表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/86

番外編:04 孤独なる神の日常

※愛媛県の水道からポンジュースは出ません。

ナナシはやや窮屈さを感じていた。

というのも、強さを価値基準とする神々の世界において、彼女はまさに嫉妬の対象に他ならないのである。


彼女からしてみれば、家族が居て、友人が居て、知り合いも嫌いなやつも、自分ではない"他人"が居る彼等は、あまりにも恵まれているのだ。

自分の環境が恵まれていることに気づかず、それどころか他人に醜く嫉妬心を抱く。

ギリッギリで行動(ぼうりょく)に移さないレベルではあったが、彼女にとってそれは我慢ならないことであった。


もっと圧倒的な力を見せれば、

あいつら全員黙らねえかな。


ナナシはそう考えた。


どうやって見せつけるか。

単純な話だ。


ボクに喧嘩ふっかけてくる馬鹿をサンドバッグにすればいい。


時間遡行。

神々の中でも使える者の居ない、ナナシにしか出来ない技術。




喧嘩を吹っかけてきた……なんだっけ、たしかファなんとか……えーと……もうファで良いや。

ファが、手の中にナイフを創造する。


自分が勝てないだろうことは本能で分かってるだろうに……理性が否定するんだろうね。

ボクがそんな強い訳無いって。


ファが腕を大きく後ろへ振りかぶる。

ボクの方から見ればナイフは死角に入る。

同次元の戦闘ならばそれで十分だろう。


然し。

然し、ナナシはファよりも上の次元に居る。

彼等の次元の死角など、ナナシにとっては無意味無価値である。


だが、ナナシは敢えて、ナイフを頸に受ける。

動脈から音を立てて血液が噴出し、身体がぐらついて一歩二歩と後退る。

返り血に染まったファは、目に少しの驚愕と大きな希望を宿して、次なる一撃を繰り出した。


既に周りには野次馬が集まっている。

下品な輩から「殺せ」と野次が飛ぶ。


その後援を受けて、ファはナイフを両手で以て心臓へ突き立てられた。

ファはそのままナナシを押し倒し、あらん限りの体重を込めてナイフを押し込んでいく。

やがて、ナナシは首を擡げ、ファは漸く力を緩める。

雄叫びを上げ、両手を突き上げ、勝利がその血に溶けて彼の全身を巡る。

だが。

だがしかし。



「リザレクション」



ナナシの呟きと同時、逆再生の様にナナシは起き上がる。

撒き散らした血液は一滴残さず傷口から体内へと還っていき、傷口は独り手に閉じ、再生する。


「時間遡行って分かるかな。

ファ……

ファ……

ファなんとか君。」


雄叫びが徐々に小さくなり、突き上げた手は行方を失くして肩の上で宙を掻く。

愛媛県に初めて来た人が水道からポンジュースが出るのを見た時のような、有り得ないものを見る目をナナシへ向けると、二度三度と目を瞬いて、それから段々と目が見開いていく。


「時間遡行だよ、時間遡行。分かんない?」

「なんで……なんで…………」

「だから、"時間遡行"って言ってるじゃないか。

駄目だよ、人の話は聞かなくちゃ。ファなんとか君。」

「ファなんとか?」


本来聞きたいのは時間遡行であるが、動揺の余り違う方を聞き返してしまうファ。


「確か君、ファで始まる名前だろ?」

「……ウィファート・ディファット。」

「え?」

「ウィファート・ディファットです。」


何故か敬語になるファ。


「そっか。

それでキミ、時間遡行は分かるね?」

「……」

「ボクは時を巻き戻せるのさ。

キミ達がいくらボクに喧嘩を売っても、勝てないと思うよ。」


ファ、というよりも野次馬に向けてナナシは言った。

漸く己が本能に合点が行ったか、何も言えずに下を向いて押し黙るファ。

どうやったらナナシを倒せるか考える者数名。

今起こったことが信じられずフリーズする者十数名。


辺りを静寂が支配する。


その静寂は偶々通りがかったトール・エルドが、その光景を見て

(またナナシがなーんか目立ってるな)

と、ナナシを連れ帰るまで続いた。


トール・エルドの「おーいナナシ!」という声に、幼い子供のように「エル兄!」と返す様に、ファも野次馬も狐に摘まれた様な顔で立ち尽くしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