表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/22

第018話 甦ったもの


 地震? 王都の住民たちは揺れを感じた。

 小さいがなかなか収まらない。

 何かおかしくないか? 次第にそう考えはじめる者が増えてくる。小さい揺れはいつまで待っても収まらない。


 そしてその揺れは徐々に、けれど確実に大きくなっている。

 住民たちは、家から出て辺りを見渡す。そのうち通りはたくさんの人たちで溢れる。

 王城の方から揺れが伝わってくる?

 揺れはまだ収まらない。



 震源地の王城にいる者たちもすぐに揺れに気が付いた。だが王城はそれよりも前に既に火をつけたような騒ぎになっていた。

「キャーー」

「アンデットだ! 」

「アンデットが沸いてくる」

 地下から、地面から、数えきれないほどのアンデットが湧いてきた。その急報は瞬く間に城内を駆け巡る。

 王城とはいえ、夜間であり、詰めている兵士の数が少なかった。外からの攻撃なら分厚い城壁と門が防いでくれるが、内側から、地面の下からアンデットの大群が湧き出てくるなど想定外の出来事だった。

 潔く城を捨て、城外の兵が終結した後に城を奪還する。それが最善の手に思えた。

 国王の判断により、直ちに城外への避難がはじまる。

 ハンターギルドへ、兵士たちのいる兵舎へ、救援を求める伝令が一斉に走った。


 王城に詰めていた騎士たちは果敢にアンデットたちに立ち向かい、すぐに気が付いた。理由はわからないが、湧き出てきたアンデットたちは王城の中に吸い寄せられるよう移動している。王城の外に逃げ出す人たちを追おうとするアンデットは皆無だった。


 そこで、数少ない騎士を筆頭に、兵士や門兵までが協力し、なんとか城内から城外への逃げ道だけを死守する作戦を取った。

 その甲斐があり、城にいた者たちはほとんど犠牲らしい犠牲を出さずに逃げ出すことに成功した。ルカの麻酔薬で倒れていた兵たちも、城外に運び出された。



 城をぐるりと取り囲んでいる壁の外側、開け放たれた門から中の様子見つめる国王。

「いったいどうなっておるんじゃ」

 眼前では今も次々とアンデットが沸き上がり、王城の中に吸い込まれていく。

 国王の隣な立つ宰相が半信半疑ながら口を開く。

「まさか教会の要請で捕え地下牢に入れていた少年たちが、この事態を引き起こしたのでしょうか。聖女が見た悪魔だということでしたが」

「悪魔など・・・そんなものが本当に存在したというのか」


 そこへ屋敷で急報を受けた軍務卿が駆け付けてきた。地面が大きく揺れている中、馬で駆けてきたその腕は一流の騎士のものだ。

「陛下、御無事でなりよりです」

「これを引き起こしたのは、そちの息子たちか? 」

 国王からの突然の詰問に軍務卿は驚く。

「決してそのようなことはございません。これは人の身が成せることではありません」

「死を呼ぶ子、黒髪の忌み子がいた。教会はその者が聖女の見た悪魔だというではないか」


「陛下。黒髪の忌み子など、迷信でございます」

「現にこのようなことが起っているではないか! お主はこれを偶然だとでもいうのか! 」

 国王の怒声に、軍務卿は怯まない。

「はい。偶然でございます」

 国王は軍務卿を睨みつける。


 一触即発の事態に宰相が口を挟む。この緊急事態に国王と軍務卿が仲違いする事態は避けなければならなかった。

「陛下。この度の事態、軍務卿も被害者でございます。軍務卿の息子は黒髪の忌み子と伴に地下牢に入っておりました。このような状況となってはもう生きておりますまい」

 宰相の言葉に軍務卿は目を伏せた。

「・・・そうじゃったな」



 地面の揺れが急激に激しくなり、立っているのも覚束なくなる。

 王城の外壁が崩れ始める。

 それほど間を置かず、2つの塔がぽっきりと根元から折れた。大きな音を立てて崩れ、周囲は砂ぼこりに包まれる。

 尻もちをついた国王に反射的に軍務卿が体を被せ、飛んでくる破片から国王を守った。

 その行動に国王と宰相は軍務卿という男の性根を思い知らされた。

 いつもの軍務卿なら当然そうしただろう。しかし、軍務卿は国王から叱責を受けたばかりだった。それでも主君のために迷わずその身を盾とする。正しく騎士の鏡。エリックの父カール・フォン・イケントー侯爵とはそういう男であった。


 揺れは更に激しくなり、もはや立っていられる者のほうが少数だ。

「退避! 」

「退避しろー!城が崩れるぞー!! 」

 人々は這うように、少しでも遠くへと必死に逃げる。

 ついには、王城が崩壊した。

「退避!!! 」

 轟音と絶叫の中を逃げ惑う人々で大混乱になる。1つだけ幸いなことに、王城の崩壊で飛び散った瓦礫の大半は分厚く高い城壁が防ぎ、周辺への被害はほとんどなかった。



 そして、地面の揺れは急速に収まる。

 月明かりの下で土ぼこりがゆっくりと落ち着いていく。

 人々は動きを止め、王城があった辺りを見つめていた。土ぼこりの中、巨大な影が見える。はて、王城は崩れ落ちたはずだが・・・。


『グギョアアァァーーーーー!!!』

 魂を奪われるような咆哮が王都の大気を揺らした。

 王城だった瓦礫の山の上に巨大なドラゴンが立っていた。肉も皮もない骨だけのドラゴン。


「アンデットドラゴン」

 軍務卿が呟くようにその名を吐いた。伝説のドラゴン、それもアンデットとなったドラゴン。

 このような怪物の存在は知られていない。その名も軍務卿が適当に呼んだだけだ。


「まさか、初代様が倒したというドラゴンが甦ったとでも言うのか・・・」

 この国は初代国王が倒したドラゴンの上に王城を築いたのがはじまりだとされている。数千年も前のおとぎ話で、それを真実だと本気で考えていた者はいなかっただろう。

 現国王さえもその立場上信じている振りをしていただけで、本心から信じていたわけではなかった。


(建国の物語は史実だったのか。余はドラゴンバスターの血を引く男だったのか・・・)

