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53話

 二回戦が全て終わり続いて準決勝。

残った四名の内三名はおおよそ予想通りの面子。そして残り一人、一回戦を下馬評に反して圧倒的優位のまま勝ち上がり、二回戦も危なげなく勝利したクーガー。


 残った面子の中で一番レベルは低いが、その高い技量を目の当たりにした観客からは優勝の可能性もあるのではという声もちらほらだがあがっていた。


 更に熱気が上がっていくそんな中、ソーマは先程の試合で負けてしまったルセアの様子を見に救護室に向かっていた。

別に怪我を負った訳ではないが本人の落ち込み具合から救護室で休ませていると聞いたのだ。


「まぁ、あんだけサーシェスさん相手に啖呵を切った挙げ句に、ぐうの音もでないくらいに負かされたしなぁ…」


 私が貴方を驚かせてみせます。なんて威勢の良い事を言ったの負けたのだ。それは落ち込むというもの。もしも自分が同じ立場であったなら落ち込むどころか、その場をさっさと抜け出して家で暫く引きこもる自信がある。


 ―――それはさておき、救護室へとたどり着き中を見渡す。大会中大きな怪我を負った者などいないから中は数人の職員と教会から来ている僧侶ぐらいだ。


「おっ、いたいた」


 そんな中、ただ一人重い空気を出しながらベッドの上で膝を抱えているルセアを見つけた。


 近づいてみるとムッスーと頬を膨らまし、一目で現在進行形で不機嫌ですと分かる表情をしていた。


「なによ?」


「なにってお前さんが救護室に連れてかれたってなりゃ見にもくるでしょうよ」


「もうすぐクーガーの試合でしょ。準決勝ともなればなおのこと相手も強い人になる。私に構うよりもそっちの応援に行きなさいな」


「あー、それな。こんなこと聞くのどうかと思うが、実際アイツが負けると思うか?」


「それは……」


 そう言ってルセアは口をつぐむ。相手は強いと言ったばかりだが、それでもあのクーガーが負ける姿が頭に浮かばない。


「沈黙は肯定ってな。まぁつまりはそういうことだ。クーガーの相手に悪いが、俺はアイツが負けるところが想像できなくてな」


 要はクーガーは心配しなくても大丈夫と、それよりもお前の具合の方が気になるとソーマは思っているということだ。


「そんなに私は悪く見えるかしら?」


「いつものお前さんなら悔しい!っ言って癇癪起こしてるのに、今回は黙って落ち込んでるのは新鮮だったよ」


 ケラケラと笑うソーマに対し、自分はいつもそんななのかと別に驚くルセア。

確かに模擬戦で負けた時やクエストでミスをした時には悔しさを出すが、そこまで子どもじみた行動を取っていたとは思わなかった。


「とりあえずそこまで深刻じゃなさそうでなによりだ」


「それはどーも。ご心配おかけしましっ、たっ!」


 勢いよくベッドから降り立つルセア。正直まだ悔しさはあるが、これ以上心配をされるのは自分を許せなくなりそうなので強引にでも気持ちを切り替えることにした。


「はい!もうこれでこの話は終わり!ほらさっさとクーガーの応援にいくわよっ!もう始まってるんでしょ!」


 となればさっさとこの場所から出るに限る。ルセアはソーマを引っ張り救護室を後にした。


「ガキじゃないんだから手を引っ張らなくたって付いてきますよっ!」


「ならさっさと歩く!早くしないと貴方の試合の時みたいにもう終わっちゃうわよ!」


「引き合いに出さないでくれますかねえ!!つか、いくらなんでもまだ決着なんて――――」


 直後に会場から大きな歓声が上がる。


「イヤ…、まさかな……。うん。きっと白熱してる試合展開なんだそうに違いない」


「とにかく急ぐわよ!」


 自分達の目で確かめなければ何もわからないと、ルセアはソーマを引きずり会場へと急ぐ。


「試合終了っ!勝者クーガー!!」


 その結果ソーマの懸念が当たっていることが証明された。


「えぇ……」


「何でお前が驚いてんだよ。元はお前さんが言ったんだろ、もう終わってるかもしれないって。ってか驚きたいのは俺のほうだっつーの」


 結論から言えば、クーガーが勝った。なおかつ圧倒的に。しかも準決勝まで上がってきた猛者相手に。ならば観客が盛り上がるのも当然だというもの。


「いや、うん。確かに心配はしてないって言ったけどまさかこんな結果になるなんて予想出来ねぇっての」


 大方勝つのではないかと思っていたが、こんな勝ち方になるとはつゆほど考えてはいなかった。

そんなクーガーに驚き半分、呆れ半分の感情を感じていると、二人のもとへ件の本人がやって来た。


