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第013話 友達

 屋敷の前に到着し、馬車から飛び降りたエリックは父親の元に駆け寄る。飛び込んだエリックの身体を、金髪の偉丈夫が軽々と受け止める。そう、エリックはお父さん大好きっ子であった。

「おお、エリック。やはりお前の馬車だったか」

 2人の様子をトーマとティックは馬車の傍から見ている。


 カール・フォン・イケントー侯爵はトーマとティックに視線を投げた。イケントー侯爵はトーマの黒い髪にほんの少し驚いたが、誰もそれには気が付かなかった。

 大慌てで深く頭を上げるティックとそれを真似るトーマ。慣習にも疎いという自覚があるトーマは、場の雰囲気に合わせるようにしている。侯爵閣下を前にしても自然に頭が下がったりはしない。


「父上。ご無事で何よりです。ちょうど学園から戻った所でした」


「うむ。それで、先ほどの土魔法は、そこの少年が私を助けてくれたということだな」

 イケントー侯爵は久しぶりに見るティックの顔を覚えていた。魔法を使ったとすればもう1人の少年に違いない。

 黒髪の少年。王宮薬師長から頼まれ便宜を図った少年だ。どうせならと息子のエリックと同じクラスになるようにさせたが、まさかこんなも早く直接会うことになるとは考えていなかった。しかし、あの時の話では薬師ルカの弟子で薬師見習いだったはずだ。魔法が使えるという話は聞いていない。


 トーマは頭を下げたまま、無駄だとわかりつつ聞こえない振りをする。まずい。とってもまずい。侯爵相手に嘘をついたら罪になるのだろうか。不敬罪ってどんな罪だったっけ?トーマは少し混乱していた。


「何のことでしょうか?トーマは私の馬車に乗っていましたが、何もしていませんよ。それにトーマは薬師見習いで魔法は使えません」

 エリックは涼しい顔で父親に嘘をついた。

 トーマには何か事情があるらしい。父親を助けてもらったのだから、今度は自分がトーマを助ける番だとエリックは考えた。

 エリックに庇われたトーマの表情はわかりやすく変化したが、頭を下げたままだったので誰にも見られなかった。よかった。


 イケントー侯爵は考える。息子の説明は聞いていた通りのことだ。そして、息子が嘘をつく理由はない。

 魔法使いは、賊から侯爵を守ったのだから大きな功績になる。自慢することはあっても隠すようなことではない。

「それじゃあ、誰が()()()()()魔法を唱えて、私を助けてくれたというのだ」

 イケントー侯爵は独り言のように呟いた。

 そして、自身の発した言葉の意味に気が付く。あれほどの魔法を放つには相応の詠唱時間が必要になる。馬車が迫ってからこちらの状況を知った息子たちには間に合わない。

無詠唱で瞬時にあれほどの魔法が放てる者がいるとは、侯爵の想像にも上らない。




 忙しいイケントー侯爵とは別れ、トーマとティックはエリックの私室に案内された。

「で、どういう理由なの?」

 あぁー、やっぱり聞かれるよね。と思いながらも、トーマは潔く説明した。もちろん人間に話しても問題なさそう事だけをアレンジして。


「つまり、トーマは地元にいた引退した魔法使いのお爺さんに小さい頃から魔法を習っていて、()()()()魔法が使えるけど、あの薬師ルカに弟子する時の条件として、回復薬作りを習っている間は魔法を使う事を禁止にされているってわけなんだね」

 エリックの言葉にコクコクと頷くトーマ。

((ウッソだー!))エリックとティックが心の中で突っ込んだ。あんなすごい土魔法を、それも無詠唱で使えてそ《・》()()()なわけがない。


「まあ、それでいいよ。トーマ。父上を助けてくれてありがとう」

「どういたしまして。あっ、それでさっきは嘘をついてくれたんだ」

「トーマが魔法のことを秘密にしたそうにしているのはわかってたから。それに友達だからな」

(えっ、友達なの?)トーマはエリックの返答に心の中がガッツポーズをした。ルカの宿題クリアーである。


「でも、襲われるなんて、エリックのお父さんに何があったの?」

 ティックが聞いた。

「ううん。わからない。でも、父が命を狙われるなんてはじめてのことだ」

(あっ、もしかしてエリックとティックは事故じゃなくて、事件に巻き込まれる?

