不来方曜の話すこと 「長舟の話」
こちらはpixivファンボックスに掲載されていた話の再掲となります。
新作「バックランズ・グレイアウト」との関連と、ファンボックス閉鎖を見越し、順次内容移行していきます。
私の家族、長舟の話をする。
長舟はどこにでもいる、とは決して表現できない、この世の特別を集めたような非凡な男だ。ことに性格が良い。活発で、人当たりがよく、老若男女、誰にでも好かれ、長舟の周囲には常に人が集まってくる。
だが、喜ばしいことばかりでもない。女性を勘違いさせてしまうことも多いし、時にろくでもない人間も集まってくる。
そして時に、理解の及ばないものも集まってくるという。
長舟が、中学時代の話だ。
長舟は友人たちと待ち合わせるために、駅前のゲームセンターで、ひとりパズルゲームをして待っていた。
中学生男子というのは時間感覚がルーズなもので、待ち合わせ時間にキチンと全員が集まった試しなどない。そのことをとっくに承知の長舟は、クリアすれば何度も無料でコンティニューが出来るゲームをして、のんびり待つことにしているのだという。
その日も、長舟はいつもどおり友人を待ちながらパズルゲームをしていた。
可愛いキャラクターと連鎖が楽しめるそのゲームは、いまや誰もが知る人気タイトルだったが、当時すでに家庭用ゲーム機にも移植されており、ゲームセンターでわざわざプレイする客は少なかった。休日とはいえ、田舎の、駅前のデパートの寂れたゲームセンターだ。客はまばらで、クレーンゲームや格闘ゲームにちらほらと人の姿が見える程度。周囲に人はおらず、長舟は誰に遠慮することもなくゲームに興じていた。
三回ほどパズルをクリアしたところで、しかし友達が来る気配はない。長舟はコーラの瓶を傾けながら、ぼんやりと筐体画面を眺めていた。
一瞬、画面が次のステージ画面に切り替わるために暗転する。
そのとき、長舟は画面に反射する自分と、その背後から自分を見つめる少女の姿を捉えた。
五、六歳ほどの、おかっぱ頭の女の子だった。つきはぎだらけの服を着て、やけに貧乏くさい恰好をしていたのが印象に残ったのだという。
少女は、長舟の真後ろのゲーム機の椅子にちょこんと座り、丸い目でじっと長舟とゲームを見つめていた。
長舟は、振り返ることはせず、何事もなかったようにゲームを続けた。またパズルをクリアし、次のステージ画面に切り替わる。画面が暗転する。
やはり、先ほどの少女は先ほどと寸分変わらぬ様子で、長舟とゲームをじっと見ていた。
長舟は振り返り、少女に声をかけた。
「おねえちゃん、これ、やるか?」
パズルゲームを示し、そう尋ねる。妹の初楽ちゃんの小さい頃を思い出して、もぞっこく(かわいそうに)なったのだという。
おかっぱの少女は、驚いたように長舟を見つめたが、すぐにこくりと頷いて、にこぉっ、とぼろぼろの歯を見せて笑った。
そして少女は飛びつくようにゲーム機の前に座ると、ボタンやレバーをガチャガチャと動かしだした。まるきり操作方法などわかっていない様子だったが、楽しそうだったから長舟は無粋な言葉も挟まず、その場を去ったという。
コーラ瓶を片付けたとき、ちょうど友達がやってきた。長舟はすぐさま文句を言う。
「遅ぇよ、きーくん!」
しかし友達は謝ることもなく、むしろきょとんとした顔で言った。
「なぁ長舟ぇ、ゲーム、残機残ってるみてぇだけど、いいのか? もったいなくね?」
「あ?」
長舟が今までやっていたパズルゲームを振り返ると、そこには誰も座っていない。
先ほど譲ったばかりのあの少女は、どこにもいなくなっていた。
「……」
長舟は子供に好かれやすい。
もう生きていない子供にも、よく好かれるようだ。




