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間話

(もう…だめなのかな………)


 次第に薄れ行く意識の中で少年は思う。既に身体は自分の意思で動かす事は叶わない。

なんとか視線だけを動かすと視界には自分の名前を懸命に呼び続ける両親の姿が見えた。


(ごめんね…お父さん)


 生まれた時から体が弱く、普段の生活を送ることさえ大変な自分の体が嫌いだった。


(ごめんね…お母さん)


 同年代の子達と遊ぶことも出来ず、病室で一人過ごす時間が嫌いだった。


(迷惑ばかりかけて、ごめんね……)


 そして何より自分のために尽くしてくれる両親に何もしてあげられない不甲斐ない自分自身が嫌いだった。


「……っ!?……………っ!!」


 名前を呼び続ける両親の声も遠くなっていき、少年はここまでかと悟る。


(最後まで、誰かに助けてもらってばっかりだったなぁ。もし、生まれ変われるなら、今度は、誰か…の為……に…)


 消え行く意識の中、少年は微かな願いを想いながら息を引き取った。





「………よ。目…めよ」


 誰かの呼び声が聞こえ少年は目を覚ました。


「ようやく目覚めたか」


(あ…れ……?ここは?)


 そう言おうとした瞬間とてつもない違和感が襲った。声が出ないのだ。いやそれどころか体の感覚がないのだ。手を動かしたいのに、首を動かしたいのに、それが出来ないのだ。少年はあまりの出来事に混乱した。


「まぁ落ち着け、今からお主の身に起きている事を説明するからの」


 声と共に目の前に一人の老人が現れた。

ただでさえよく分からない状況に陥っているのに追い討ちをかけるように知らない人物が目の前に現れたことにより、少年の頭はさらに混乱した。


「驚くのも無理はない、順をおって話をするからまずは気持ちをゆっくりと落ち着かせるといい」


 老人はなるべくゆっくりと優しく語りかける。その言葉を聞いて少年は少しづつではあるがなんとか気持ちを落ち着けることができた。


「まずはお主の身におきている事なんじゃが、お主は元の世界で命を落とし、今は魂だけの存在としてここにおる。ああそれともし何か言いたいことがあったらその言葉を強く念じてくれ。そうすれば儂はわかるからのう」


 なんとも突拍子もない老人の話に少年は半信半疑だが、他に出来る事もないので試しにやってみることにした。


『えーと、僕が魂だけの存在?というのはなんとなくわかりました。…こんなのでいいのかなぁ』


「安心せい。ちゃんと聞こえておるよ」


『!?本当に伝わった!!じゃ、じゃあこんなことが出来るなんておじいさんはもしかして神様なんですか!?』


「分かりやすく言うのならそうじゃろうな」


『―――すごい!神様って本当にいたんだ!』


 少年の驚きようを見て神は軽く微笑んだ。


「話を続けるぞ、魂だけの存在になったお主じゃが、本来なら元の世界で新たな命として生まれ変わるはずだったんじゃ」


『はずって、何かあったんですか?』


「うむ、お主がいた世界とは異なる世界で危機が迫っておっての、その状況を打開しようと勇者召喚の儀式をおこなったんじゃ。そしてお主がその勇者に選ばれたのじゃ」


『選ばれたって……えぇっ!?どうしてっ!?』


「驚くのも無理はない。しかし選ばれた理由もたまたまお主に決まったとしか言えなくてな…」


 明確な理由があったわけではなく、ただただ偶然に選ばれてしまった少年を前にして神の言葉は歯切れが悪い。


『そんな……無理ですよ。僕はもともと体が弱かったし…』


「そこは安心せい。呼び出された者は儀式の効果により様々な能力が強化される。これにより魔物とも戦えるようになる」


『やっぱりあるんですよね…戦いって』


 勇者というのがRPGゲームと同じなら当然のように戦闘行為がある。頭ではわかっていてもずっと病室で過ごして運動もまともに出来ない自分に務まるとは到底思わない。


『無理ですよ……こんな僕じゃ…』


「お主の言うこともわかる。しかし今から他の者には変えられないのじゃ。頼む、助けを求める者達を助けてくれんか」


 助ける。神のその言葉に少年の心の何かが反応した。


『助けを求める人達のため……?出来ますか?こんな僕にも…、誰かの助けになれますか?』


「お主が真にそう想い行動すれば」


 少年は考える、きっと自分が行ってもそう容易く解決できる事ではないことはわかりきっている。でも、それでも――


(僕でも誰かのために、誰かの力になれるならっ――!!)


