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52話

 大会用に簡易的に作られた控え室。その中で出番に備えて体をほぐしているルセア。そこにソーマが顔を出した。


「よっ。どうよ調子は、一回戦の時の傷は治してもらったんだろう?」


 大会を開催するにあたっての懸念である傷の治療。いくら刃引きしてあるとはいえ多少なりとも傷をおってしまう者がほとんどだ。

大した傷でなければ傷薬などで充分だが、勝ち上がった選手の場合、次の試合に支障を及ぼさないために治癒魔法を掛ける事がある。


「バッチシよ。流石教会の僧侶よね、ギルドじゃ治癒魔法を使える人なんてほとんどいないから新鮮な感じ」


 治癒魔法が使える者はほとんど教会に所属している。これは教会の人々を守り癒すという理念があるがゆえ、適正がある者が多く集うのだ。

その次に多いのは国直轄の騎士団、そして冒険者ギルドとなっている。


 ちなみにルセア達が所属している『デュランダル』も所属人数は百を越えるが、治癒魔法を使えるのは僅か四人しかいないと言えばどれだけ治癒魔法が珍しいか分かる。


「相手は今回大本命のサーシェスさんか。どうよ勝算は?」


 次のルセアの相手は中級の参加出来る最大ラインであり出場者の中で唯一のレベル10の強敵だ。

しかもギルド屈指の実力者であるベリスの率いるパーティーに所属しているために戦闘経験も豊富にあり、文字通り最大の壁として立ちはだかっている。


「……0ではないわ。お互い得意武器ではないもの、なら普段よりは付け入る隙ぐらいあるはず。―――後は、」


「後は?」


「私がそれを突けるかって、ところね」


「―――なんだ。一回勝って舞い上がってるかと思ったらしっかり冷静じゃないの」


 ソーマから見たルセアは、貴族の身分でありながらそうは見えないほど活発で真っ直ぐな性格をしていた。

物事の考え方も何事も前向きに捉え、魔物相手にも基本的にはやってやれない事はないという考え方だ。

だから今回も勢いに乗っているならばやれる、と考えているのではないかと思っていたがそれは杞憂に終わった。


「あら、私だってそれぐらいはわかっているわよ。参加してる相手は今まで戦い抜いてきた人達だもの、一回戦だって今だって簡単にいくとは思ってないわ。ただ、気持ちだけでも誰にも負けない気持ちでいないとね」


 相手が自分より格上ということは百も承知である。だからこそ気持ち、意気込み位は強く持たねば少なくとも同じ土俵には立てないとルセアは言った。


「貴方だってクーガーを相手に啖呵を切ったじゃない。普段の貴方ならそんな事しないのに」


「そんな立派なやつじゃないさ。ちょっとした見栄だよ」


「それを張って通そうとしただけでも立派よ。いつもの貴方に比べたらね」


「最後の一言がなけりゃ素直に喜べるんですがね」


 そう返すソーマの口は笑みを浮かべていた。


「なら素直に喜べるように鍛えなさいな。――さて、そろそろ時間かしらね」


 立ち上がり舞台へと向かっていくルセア。


「おう。そんじゃあ俺は高みの見物としゃれこませてもらうとしますか。期待してるぜ」


「だったら私が応えられるように全力で応援しなさいよ」


 互いに軽口を交わし控え室を後にする。

痛みもない、体力もまだまだ余裕。後は今回も全力を尽くすだけだ。







「それでは!二回戦第四試合を始めます!」


 舞台に上がるルセアとサーシェス。やる気充分という顔のルセアに対し、サーシェスは無表情だ。


「まさかアスターを破るとはな。驚いたよ」


「ならもう少し顔に出したらどうです?折角整ってるのに勿体ないのではなくて」


「悪いが顔に出にくくてな。変な期待をされても困る」


「それは残念。でしたら私がその顔を驚かせてみせます」


 強気な笑みを浮かべ暗に自分が勝つと宣言したルセア。


「それは楽しみだ。だがしかし、それは叶わんだろうよ」


 表情を変えずに剣を構えそう告げるサーシェス。


「―――くっ…!?」


 向かい合っているだけでもひしひしと伝わってくる威圧感に一瞬足がすくむ。


(上等っ!だからこそ挑む価値があるっ!)


