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第019話 ドラゴンバスター


「おっきいなぁ」

 トーマは空からアンデットドラゴンを見下ろしている。はじめてみる巨大生物ドラゴンの圧倒的な存在感に、男の子の心を鷲掴みにするそのカッコよさに、感情の起伏が滑らかなトーマも興奮を隠せなかった。


 長きに渡り姿を現さなかったことで、人の世界ではもはや伝説の存在となりつつあったドラゴン。

 不死者の王(リッチー)と並びこの世界に君臨する超越者。

 生き物の姿をした天災に、王都は蜂の巣をつついたような大混乱に陥っている。


 そんな中でトーマの冷静な部分がドラゴンの力を見定める。

 タヒネほどではない。特訓の際に、本気を見せたタヒネと対峙した時に受けたような、格の違いを思い知れるようなプレッシャーはない。ドラゴンの中でタヒネに匹敵するのは最古の古龍(エンシェントドラゴン)だけだという。眼下の骨だけドラゴンの力はタヒネの半分ほどだった。


『グギョアァーー!!』

 アンデットドラゴンが咆哮を上げると、王都に向けてブレスを放った。

トーマは慌てて『深淵の陰幕』をドラゴンゾンビの前に展開した。ブレスは見えない幕に吸い込まれ消え去った。

 トーマを狙った攻撃ではないが、ドラゴンが甦ったのはトーマの死神体質のせいだ。ドラゴンに好き勝手に王都を破壊させるわけにはいかなかった。


(ふう、危なかった。そうだ)

 トーマは『深淵の陰幕』を器用に操作してアンデットドラゴンを包み込む。ブレスのようにドラゴンも消し去れるのか一応は試してみる。


 アンデットドラゴンが大きく首を振る。その瞬間、『深淵の陰幕』は消し飛んだ。

(やっぱりダメだったか)

 他にも試してみたい攻撃がいくつもあったが、ルカから関係ない人や街に被害を出さないようにと念を押されているため諦める。

 いくらドラゴンとはいえ、アンデットなので、トーマにとっては倒すだけなら簡単なことだ。必要なのはいつもの草刈り鎌。しかしトーマはまだそれを持っていない。


(さてと、ルカさんはどこかな)

 トーマは地下牢からの脱出に転移魔法を使った。転移魔法で侯爵邸のエリックの部屋に飛び、エリックとティックを置いてきた。ドラゴンが出てくるとわかっていたらもっと離れた場所に送ったのだが仕方がない。

 それからトーマはルカの薬店に行った。置いてきた草刈り鎌を取りに寄ったのだ。しかし、草刈り鎌はなく、ルカも留守だった。


(ドラゴンが邪魔だな・・・)

 アンデットドラゴンから発せられている巨大な圧力で、トーマはルカの気配が探せなかった。それでトーマはしかたなく空から目視でルカを探している。ルカの薬店から王城までの間にはいなかった。


 アンデットドラゴンの後方で何かが動いたような気がした。トーマは注目する。

「あっ、ええ!」

 トーマが見たのは瓦礫の陰から飛び出し、アンデットドラゴンに向かって走っていくルカだった。両手いっぱいに何かを持っている。

 トーマは急降下する。


「これでも食らいやがれー! 」

 誰にも見られていないと思っていたルカは少々品のない言葉と共に、麻酔薬の小瓶をまとめてアンデットドラゴンの足元に投げつけた。一帯に麻酔薬が漂う。しかし、アンデットドラゴンはまったく気にしていない。


「ちっ、ダメだったか・・・」

 自慢の麻酔薬が何の効果も示さないことに、舌打ちするルカ。ルカは苛立ちまぎれに残りのすべての麻酔薬を背負い袋ごと投げつけた。

 それでもアンデットドラゴンには効果がなかった。



 トーマは着地するとすぐにルカを抱え上げ、再び安全な位置まで急上昇する。

「あぁっ、トーマ、探してたんだよ」

「ルカさん!何を無茶なことをしてるの」

「ちょっと薬の効果の検証をね。ドラゴン相手に検証できるなんて、こんな機会なかなかないからね。でも、まったく効果がないとは。あっ、トーマにも効いてないね。私の薬もまだまだだなぁ。