 ということは、僕が魔法を使わなくても侯爵は逃げきれていたってことなのかな。失敗したかも)

 それで、イケントー侯爵への襲撃に失敗した犯人たちが、息子を人質にと考える。十分にありそうな話だ。


「えっと。襲撃に失敗した犯人はもう諦めるのかな? 」

 トーマは否定してもらうために質問した。

「トーマくんは知らないかもしれないけど、侯爵様は軍務卿を務めていてとっても偉いんだ。襲撃するなんて余程の理由だろうから、簡単に諦めたりはしないと思う」

 そう言ったティックは、エリックの顔色を覗う。

 イケントー侯爵家は代々王国の武門の要職を預かる名門だ。エリックも将来は父上のような立派な騎士になることを夢見ている。


 エリックは少し悩んだ後、何かを決意したように言い放った。

「こうなったら、僕たちが父上をお守りしよう! 」

 エリックはトーマとティックの手をがっしりと掴む。10才の男の子、それも貴族としての建前教育を持ち前の真っすぐな心で受けてきたエリック。その心は使命感に熱く燃えていた。

「ええぇーーー!!!」

 絶句するティック。

「なんだティックは反対なのかい?」

 ティックのもっともな反応をエリックは不思議がる。


「エリック。反対というわけじゃないけど、子供だけじゃ危ないよ」

 商家の息子であるティックは、現実的な判断が出来る子であった。

「トーマの魔法がある。僕も剣の鍛錬は毎日欠かさずやってるんだ。父上を襲う賊はこの手でやっつけてやる。トーマもティックもいいね?」

 エリックが楽しそうなことを言いだした。トーマは弾んだ心で頷く。

 特異な環境で育ったといえ、10才の男の子。タヒネやルカから新しいことを教わる時とは違う、別の種類のわくわく感がトーマの背中を押した。それに、エリックとティックの傍にいられるなら明日は2人を守りやすくなる。


「ティックもいいね?」

「わかったよ」

 承諾したティック。そして、一度やると決めたことにはティックは全力を尽くす。中途半端が一番悪い、それがやり手の商人である父親の教えだった。

「じゃあ、まずは名前を決めよう! 」

 名前?何の?ポカンとするエリックとトーマにティックが説明する。

「有名なハンターのパーティーには名前をついてるもんだよ。僕たちもかっこいい名前をつけないと」

10才の男の子にとって、かっこいいは全てを征する。


「うん。それだ! 名前をつけよう。かっこいいやつ」

 ガバっと立ち上がったエリックに釣られてティックとトーマも立ち上がる。

「こういうのは直感が大切なんだ。せーので3人一斉に頭に浮かんだ名前を言う。いいね」

 ティックの言葉に真剣に頷くエリックとトーマ。

「じゃあ、いくよ。せーのっ! 」


『聖なる(つるぎ)! 』

『冥府からの使者! 』

『ドラゴンバスター! 』


((なんか1つ変なの混ざってた!? ))

不死者の王(リッチー)に育てられたトーマの感性はかなりズレている。ルカのいうタヒネ病の症状の1つである。

「じゃあ、エリックの案『聖なる剣』で決まり。トーマくんもそれでいいよね!!! 」

 勢いでトーマの発言をなかった事にしようとするティック。トーマもつい頷いてしまった。


 この日は、名前だけを決めて解散となった。あとの事は、明日学園で話し合おう。そう約束してティックとトーマは意気揚々と侯爵邸を後にした。



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