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57話

 ――――エルフ。

それは人と似ている姿でありながらも人よりもはるかに長い寿命を持ち、魔法にも長けている種族。


 そのエルフだと名乗った男、コーラルは柔和な笑みを浮かべていた。


「エルフって、ええ!?つかコーラルって確か教会じゃ有名な人でしょ!?なんだってこんなトコに」


「こんなトコってなんだこんなトコって」


「そうよ。私も聞いたことあるもの。教会にエルフの神官がいてとても優れた人格者だと、それがどうしてこんなトコロに」


「おい、仮にもギルドマスターの前でこんなトコロって言うんじゃ――」


「なるほど、長年仕えたというのに若く見えるのはそういう事か。それにしても随分立派な志があってこんなトコに来たんだな」


「お前らぁ…っ」


 三人の言いようにシグマの頭に青筋が浮かび上がっていく。


「納得していただいて良かったです。それとこんなトコロではなくここだから、来たんですよ」


 仕方なしにではなく、ここならば自分の望みが叶えられると。


「お前らも少しは自分達のギルドを誇るように言えないのかね」


 全く、とため息混じりにぼやくが三人とも聞き流している。

これ以上は何を言っても無駄だと判断したシグマは話しを続けた。


「まぁ、そんな経緯があってコーラルはウチのギルドに来た。そしてコーラルの希望に沿えるようなパーティーとしてお前らを選んだ。後はお前達が受け入れてくれるかだが」


 そう言って三人を見る。


「俺は賛成ですよ。後衛が入るのは嬉しいし助かる。正直俺らの足りない部分が埋まるわけだから断る理由の方が見つかんないっすよ」


「私も良いと思う。コーラルさんは討伐系に積極的な姿勢よね?今まで通りの方針でやっていけるなら問題ないと思うわ」


 ソーマとルセアはそれぞれ賛成。これで三人中二人がコーラルの加入を良しとした。

残るクーガーは少しだけ考え、口を開く。


「俺も構わないが、アンタは本当に俺達でいいのか?俺達は別に勇者達のように各地を回ってる訳でもないんだぞ」


 問うのは確認。自分達の元で本当に自身が納得出来るのかと。


「それでも声が聞こえる範囲、手の届く範囲の人々達を守りに行けます。たとえそれが全体から見れば僅かでも、目の前の人達を守れるならば、私はそれがいいのです」


 返答は肯定。貴方達の元だからこそ出来る事があるのだと。


「そうか。ならば他に言うことはないさ」


「ギルドだからこそ身軽に動ける所もあるしな。まぁ、あまり無茶が過ぎなきゃ今まで通りにやっていけるでしょうよ」


「私達も成長していってるんだから、これまでより危険な依頼も受けられる。それを解決すれば多くの人が助かる。そして私達も更に強くなってより危険な依頼も受けられるわけよね」