 少年の心に決意の火が灯る。今まで願っても出来なかった事が出来るかもしれない事実が少年を動かす。


『やります、どこまでやれるかわからないけど、それでも僕はやってみたいです!』


 少年の決意に神は安堵した。先ほどまでの様子に一抹の不安があったが、今の少年の表情を見て任せられると思ったのだ。


「ありがとう。お主のその決意に心からの感謝を送ろう。それともう一つ、儂からは向こうに行った時のために役立つであろうスキルを授ける」


『スキル?』


「武器や魔法を扱うのに必要なものじゃ」


『そんなことまでしてもらえるなんて……』


「……いや、こんなことしかしてやれんのだよ」


 そう言いながら手をかざす。すると手から光の玉が現れ、少年に向かって飛んでいきそのまま少年の魂に吸収されていった。


『なにからなにまでありがとうございます。どれだけやっていけるか分からないけど、頑張ってみますっ!』


 言い終わった直後、少年は意識が少しずつ遠くなっていく感覚を感じた。


『あれ…なんか……』


「どうやら、時間がきてしまったようじゃの。…そういえばお主の名を聞いておらんかったの。良ければ最後に教えてもらえるかの?」


『僕の、僕の名前は桜井康一ですっ!』


「康一か、良い名じゃの。それでは達者での」


 その言葉を聞いて康一の意識は急速に遠いていった。


 そうして、桜井康一の第二の人生が始まった。











「行ったか…」


 康一の魂が転生したのを確認して、神は一人息を吐く。

本来なら召喚の儀式に選ばれた魂に接触する事はないのだが、今回の魔物の脅威が凄まじく、対抗できるようにとスキルを授けるために召喚のタイミングに合わせて力を使い接触した。


「あのような少年に命運を託さねばならないとはのぅ」


 たまたま選ばれてしまった、魔物との戦いなぞ存在しない世界から呼び出された少年、康一。それを召喚される前に知り、なんとかしようと手を尽くしたのだが成果は芳しくなかった。


「だからこそ協力を求めたのじゃが……」


 思い返すのは、少年より前に接触をした男、クーガー。

康一たった一人ではあまりにも厳しい戦いを支えてもらいたいと考え、この世界と似ている世界から適正者を見つけ力を使い半ば無理矢理に接触を行った。是非とも力を貸して欲しいと。

だがクーガーは協力を断った。自分には荷が重く、相応しくないと。しかし自分にはもう必要ないからと、レベルやスキルなどを与えてやってくれと提案した。


神は悩んだがこれを了承することにした。いくらクーガーが強くとも戦いの意志がない人間を戦わせることはできないからだ。

そして神はクーガーも転生させることを条件として伝えた。クーガーと会話し、身の上の話を聞いての提案。過ぎたおせっかいともとられるが、これが自分に出来るせめてものことだと思い提案した。


クーガーは最初は納得しなかったが、最後にはしぶしぶではあるが受け入れてくれた。


「ままならないものじゃのう…」


 ため息がこぼれる。神などと大層な存在だが自分で直接世界を守ることもできない。出来ることはせいぜい世界に住まう者達に魔物と対抗出来るようにと加護を与えることぐらい。最初はそれでもよかった。だが徐々に魔物の脅威が増していき、人類が危機に迫っていった。それこそ他の世界から勇者を呼び出さなければいけないほどに。


何度思ったか自ら助けに行ければと、しかしそれは叶わず、魔物に蹂躙される光景を見つめることしか出来なかった。

 神は自分達の意志とは無関係に呼び出された二人に思いを馳せる。


「願わくばあの二人の行く末に幸運があらんことを…」


 そうまで言ってはっと気づく、人々に崇められ、祈りを捧げられている神である自分がいったい何に願うのかと。だがそう思わずにはいられなかった。


「本当に…ままならないものじゃの………」


 悲痛に満ちたその一言は他に誰もいない空間に消えていった。

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