第000話 プロローグ
よろしくお願いします。
これはプロローグだけなので、1話も今日中に掲載します。
突然ですが、みなさん死神の死因第一位ってご存じでしょうか?
えっ、死神なのに死ぬのか? ですか。
もちろん死にますよ。
大仰に“神”ってついてますが、神じゃありませんからね。
単なる小間使いですから。私たち死神って。
死神の死因第一位は、断トツで“過労死”です。
ダブルスコアどころではありませんよ。
それはもう圧倒的です。
いわゆるブラック企業。この業界、ユニフォームからして黒いですからね。
ウルトラブラックです。まっ黒黒。暗黒です。
飛び込んだら光でさえ出てこれませんよ。
それに、知ってますよね? 世界ってネズミ算式にどんどん増えていっているんです。
異世界もの、どこかで流行ってたりもしているようですしね。
ネズミ算ですよ。恐ろしいです。
どこかって言っても、実は私が前に担当した世界だったんですけどね。
つまり、予定通り過労死させられた世界です。
恨みはありませんよ。本当に。それが死神の普通の死に方ですから。
ちなみに世界といっても全部じゃありませんよ。私が担当していたのはその世界のほんの一部。表面積的には小さいくせに、数が詰まっててね。島国。
思い返しても本当にキツイ世界でした。
何がキツイかって?死神にとって単純にキツイといったら数ですよ。それがすべて。
あの世界、知的生命体が多過ぎるんですよね。
知性の低いのはね。あんまり彷徨ったりしないんですよ。
彷徨うような魂ってのは、一定以上の知性がある魂だってね。これは統計できちんと出ていますから。
知的生命体が多くても文明レベルが高くなれば落ち着いてくるんですよね。死ななくなるから。
あの世界は中途半端でね。一番キツイ状態でした。
数が多いわ、平均寿命は短いわ。1年365日、1日24時間いつもてんやわんやでしたよ。
えっ単位?
ああ、うっかりしてました。その世界の単位。
どうしても癖が付くものでね。骨にでも染み付いているんでしょうかね。
次の世界に移される前にはきちんと抜いておかないといけないんですけど。どうしてもしばらくはね。
つい話が逸れましたけどね。というわけで、世界はどんどん増えているんです。
ところが予算不足で死神は増えないとくれば、それはもう過労死してくださいってもんですよ。
パカスカ世界を増やすんだから、その世界を創造する予算の内のほんの少しを回してもらえたら、死神なんていくらでも増やせるはずなんですよね。帳簿上は。
上の考えることはわかりませんが、思考回路が根本的に違うんでしょうね。
あとは管轄の問題かもしれませんね。いわゆる縦割りですから。
ちなみに、第二位は“不慮の事故”だったかな。
よくありますよね。
交差点を歩いていたらよそ見運転のダンプカーに跳ねられるとか。
あとは細々とした死因が続きます。
寿命?自然死?なにそれ美味しいの?
長生きの死神って、伝説上の存在というか、もはや架空の、フィクションですよ。
そもそも
死神ついては大丈夫ですよね?
たまにミスして目撃される奴がでますからね。
もちろん始末書です。
繰り返したら降格処分もありえます。気を付けないといけません。
極稀に自分から出ていく目立ちたがり屋さんもいるらしいですけどね。
職業倫理を疑っちゃいますよね。
同僚とはいえ、お友達にはなれないタイプです。
ええ、そうです。黒い襤褸を纏った骸骨です。
たまにカッコいいからって馬に乗ってるやつもいますけどね。
実はあの馬、自家用なんですよ。個人物品。大変だよ。ブラッシングは毎日だからね。
ええ、大き過ぎる鎌はもちろん持ってますよ。
商売道具ですからね。
あれを一振りすると、魂が刈り取れるっていう例の大鎌です。禍々しいやつね。
あれ、かなり重いんですよ。あれだけのサイズですからね。
1日に何回も何回も振らないといけないわけですからね。ええ、重労働です。
楽々と魂を刈ってるなんていう噂もあるんですけどね。
はっきり言って風評被害ですよね。まったく。
天使たちが故意に流しているという噂もあるんですよね。困ったもので。あれ?言ったらまずかった?このくらいは大丈夫だよね。えっ?ぎりぎり?