「来ていたのか。もう調子はいいのか?」


「え、ええ。もしかして心配をしてくれていたの?」


「大丈夫だとは思っていたがな。さすがに少し気にはしていた。それでなるべく早くケリをつけて様子を見に行こうと思ったんだが、余計な世話だったか」


「―――いいえ。気を掛けてもらった事に余計な事なんてないわ。どうもありがとう」


 自分を案じて奮戦したという事は素直に嬉しいことだ。それが普段愛想があまりいいとはいえない人物がやったとなればいつもの時とのギャップがありなおそう感じる。


「いや仲間の思いの気持ちは同じパーティーの仲間としてとても素晴らしいことだと思いますよ?それより今、早くケリをつけてって言ったけどどういうことだよ?」


「?、言葉通りの意味だが?」


 何を言ってるんだと言わんばかりに返すクーガー。


「いやいや言葉通りって、だって相手は準決勝まで上がってきた相手だろ?いくらなんでもこんなに早く終わる訳がないでしょうよ」


 そこまで聞いてクーガーはソーマの言わんとしてることを理解した。

つまりは相手は自分と同じく準決勝まで勝ち上がってきた実力者であるはずなのに、どうやって短時間で勝利を収める事が出来たのかと。


「相手が力押しで大振りをする相手でな。俺としては戦いやすいタイプだったからな」


 戦い方の相性が良かった。だからこそ短時間で決着をつけることが出来たとクーガーは言う。


「その気になればお前でも出来るさ」


「いや無理だろ」


 今度はソーマが何を言ってるんだと返す。

確かにクーガーの言うとおりの相手ならば自分でも掻い潜っていけるかもしれない。そう、かもしれないだ。今の自分の実力ならば可能性は低いがなくはない、という前提がある。

それを目の前の男は出来ると言い切ったのだ。そりゃ何を言ってるんだと思いたくもなる。


「言っただろ。その気になれば、だ」


「そこが一番キツいんだよ。まぁ贔屓目に見てくれるのは嬉しいんですけどね」


「ねぇねぇ、私だったらどうかしら?」


 そんな二人の会話にルセアが入ってくる。ソーマで出来るのならば自分の場合ではどうなのか気になるらしい。


「出来るだろうよ。ソーマより少しキツいだろうが」


「少しキツいのは実力的な問題?」


「実力で言えば二人の差はほとんどない、それよりは相性だ。ソーマは俺達の中で一番速いしその上機敏だ。ルセアも速い方だがそれは直線的な動きがほとんどだからな、一撃をもらう可能性を考えるとどうしてもソーマより低くなる」


 それぐらい相性というのは重要なんだ、とクーガーは言う。あまりにキッパリ言い切ったので、ルセアがまた不機嫌になるのではとソーマは顔を覗くが、ルセアはむしろ感心している様子だった。


「そう、ありがとう参考になったわ。それにしてもよく私達を見てくれるのね貴方って」


「パーティーメンバーの戦い位は把握はしているさ、そうでなきゃ戦術は立てられない。自分の出来る事を正しく把握していればとれる行動は格段に増えるからな」


「ホンっと戦闘の事になりゃ饒舌なんだな。なら普段からもっと言ってくれればいいんじゃないのか?」


「必要に迫られればな。手取り足取り教えてもらったことよりも、自分自身で身につけたモノの方が俺は信じられる」


「それは私もわかるわ。でももう少しヒントとして教えてくれてもいいんじゃないかしら。だって仲間なんですもの」


 仲間と言われてクーガーはふと考える。元の世界ではたった一人で戦いぬいてきたクーガーにとって、この世界でパーティーを組んで戦ってた日々は初めてづくしの毎日だ。

だがそんな日々もほんの少しだけ心地よいと思える位には二人には気を許している。


「善処しよう」


 だけど人付き合いが得意になった訳ではないので素っ気なく一言で返す。


「えぇ、期待してるわ」


「あまりキツいのは勘弁だがな」


「だがそれも大会が終わった後の話だ」


 そういえば、と二人は思い出す。和気あいあいと喋っていたがクーガーはルセアの様子をみるために準決勝を速攻で片付けたのだった。


「俺はこれから控え室の方に向かう。そろそろもう一つの試合も終わる頃合いだろう」


「そうね。元はといえば私の様子を見にきたんだものね。これ以上引き留めるのはマズイわよね」


「だな。なら俺達はさっさと応援の方に回るとしますかね。決勝、お前さんに賭けて問題点ないんだろ?」


 ソーマの言葉に問題ないと返してクーガーはその場を去っていった。

次はいよいよ決勝戦。二人は仲間の勝利を何一つ疑うことなくその背中を見送った。

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