 そうそう、トーマにこれを持ってきたんだ。はい」

 ルカはトーマに抱えられた状態で、器用に腰に固定していた草刈り鎌を取り出し、トーマに差し出した。

「うん。ありがとう」

 トーマは両手で抱えていたルカを左腕に持ち直し、右手で草刈り鎌を受け取ると、眼下のアンデットドラゴンむけてサッと鎌を振った。


 鎌から出た見えない波動でアンデットドラゴンの魂は容易く刈り取られる。超越者でも抗えない、この世の理の外にある力。

 瓦礫の下で生き残っていたアンデットがいたとしても、今の一振りでまとめて退治されただろう。


 アンデットドラゴンは断末魔の咆哮を上げる事さえ出来ず息絶えた。突然、生命力を喪失した巨大な骨はバラバラに崩れ落ちた。

 そして、アンデットドラゴンから放出された膨大な生命力はトーマに吸収された。


     ◇     ◇     


 剣を振り上げて走る国王の背中を追うディラム。その後ろには仲間たちが続いている。

 ディラムは腹をくくっていた。

 なんでこんなことになったのか、今更考えても仕方がない。

 英雄に祀り上げられたのも何かの間違いだった。そんなことはもうどうでもいい。王都に住んでいる多くの住民たちのために、目の前の化け物から少しでも多くの者たちが少しでも遠くまで避難できるように、出来る限り時間を稼がなければいけない。


 ディラムたちの接近に気が付いたアンデットドラゴンは不機嫌な咆哮をあげた。

 心臓が震える。

 空っぽの眼孔がどういうわけかこちらを確認したのが理解できた。

 口を大きく開らかれる。

 アンデットドラゴンはブレスを吐いた。


「俺たちは、少しは役に立てたのかな」

 ディラムは死を覚悟した。

 もちろんブレスを浴びた経験などない。だが、それが人の身で耐えらえるものではないことだけははっきりとわかった。

 ディラムの視線の先で、国王は怯まず剣を振り上げていた。


 次の瞬間、ブレスが消え去った。何か見えない壁に、聖なる守りに掻き消されたかのように。

(ええっ!! このおっさん本物なの!!! )

 目の前で起きた奇跡。

 ディラムは仲間たちを振り返った。みんな目を見開き声も出さずに驚いている。奇跡が自分の見間違いでないことをディラムは理解する。

 国王は走り続けている。

 ディラムたちはその背中に続く。


「邪悪なるドラゴンよ。この場に余がいたことがお前の誤算であったな。この国に害をなす如何なるものも、この余が打ち砕いてくれようぞ」

 国王がドラゴンに剣を突き示す。


 アンデットドラゴンが目に見えない何かを嫌がるかのように首を大きく振った。

(本当に?本当にいけるのか?おっさん、本物なのか!!! )


 唐突に、ディラムの意識が飛んだ。

 ヴァーニー、アレクス、エマ、国王もほぼ同時に気絶した。




 ディラムは目を覚ます。頭がぼんやりとしている。見知らぬ騎士に上半身を抱えられている。

 空は暗い。周囲は歓声に包まれている。

「みんなは! うッ」

 ディラムは頭痛に顔を顰める

「安静に、陛下も仲間たちも全員無事だ。よくやってくれた!」


「えっ」

「ほら、あれを見ろ」

 ディラムはその騎士が示した方に視線を動かした。

 王城の瓦礫の上。ついさっきまで甦った巨大なアンデットドラゴンがいたはずのその場所に、アンデットドラゴンの巨大な骨が山積みになっていた。



「おお、目を覚ましたか。此度はよくやってくれた。本当によくやってくれた。よくぞ我が国を救ってくれた。救国の英雄ディラム殿が、ドラゴンバスターになれられたとは。今後も変わらずこの国を助けてくれますよう、お願い申し上げる」

 ディラムに言葉を掛けたのは軍務卿だった。

「いえ、私たちは何もしていない。ドラゴンを倒したのは陛下です」

 軍務卿はディラムの言葉を謙遜だと受け取った。

「いやいや、ディラム殿、言わぬともわかっておる。アンデットドラゴンを倒したのは陛下、ディラム殿、ヴァーニー殿、アレクス殿、エマ殿の5人である。5人の功績であり、5人がドラゴンバスターである」

 軍務卿をはじめ国王を知る者たちは国王がアンデットドラゴンを倒したとはまったく考えていなかった。アンデットの軍団を退治した救国の英雄たちがまたやってくれた。そう信じている。

「しかし・・・」

「今はまず休まれよ。王城は倒壊してしまったが、最高の宿屋を用意してある」

 軍務卿の指示で、ディラムたち4人は運ばれていった。



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