75話
ライアットがリドリーと一対一で戦闘を行っているその時、康一、シータ、リフルの三人はそれぞれの役割をこなしていた。
「皆さん落ち着いて対応してください!敵の数は少数です、援護しますから纏まって敵にあたってください!」
開戦の時に放った呪文で精神力の大半を消費したリフルは、戦線を維持するために怪我人の治療を最低限にして援護に重点を置いた。
「くっ……!」
視界の端には倒れる兵士の姿。既に事切れた者から痛みにもがく者まで。
それらに駆け付けたい気持ちを押さえつけ視線は前に。負傷者を一人治療する間に数人がやられてしまうこの戦況ではヒーラーとしての役割は行えない。
「動きを止めますっ!生命を導く聖なる光よ、敵を捕らえよ!『バインド』!!」
光の輪がガーゴイルを捕らえる。
動きを封じられたガーゴイルが光輪を破壊しようともがく。
「長くは持ちません、今のうちに!!」
リフルの掛け声を切っ掛けに兵士達がガーゴイルへと突撃していく。
強敵といえど動きを封じられている今ならばと叫びを上げ剣や槍を突き立てていく。
「どうだ!」
苦悶の悲鳴を上げるガーゴイルに有効打を与えられたと勢いに乗る兵士達。
しかしその勢いを壊すようにガーゴイルは雄叫びを上げた。
「っ、そんな!?」
並の魔物ならば問答無用で押さえ付ける光輪を、ガーゴイルは絶叫しながら力ずくで破壊していく。
「いけないっ!?逃げて下さいッ!!」
リフルが叫ぶがガーゴイルの近くにいた兵士達は反応が遅れてしまった。
ガーゴイルが凪ぎ払うように腕を振るうと一人の兵士の首から上が吹き飛び噴水のように血が噴き出す。
「ッッ!?―――お前えぇッ!!」
殺られた兵士の分隊長が怒りに任せ斬りかかっていく。
振り下ろされた剣はガーゴイルの肩に食い込むが、そこで止まってしまった。
「ゲエエッ!!」
ソレを振り払う事もせずガーゴイルは拳を手刀に変えると、分隊長の胸目掛けて突き出し貫く。
「ごっっ!?ぶはぁっ……!!」
血反吐を吐いて宙に持ち上げられた分隊長は急激に霞む視界の中、最後の力を振り絞り腰に差してあった短剣を手に取りガーゴイルの腕に突き刺す。
「ギッ!?」
腕を抱え込むように抱き付く分隊長をガーゴイルは振り払おうとするが、食らい付いて離れない。
「今の…、う"ち"にィっ!仕留めろお"お"っ!!」
文字通り命を掛けて作った隙を逃すなと叫ぶ分隊長。
ガーゴイルは力では振りほどけないと察すると炎を吐いて抱き付く分隊長を焼き尽くした。
「―――――!!!」
断末魔を上げ、黒焦げの肉塊へとなったソレを振り捨てガーゴイル。だがその時には残った兵士達が駆け寄っていた。
「オオオオッ!!」
もう一度、同じ様に突撃する兵士達。他に有効な攻撃手段が無い以上、愚突とも取れる手段を繰り返すしかなかった。
再びその身を貫かれるガーゴイル。しかし二度も食らえば以下に強力な肉体であろうと流石に致命傷になりうる。
「グッ…、ギィッ……!」
己の最期を悟ったガーゴイルは、ならば最期に一人でも道連れにしてやると再び炎を吐かんと口を開く。
やらせるものかと兵士達は更に深く武器を突き刺すがガーゴイルは止まらない。
そして放たれんとしたその瞬間、ガーゴイルの口から剣が生えた。
「いい加減に……っ、くたばりやがれえぇッ!!」
負傷して倒れていた兵士の一人がガーゴイルの背後から剣を突き刺していた。
膨れ上がった炎は霧散していきガーゴイルは息絶える。
「やっ……た」
ドサリと地面に倒れる兵士。慌ててリフルが駆け寄るが傷の具合を見て手の施しようが無いことを悟った。
「………っ!」
また一人、目の前の命を救えない事に歯噛みするリフル。
今まではパーティーでの行動だった為、久しく感じる事の無かった無力感がリフルを襲う。
「感傷に浸ってる時間は無いわよ」
その背に掛けられた声の方に顔を向けるとシータの姿が。
「シータさん!?大丈夫ですかっ!?」
驚くリフルの視線の先には額から血を流し、片腕を押さえながら立っているシータがいた。
「問題、なくはないけど。へばっていられる状況でもないでしょ」
「ポーションは!?まさか戦闘中に紛失したのですか!?」
特効薬であるポーションは持っていたはずなのに使用していないのは何かしらあったのかとリフル。
「紛失なんてヘマはしないわよ。―――もう使用した後よ」
苦々しく吐き捨てたシータにリフルは息を飲む。まさかここまでシータがやられていようとは想像だにしなかった。
「取り敢えず三体、仕留めたわ。あんたと同じ様に犠牲は大きかったけどね。これでようやく半数よ」
情報にあった数は十五体。今まで仕留めた数は違わなければ七体。未だに八体も残っている。
「このままじゃじり貧よ。だからリフルここからは行動を変えるわ」
時間が惜しいとシータは矢継ぎ早に語る。
「私達が分隊を指揮しながら戦っていたんじゃガーゴイルとまともに渡り合うことが出来ない」
シータもリフルも軍を率いて戦う将では無いため、陣頭指揮を取りながらだと自身が戦闘に絡む割合がどうしても低くなる。
「ならば指揮は放棄して今までのようにパーティーの戦いをした方が勝機は高いわ」
連携を取れるパーティーの戦いであればまだ渡り合えるとシータは行った。
「でも、そうすれば兵士の皆さんは……」
普通に立ち向かうだけでも困難な相手だ。指揮や援護があってやっとこの被害ですんでいるのに、それがなくなればどうなるかなど想像に容易い。
「時間を掛ければ掛けるだけ被害は増すわ」
ならば一刻も早く敵を討つ事が被害を抑える手段になると言い切る。
「行ってください」
そんなリフルに声を掛けたのは一人の兵士。
「我々は兵士です。ローランド王国を脅かす魔物を討つのが使命なのです。そのために皆命を掛けています」
恐怖で足がすくんでも、武器を持つ手が震えても、立ち向かってみせると兵士は言った。
「皆さん……」
「もう時間が惜しいわ。いけるわね?」
シータの言葉にリフルは頷きを返す。
それを見届けた兵士達は苦戦している部隊の元へと駆けていった。
「なら先ず康一と合流しましょ。ライアットは今一人で魔族を相手どってくれている。その間になんとしても戦況をこちらに傾ける」
ガーゴイルに対応出来る戦力が限られる以上、自分たちが魔族ガーゴイルに向かうのは難しい。
ならば少数精鋭で素早く各個撃破をするというのがシータが立てた作戦。
「ですがその前に傷の治療を。康一さんの所へ向かうのはそれからでも遅くはないはずです」
その言葉にシータは自身の状態を見てそれもそうねと返した。
「生命を導く聖なる光よ、彼の者の傷を癒したまえ――『ヒール』」
傷を治療し、さぁ康一の元へとと駆け出そうとしたその時二人の近くで爆発が起こった。
「キャアアっ!?」
「――何っ!!敵なの!?」
爆風に晒されながらも発信源の方へ視線を向けると。
「あれって……」
信じられないモノを見たようにシータは驚き、リフルは両手で口を覆った。
「康一、さん……?」
そこには全身を焼かれたガーゴイルの死体を踏みつけている康一の姿があった。




