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ノニカ「またちょっと仲良くなれたかな」

「ふわわわわ~おはよう、みー姉さん、サイロ」

 寝ぼけ眼をぐしぐしとこすりながら、私は扉を開けた。


 そこにはいつもの花屋のエプロンをしたみー姉さんがいて、テーブルには朝食が一人分残されていて、ついでにサイロがムムムっと眉を逆はの字にして怒っていた。

「もうもうもうっ!遅いですよノニカ!始業のベルまであと十分しかないです!」

 サイロはきれいに二つの三つ編みにした水色の髪の毛をぶんぶん振り回す勢いで喚いている。

 制服を着て、カバンも持ってる。よしよし、学校行く準備は出来てるな。私も出来てる。

 一方のみー姉さんは、「そういえば今日はいつもよりちょっと遅かったわね」と、のほほんさんだ。

 サイロもちょっとは姉さんを見習ってほしい。

 そんなことを考えながら、朝食のおかずをトーストでサンドして、落ちないように口にくわえる。数口食べて味を確認すると、みー姉さんにグーサイン。今日もおいしい朝ご飯をありがとう。

 片手で朝食サンドイッチを持っているので、もう片方の手でカバンを探る。

「何を悠長に朝ご飯を食べているんですか!」

「あらあら、朝ご飯は一日のエネルギー源だもの。重要よ~」

 二人の声をバックにガサゴソしていると、目当てのものが見つかった。

 ひょいと事も無げにカバンからソレを取り出す。

 筒状に丸めてあったソレを床にばさりと広げて、私は言った。


『行ってきます、みー姉さん』


 キーワードを唱えたことで床に広げたソレが煌々と輝きを放つ。

「なな、な、なんですかそれ!?」

「転移陣だけど」

 目を白黒させて叫ぶサイロの手をはぐれないように掴んで、光る陣の中に飛び込んだ。

「学校行ってきま~す」

「私たちまだ一年生なのにノニカあなたそれどうやって作ったんです!?」


 あとに残されたみー姉さんは、「ノニカちゃんったらお母さんとそっくりねぇ」とニコニコ笑って机の上を片付けて、いつも通りに花屋の仕事に戻ったらしい。


 ◇◆◇


「無事着いた」

「ほ、ほんとに着いちゃった」


 使い心地をノートにメモしながら、朝食のサンドイッチを食べきる。

 うぅむ、朝の紅茶を飲み忘れた。

 しかし使用効果も効果範囲もばっちりだし、今回の実験は大成功だな。

 隣でサイロがわーわー何か言っている気がするが、そんなもので私の考察は止められない。

「はいはい、さっさと魔法陣から退くでござるよ。没収できないでしょうが」

 そんな言葉と共に頭にチョップが降ってきた。痛い。

 モリーウッズ先生だ。私たち一年生の担任の先生。魔界出身のエリート教師らしいが、人間界の忍者という伝統芸能を行使する集団のファンらしく、時代劇口調でしゃべるのが玉に瑕だ。全然偉そうに見えないという意味で。


「まったく、『生徒規則第三条 登下校に魔術及び錬金術を行使することを禁ずる』と、生徒手帳にも書いてあるでござる!おまけに、『生徒規則第十一条 一年生の魔術及び錬金術の行使は原則禁止とする』に今月もう四度目の違反でござる!おぬしが研究熱心なのはこの半年でよくわかったでござるから、せめて二年生に上がるまでもう半年我慢するでござるよ」

 長々とお説教をくれる先生と、いつのまにか席に移動している裏切者サイロ。運命共同体ってことで一緒に怒られようよ。

「とにかく!これ以上は授業に支障が出るので説教はここまでにするでござるが、罰として放課後教室の掃除!よろしく頼むでござるよ」

「やった!自動雑巾がけ君弐号機の性能が試せる!」


 なぜかカバンを没収された。温情でペンと紙だけは確保できたけど。


 ◇◆◇


 午前中の授業が終わって、今は昼食タイム。

 首のストレッチがてら周りを見回すと空席がちらほら。お弁当持参の子もいるが、食堂や外に食べに出ているのが今日は三分の一といったところか。

「もう!聞いてますかノニカ?」

「ごめん。これっぽっちも聞いてなかった」

 かく言う私たちは購買部で折り詰め弁当を買ってきて食べている。

 だって料理苦手だし。みー姉さんに作ってもらうこともできるけど、あまりにおんぶにだっこだと後でお母さんたちに報告が行きそう。

「う~!私ばっかりノニカを心配しているみたいで寂しいです」

「クラーケンウインナーあげるから機嫌を直しておくれよ」

「そんなもので私は手懐けられませんよ!もらいますけど」

 サイロはそういうけど、私はだいぶサイロに心を開いていると思うんだけどなぁ。

 二年生になったらサイロはこのまま普通科で人間界と魔界の違いとかをいろいろ勉強していくんだろうから、錬金術科にいく私とは話してくれなくなるかも。


「それは、やだなぁ」


 ぽつり、と思ったことが口から滑り落ちてしまったらしい。

 あげてしまったクラーケンウィンナーのことじゃないから!サイロはそんなに顔を青くさせなくてよろしい!

 仕方ないので正直に、「二年生になってサイロと距離が出来るところを想像したら、なんか嫌だった」と告白した。

 すると、はじめはポカンとしていた彼女だったが、突然ボッと顔を赤くして、彼女には珍しく叫んだ。

「私だって!私だって進級してもノニカと仲良くしたいです!!」

 釣られてこちらも赤くなる。絶対顔赤くなってる。

 教室の端々から「ヒュー」とか「青春だねぇ」とか「尊い」とか囃し立てる声が上がる。

 それらのヤジにうるさいやいと声を上げ、サイロへ小指を差し出した。


「あれ?知らない?人間界では相手と小指を絡ませて約束するんだよ」


 サイロも恥ずかしそうにしながら、小指を絡めてくれた。


「それじゃあ!ノニカとサイロの変わらない友情に乾杯!!」

 誰かがそう叫ぶ。

 みなパックジュースや水筒なんかを掲げて乾杯ポーズを銘々に取っていた。

「なにこの恥ずかしい集団」

「お前らの方がよっぽどこっぱずかしいっつーの!」

 そんな感じで昼休みを終わり、午後の授業を心ここにあらずで受け、罰掃除を二人で一緒にやった。

 なんだかとても気恥ずかしくて、気を抜くとすぐに顔がにやけてしまう私であった。

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