 強気な笑みは獰猛な笑みへと変わる。相手が強ければ強いほど挑んだ時に自分の身の丈を、伸び代を知れるのだ。

だからといって勝てない言い訳にはならない。狙うは勿論勝利だけなのだから。


「それではサーシェス対ルセア!試合開始っ!!」


 二人の空気を感じ取った審判はすかさず開始を宣言した。


 真っ先に飛び出したのはルセア。一回戦と同じ様に最短最速の先手必勝を狙い一直線に駆け出す。


 相手の得物は剣。間合いの差はあるが勿論あるが、一回戦の相手の槍よりは短い。

つまり此方の間合いの入りやすさも先ほどよりも高くなっている。


(なんとか間合いに入って手数で押しきる!)


 いかに技量は相手が上でも、手数で押せば守勢に回らざるを得ないはず。そこに勝機を見いだす。

形は違うがイメージはクーガー対ソーマの試合で見たクーガーの動き。相手に余裕を与えず最初から最後まで自分のペースで押しきる。

ある種、自分の理想とする動きを頭に思い描き実行に移す。


 サーシェスに動きは見られない。前進も後退もしないところを見ると迎え撃つ選択をしたのだろう。


(最初の一撃。それが通るか否かで流れは大きく変わる)


 通れば流れを手にいれ勝機を掴む可能性が上がり、通らなければその逆だ。

ルセアは更に集中を高める。サーシェスまでの距離は僅か。


「―――シッ!!」


 逆手に握った短剣をサーシェスに向かい放つ。狙いは回避させづらい胴体。

サーシェスほどの相手だ、直撃はしないだろう。十中八九剣で防がれるはず。

―――だがそれでいい、目的は攻勢にさせないことだ。

相手は剣一本で此方は両手に持った短剣二本。単純に考えて手数は二倍。


(先手は取った!このままなにがなんでも押し込む!)


 サーシェスはルセアの攻撃に合わせて剣を動かした。

ここまでは予想通りにきた、ここから連続で仕掛ける。と思ったルセアだったがその考えはあっさり崩れ去る。


「甘いぞ」


 サーシェスは防ぐのではなく剣で滑らせる様にしてルセアの攻撃を逸らし受け流す。


「えっ!?」


 駆けた勢いのままに逸らされたことでルセアは体勢を崩し前のめりになってしまう。


「驚いてる暇はないぞ」


 想定外の展開に驚くルセアだが、それをわざわざ待つサーシェスではない。すかさずルセアに近づき剣で切り上げる。


「んっ!くぅぅ!」


 なんとか反応し短剣を交差させて受けるが、勢いを殺しきれず弾き飛ばされてしまう。


「まだまだいくぞ」


 尚も追撃の手を緩めないサーシェス。ルセアも必死に捌きつつ反撃の機会をうかがうが、掴んだ流れを簡単に手離すサーシェスではなかった。


 一合、二合と打ち合う度に徐々に傾いた流れが大きくなり追い込まれていく。

それでもなんとか食らい付いていくがそれも終わりを迎える。


「ぐっぅ、あっ!?」


 何度も攻撃を捌き続けてきたが遂に抑えきれず短剣が弾かれてしまった。

そして眼前に剣を突きつけられてしまう。


「これでチェックメイトだ」


 息を乱しながらサーシェスを睨むルセアに対し、平然とした様子でルセアを見据えるサーシェス。


「―――っ!!」


 拳を強く強く握り込み、ワナワナと震える。

分かってる。これ以上自分に出来る事はない、みっともなく足掻いても結果は変わらない。だがそれでも勝ちを諦めたくない気持ちが体を動かそうと訴える。


「……んっ、く。―――――参りました……」


 その気持ちを文字通り飲み込み、そして絞り出すようにして呟いた。


「そこまでっ!勝者サーシェス!」


 宣言を聞いて颯爽と去っていくサーシェス。反対に諦められない思いが足を縫い付けその場に立ち尽くしてしまっているルセア。

結局ルセアは審判に連れられるまでその場を動く事はなかった。

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