 国王は自分の両手を見つめ、場違いな興奮を覚えていた。

 剣の才能などないと思い込んでいた。剣術の鍛錬は子供の時でやめてしまった。しかし、この手にはドラゴンバスターの才能が受け継がれている。


「陛下、急いで非難を! 」

 軍務卿が国王に進言する。あれは、人の身で勝てる相手ではない。

「王城を破壊されて、おめおめと逃げ出せと言うのか! 」

 ドラゴンバスターの血を引く男、強気である。

「此度は完全に不意を突かれました。何の対策もなくただ闇雲に戦いを挑んでも犠牲が増えるだけです。ここは一旦王都を捨て、体勢を立て直した後にドラゴン討伐の兵をあげるべきでしょう」

「陛下、軍務卿の仰る通りです。アンデットと戦うに夜を選ぶ道理はありません」


「・・・わかった。余の護衛は騎士1人だけでよい。他の者はすべて軍務卿の指示に従い王都の住民を一人残らず避難させるのだ! これは王命じゃ。一刻の猶予はない急げ! 」

 日頃、玉座で見せていた安穏とした雰囲気はそこにはなかった。緊急事態にも身の危険を顧みず民のことを考える賢王。

 その言葉を聞いた者たちは自然と首を垂れていた。

「「「「御意! 」」」」


 みながそれぞれの役目を果たすべく立ち去った後、国王は護衛に残った騎士の腰にある剣を見つめ、にんまりと笑う。



「陛下、お急ぎを」

 退避を急かす騎士に対し、国王が変なことを口走る。

「その腰の剣を貸してくれ」

「はっ?」

 つい素が出てしまった騎士。それを咎めることなく、国王は繰り返す。

「剣を貸せ。早くするのだ」

 国王からの命令。騎士は渋々騎士の命ともいえる剣を抜き、国王に手渡した。

「うむ。思っていたよりも重いものじゃの」

 本物の剣を手にしたのははじめてだった。

「はあ」

 国王が何をしたいのかよくわからない。


「では、ついてまいれ」

 国王は剣を振り上げ王城にむけて走り出す。かなり離れてはいるが、その先にはもちろんアンデットドラゴンの姿がある。

「陛下! 」

「何をする! 」

 国王の奇行に騎士は思わず国王の肩を掴んでいた。


「失礼いたしました、陛下。しかし、退路は反対でございます。あちらにはアンデットドラゴンがおりますれば・・・」

「そんなことはわかっておる! ドラゴンバスターの血を引く余がアンデットドラゴンを打ち取りに行くのだ! 」

「はああっっ!!!」

 変な声を上げてしまった騎士だったが、そこはただ1人の王の護衛に選ばれるだけの騎士、すぐに気を取り直し、自分が成すべき役割を果たす。つまり、その体を張って乱心した国王を止めた。


「こら、何をする。離さぬか! 不敬であるぞ! 」

(私の制止すら解けない者が、何をどう考えたらアンデットドラゴンに勝てると思えるのか)

 騎士は暴れる国王を羽交い絞めにしながら途方に暮れていた。



 そこに走ってきたのは、王城にアンデットが出たという急報で駆け付けてきたディラム、ヴァーニー、アレクス、エマの4人。

「おお、その方たちか。よく来てくれた」

 国王がディラムに声を掛ける。墓場でアンデットの軍団を退治した英雄たち。天が余に力を貸した。国王は勝利を確信する。

 救国の英雄たちの登場で、騎士はとりあえず国王を離した。


「これは陛下・・・アンデットが出たという連絡でしたが・・・」

 王城は跡形もなく破壊され、その瓦礫の上にいるのはアンデットドラゴン。

「アンデットのドラゴン?」

 エマは遠目にも巨大なその姿にすでに腰が引けている。前衛のはずのヴァーニーとアレクスは、何故かエマよりも後ろにいる。


「そうじゃ、アンデットドラゴンじゃ。初代様が倒したドラゴンがアンデットとなり甦ってしまったのじゃ。

 救国の英雄であるそちら4人が一緒なら心強い。このドラゴンバスターの血を引く余と共にあれを打ち取ろうぞ! 」

「「「「ははあああっっ!!!!! 」」」」

 ディラムたちの絶叫を尻目に、国王は剣を振り上げる。


「陛下!」

 素早く出した騎士の手をふいっと避け、国王は走り出した。

「お前たちも余に続け! 」

「陛下、お待ちくだされ。・・・何をしているお前たち、早く陛下を追わぬか! 」

 騎士に急かされ、意味が分からないままアンデットドラゴンに吶喊(とっかん)するディラム、ヴァーニー、アレクス、エマの4人。

(これ、死んだな)

 ディラムは剣を振り上げる




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