先生を連れてきたそうで、


 何が楽しかったのかは自分でも分からないが、

 その時はただ黙々と教わることを覚えていたそうで、

 その時の何となくの興味のまま、

 今も何となくプログラミングを彼は続けていた。


 彼はあまり言う機会がなかっただけかもしれないが、

 そんな過去の話を始めて人に話した。


 そんな少しお互いに重い話になっていたが、

 彼も話す話題もなくなってきていた。


 その時だ。思い出したかのように彼が言う。


 「そうだ。花火でもしない」


 彼が持っていた大量の花火を思い出して彼女に見せると、

 それ全部というような疑問の表情を見せた。


 「あっ……。いや……。これは後日にここでやる予定の花火用だけど、

  線香花火があるからそれくらいなら、また後で買っておけばいいから」


 疑問の表情を見せる彼女にそう言うと、

 彼女の疑問の表情はなくなったが少し遠慮した感じで、

 大丈夫というそぶりを彼女が見せるので、

 理由づけにある話を彼がする。


 「線香花火は名前の通り線香の香りもして、

  その線香の香りと花火の火で、

  悪い邪気を浄化してくれるとかも言われているんだよ。


  あと線香花火の燃え方には、

  蕾、牡丹、松葉、柳、散り菊というのが段階的にあって、


  人生を表しているそうだから、

  亡くなったお祖母ちゃんも守護霊として見守っているかもしれないし、

  とにかく気分転換にやってみようよ」


 彼の熱量に負けて、

 彼女は線香花火をやることに納得してくれた。


 「火を使うからここだと危ないから、

  水のある噴水の前に行こう」


 彼女と噴水前の所に座ると彼女の線香花火に火を付ける。

 その後、彼は自分の花火をとると


 「火、貰うね」


 彼女の花火を火種にして彼の線香花火にも火を移した。

 2人の線香花火は、確かに段階的に燃え方が変化していた。


 彼女の線香花火は、

 火の玉が勢いがある時に火種は落ちてしまった。


 「でも、ほらまだこっちはあるから」


 そう彼が言うと一緒に同じ花火をみる二人。

 彼の火種は最後まで燃えて地面に落ちた。


 彼の花火が地面に落ちると彼と彼女の視線が合った。

 目と目があったことで思わず、

 彼はドキッとして後ろにのけ反り、

 そのまま後ろの噴水に落ちてしまう。


 「うわぁ~冷た~!」


 それを見た彼女は彼を見てすごく笑っていた。

 彼にしてみたら笑い事ではない状況だったが、


 「いや……ちょっと笑わないでよ……ビショビショなんだから、

  でも……少しは元気が出たみたいだから良かったよ」


 濡れたことで普段は明るい彼女が少し戻ってきたのなら、

 恥ずかしさはあるが濡れがいはあったと彼は思うことにした。


 「フフフ。

  これから気持ちが暗くなりそうな時は、

  この事を思い出しますね」


 そう彼女は笑いながら彼に言う。


 「いや……早く忘れてほしいけど」


 さすがに彼もずっとこのことを覚えられているのは恥ずかしいので、

 照れくさそうに彼女にそう言うと、


 「そういわれても……。

  一番衝撃的な新しい思い出だから……。

  これから別の新しい思い出で上書きしてくれないと無理ですね」


 すごく楽しそうに彼女はそう答えた。


 また少し、彼女の過去や不安な一面などを知れたことで、

 彼の心の火種は燃え盛るように揺らめいていた……。



【次話】 聖夜の想い


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