まあ、あっちも大きな組織ですからね。
私たちみたいなヒラにはよくわかりませんけど。
役職が上がっていくと、お互い色々あるようですね。
風評被害といえば、もっと深刻なのがありますよ。
これも天〇たちが故意にって、ゴホンゴホン
誤解されがちなんですけどね。
私たち死神って、その時死ぬ予定の存在からしか魂を回収できません。
予定のないやつの前で大鎌振っても、そいつが死んだりしませんからね。
何も起こりません。振り損です。
ああ、もう寿命だな、ってのをきちんと確認してから、鎌を振って魂を回収するんです。
死を迎える予定の存在が魂のみの姿で彷徨い続けるのを防ぎ冥界にお連れする、というのが死神のお仕事です。
“最高神に仕える農夫”で通ってたんですけどね。
いつの間にかね。やっぱり〇使たちのいんbギャフンギャフン
まあ、ともかく生死を司る能力とかそんな大層なものは与えられていません。
もうすぐ死ぬなって存在の周囲に黒い霧が見えるだけです。
それを確認したら、どっこいしょと重い大鎌をがんばって振る。そういう簡単なお仕事です。
ええ、知能の低いやつはね。もちろん黒い靄は見えますよ。
でも基本的に放っておいていいんですよ。あいつらはだいたいきちんと冥界に移動してくれますからね。
ええ、もちろん鎌を振れば刈り取れますよ。黒い霧がでてますからね。
でもさっきも言ったように統計がきちんとでてるんですよ。重労働ですからね。そこは効率よくやらないとね。
で、私たち死神が過労死でも不慮の事故でも、まあ死にますよね。
それでその世界でのお勤めは終わり。
目を閉じて、開けたら、次の世界に移っているってシステムです。
ちなみに、なんでもそのシステムは、超高性能の量子コンピュータだか光子コンピュータだかで管理されているそうですよ。あれですよ。AI。人工知能。
死神もAIに使われる時代なんです。よくわかりませんけどね。
まあ、どこも足りてないですからね。全自動という話ですよ。
それでね。おっきなディスプレイの前でね。
神様がにらめっこです。
超高性能でもって全自動ですからね。何も問題なんか起きないんですけどね。
誰もいないわけはいかないから。ずっとにらめっこ。大変ですよね。神様も。
というわけですから、私はそろそろ目を閉じますね。
じゃあ、機会がありましたら、またどこかで。
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同時刻。
とある場所のとある部屋。
とある神様がいつものようにおっきなディスプレイと一柱でにらめっこしていると、ちょっとそそっかしい女神がスイーツを抱えて遊びにきました。
「おっじゃまー。美味しいのもってきたよー。きゃっ」
どしゃー。
何かのコードに足を引っ掛けて盛大に転ぶ残念女神。
ディスプレイがブラックアウト。
「ちょー、おまーっ」
「何よ。まずは振りだけでも私の心配をしてくれないって神様としてどうなのよ」
「そんなんでも一応は女神だから転んだくらいで怪我するわけないだろ」
「一応じゃないわよ。れっきとした幸運を司る女神よ。暗いあんたなんかと違って大人気なんだからね」
「これどうすんだよ。消えっちゃったんだけど」
「あっ、これよ。ほら電源コードが抜けてるわ。これをこうして差し込めば問題解決ね」
「ったく。電源コードに足引っ掛けて転ぶ幸運の女神って」
「ほらほら、映ったわよ」
ディスプレイに流れる起動画面。
神の目でも追い切れない速度で流れる膨大な文字。
もちろん意味はわからない。
「・・・・・・・」
待つ。
「・・・・・・・」
待つ。
「・・・・・・・ふぅ」
「ほっらね。大丈夫だった」
「なんで偉そうなんだよ」
「じゃあ、ごめんなさい」
ペコリと頭を下げる幸運の女神。
「“じゃあ”は付けたらダメ」
エラー確認のためディスプレイとのにらめっこを再開する神様。
「元通りに戻ったんだからいいでしょ」
「あっ、ここ。おかしくなってる」
「えっ、どこよ」
「ほら、ここの一行。この死神。ああああっ、ステータスが転生待機中になってる」
「ホントだー」
「ホントだーじゃないぞ。どうすんだよ」
「AIが自動で修正してくれるでしょ」
「これは無理なやつだな。まったくの偶然だが辻褄が合ってるからAIが自動修正を入れないやつだ」
「それならそれで自分でちゃちゃっと書き換えたらいいだけでしょ」
「できねーよ」
不貞腐れる神様。
「えっ?」
できないの?ぷぷぷ
半笑いの女神。
「できるわけねーだろ。最新型だぞこれ。知識もないのに下手に弄ったら大惨事だぞ。専門家呼ばないと無理だなこれ。あームリムリ。絶対ムリ」
「ということは」
女神は恐る恐る確認する。
「ああ、始末書案件・・・・・
もしくは、みなかったことにするか。この死神が転生した世界。いわゆる剣と魔法のテンプレ世界だから。寿命は短い。初期設定だから、きちんと記憶は消えるだろうし、ギフトやチートも授けてない。これは問題なく死んでくれるパターンだ。死んでからこっそり死神に戻せばいい」
流石は幸運の女神様だね。
と神様と言えど、余計な皮肉を付けずにはいられない状況。
「えっ、何のこと?私何も見てないわよ」
「あっ、おまっ」
「わぁー、わぁー、なーにーもーきこえなぁーーーいぃーーーい」
両手で耳を塞ぎながら逃げ去る幸運の女神。
後に残された神様がディスプレイに目を戻すと、絶え間なく押し寄せる文字によりもう死神転生の一行は画面外に流れてしまっていました。
「まっ、しゃあねえな」
あっさりと何もなかったことにした神様。
何気なく視線を上げた神様の目にうつったのは、最新型AIにぶちまけられたスイーツ。
それはもちろん女神が電源コードに足を引っかけて転んだ際に投げたもの。
「幸運の貧乏神がぁっあああぁぁーーーっ!!! 」
「くしゅんっ」
自室で1人くしゃみをする幸運の女神。
「また誰か美しい私の噂をしているなぁ。いや、待てよ。もしかして・・・死神さん?
いやいや、バレるはずはない・・・ないんだけど。念のために、罪滅ぼしを。悪気はなかったんだけど、悪いことしっちゃったのは間違いないから。反省反省」
幸運の女神は両手を胸の前で重ね、目を閉じて祈りを捧げる。
≪幸運の女神の祝福≫を死神に授けた。