「なにその修羅道。俺はイヤだぜそんなあくなき戦いの人生」


「なによ。アンタはコーラルさんの話しを聞いて感銘を受けなかったの!?」


「それとこれとは話しが違うでしょうが!モノには限度ってモンがあるでしょうが!毎日毎日戦い戦いなんて俺には耐えられないっつーの!これだから脳筋お嬢様は」


「オーケー。歯ぁ食い縛りなさい。いっぺんその軟弱な思考を矯正してやるわ」


「そういう所を言ってんだよ俺は!!」


 どたばたと騒ぐ二人を他所にクーガー達は会話を続ける。


「止めなくていいんですか?」


「そのうち勝手に収まる。止めようとするだけ無駄に疲れるだけだ。それによくある事だから今のうちに慣れておいた方がいいぞ」


「なに落ち着いて茶なんか飲んでんだ。一応ここ執務室なんだぞ?重要な書類とかあんの。暴れられると困るんだよ、さっさと止めてこい」


「なにかあってもやったのはアイツらだ」


「連帯責任って言葉を知ってるか?」


「監督責任って言葉なら知っているな」


「アイツらを纏めてんのはお前だろうが」


「その皆を束ねているのはアンタだと思っていたんだが」


 つまりクーガーはギルドのトップであるシグマがなんとかすれば良いと言っている。二人が騒いでいるなかどっしりと椅子に腰かけていて、何がなんでも止める気はないらしい。


「ったく、本当にコイツらは他のヤツラ以上に敬いってモンがねぇなあ」


 ぼやきながらも今なお騒ぐ二人に近づき、ソーマにげんこつ、ルセアにデコピンをして黙らせる。


 ――響いた音が一般的に知られる音とは若干かけ離れていたが。


「イッッタアアァァイイ!バコンッていった!!デコピンなのにバコンって!!ねぇっ!クーガー!!大丈夫!?私頭着いてる!?とれてないっ!?」


 いつもは戦闘でも多少の傷や痛みなど構わずいられるルセアが涙目になりながらクーガーへと詰め寄ってくる。


「安心しろそれだけ喋れてるんだ。とれてる訳がないだろう」


 普段のルセアとは違う感じにクーガーも珍しくいつもよりもほんの少しだけ優しい声色で答えた。


 ルセアは安心はしたが未だに相当痛むのか、クーガーの膝に顔を埋め泣いている。


「あの、大丈夫ですか?」


「まぁ、大丈夫だろ。……多分」


 クーガーにしては歯切れが悪い。そうなってしまうくらいルセアの反応は珍しいものだった。


「ルセアさんは大丈夫だと思うんですが、あちらの方は―――」


 そう言うコーラルの視線の先では頭から煙を立ち上らせながら地面に伏しているソーマの姿が。


「あっちはいつも通りだから問題ない」


「あれがいつも通りなんですかっ!?」


「いつも通りであってたまるかっ!!」


 ルセアの時と違ってハッキリと言い切ったクーガーの物言いにソーマはキレた。




「くそぅ……。まったくひどい目にあった」


「ううぅ……。まだヒリヒリするぅ……」


 頭を擦るソーマに額を押さえるルセア。多少強引に場を落ち着かせたシグマは話しを纏めにかかる。


「さて、互いに話しが付いて合意に至ったってことで終いにしたいんだが、意見はあるか?後腐れは面倒だからな、言いたい事はこの場で言っておけ」


「私の方からはなにも」


「私は何もないわ」


「右に同じく」


「以下同文」


 流れるように答えた四人を見て大丈夫だろうとシグマは結論づけた。

そりゃあ良かった、と笑った後に一つ咳払いをすると真面目な顔になった。


「これはまだ先の話しだがな、お前らはギルドの中でも勢いのあるパーティーだ。これから先、個別に依頼を回すことも考えている」


「個別に?緊急クエストとは別なのか?」


「基本的に同等のモンだ。この前は特に人手がいなかったからかき集める為に召集をかけたからな」


 そこで一区切りしてから話しを続けるシグマ。


「ギルドには毎日依頼が舞い込むが、その中には危険性の高い依頼も、緊急性を要する依頼もある。そん時に迅速に適切なパーティーを宛がうのもギルドマスターの仕事だ」


 依頼というのは基本的には事が起こったからこそ出される物だ。そしてその中には大なり小なり状況が逼迫している物もある。

ギルドの掲示板に貼り出される依頼は原則幾らかの猶予があると見なされた依頼が貼り出され、緊急を要する物はギルドマスターであるシグマに回される手筈になっている。


「本来なら一定の基準としてパーティーの平均レベルが10を越える上級者パーティーを選んでいるんだがな」


 難しい顔をしてシグマは続ける。


「ここ最近の世の中の状況が芳しくねぇ。急を要する依頼も増えてきた」


 苦虫を噛み潰すようなシグマの言葉にクーガー達は事の重大さを再認識する。


「今はなんとか普段の状態を保ってられてるが、このままいけばギルドの全員を強制してでも討伐に向かわせなきゃならない可能性もある」


「ちょっ、それってヤバいじゃないですか!?」


「だからそうならないようにお前達にも頼む事になるだろう。レベルはコーラルを入れても基準には届いていないが、個々の実力は高いものだと認識している」


「それって私達に期待しているってことで良いのかしら」


「本当は期待出来る状況が来なきゃ良かったと思っているがな」


 本来ならばこんな危険が高い事をまだやらせたくはなかった。しかし、状況がそれを許してはくれない。


(ルセアを向かわせたと知ったらマルスの奴は怒るだろうなぁ)


 親友である親バカの怒る顔が思い浮かんだが、直ぐ様頭の隅っこに追いやる。

クーガー達の実力は同レベル帯の中では頭一つ、もしくはそれ以上に飛び抜けているのは確実だ。そこにコーラルが加入したとなればパーティーとしての力量も間違いなく上がっている。


「だがまぁ優先順位で言えばお前達は最後だ。そうそう回ってくる事はないだろうが、その覚悟はしておいてくれって事だ」


 まさか急に言う訳にはいかないだろ?とシグマは笑った。


「それもそうだな」


「マジかぁ…。つい最近レベルが6になったっていうのにこんな事になるなんて」


「すいません。何か私が入るからこんな事になってしまって」


「別にコーラルさんのせいじゃないわよ。それだけ私達が力を付けたって事なんだから」


「本当、お前さんは物事を何でも前向きに考えんのね」


 ソーマの物言いにルセアが突っ掛かっていきそうになったが、シグマが片手を握り、片手をデコピンの形にした事によって事なきを得た。


「さて、そろそろ上級大会が始まるから俺は戻るとするか。お前らも強いヤツの動きってのは参考になるからな、ちゃんと見とけよ」


 そう言って一足早くシグマは部屋を後にした。


「俺達も行くとするか」


「それもそうだな。これ以上ここにいる訳にもいかねーしな」


「なら早く行きましょう。折角なら近くで観てみたいし」


 駆け足で駆け出すルセアに呆れ顔しながらもついていくソーマ。

二人を見送ったクーガーは、コーラルへと振り向く。


「そう言えば言い忘れていた」


「どうしたのですか?」


「これでもパーティーリーダーらしいからな。形式とは一応、だ 」


 そう言って右手を差し出す。


「クーガーだ。こんなパーティーだが、まぁ悪いようにはならはないだろう。よろしく頼む」


 暫くの間団体行動を取ってきたことによって、僅かながらも社会性を得たクーガー。

丁寧とは言いがたいがクーガーなりに歓迎の意を示した。


「此方こそ。コーラルと申します。どうか今後とも宜しくお願いします」


 万が一ルセアやソーマにやった場合に良い顔をしないであろうその手をコーラルは爽やかな笑顔で握る。


 こうしてクーガー達はパーティーに一番足りていないであろう人格者であるコーラルを仲間に加える事となった。



 そんなクーガー達に、数日後早速シグマから依頼がもたらされる事になる。

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