51話
試合は進んでいき、大会はクーガー達による番狂わせによって盛り上がっていた。
クーガー達の実力は噂にはなっていたがそれでもこの世界においてのレベルの差の認識は大きい。
レベルは本人が積み上げてきた実績と経験の証明。ステータスは文字通り本人の実力の証。数値の差は1しか違わなくても確実に差が出るというのが周知の事実だ。
その中で格上の相手に三人全員が勝利を収めたとなればこの熱気も当然のものだった。
そんな盛り上がっている中で舞台上のソーマの気分は落ち込んでいた。
「折角一回戦突破したっていうのに次がお前だもんなぁ……」
「なら棄権するか?」
「そう言われてはいそうですかって訳にはいかないでしょ?」
勝ち目はほぼほぼないが、だからといってやる前に負けを認めるのは流石に情けない。
折角一回戦を勝ち上がってきたのだ。やるだけはやらないとあまりにも見栄がないというものだ。
「これでも一応お前さんより先輩なんでね。尻尾を巻いて帰るなんざ出来ないもんさ」
「そうか。なら遠慮なくいかせてもらう」
「良かったら後輩らしく気を使ってくれてもいいんだぜ?」
「悪いがそういうところまで気に回すほど器用じゃなくてな」
「だろうな。聞いてみただけさ」
逆にコイツに気を使われでもしたら違和感を感じすぎて気が狂うかもしれない。
「それじゃあ、やれるだけやってみせますか」
口調は軽く、それでも気を確りと張って剣を構える。対するクーガーも槍を構え準備を終える。
二人の様子を見て頃合いと見た審判が試合開始を告げる。
「二回戦第二試合ソーマ対クーガー、試合開始!」
始まった瞬間、ソーマは後ろに飛び退いた。まずは距離を取って様子を見て、焦らず自分のペースを作るために。
(アイツだって最初から突っ込んでくることはな――――!?)
だがその目録は直ぐに破れる。自分と同じタイミングでクーガーが飛び込んで来たからだ。
「お前に余裕を持たれると厄介なんでな。最初からいかせてもらうぞ」
伊達にパーティーを組んでいるわけではない。クーガーはソーマの強みを理解しているが故に速攻を仕掛ける。
(マズイっ!とにかくもっと距離をとらねぇとっ!)
真っ向からの打ち合いなんて下策中の下策。何がなんでも距離を取り体勢を整えようと全力で後ろへと下がる。
「そうだな。お前は必ずそうするだろうよ」
その行動もクーガーは折り込み済みだ。距離が取りたいなら取ればいい。だがここはいつもの戦場ではない。限りのある広さしかない舞台の上だ。どんなに速く動こうと行ける範囲は決まっている。
そしてそこでクーガーが取る行動はただ一つ。
「まさかこんなにあっさりいくとはな。少しは周囲を見渡すクセを付けた方が良いぞ」
相手を舞台端まで追い込む。ただそれだけでいい。
「ご忠告どうも。だけどそういうのは終わってから聞いてやるさっ!」
体を左右に小刻みに揺らしフェイントを掛けながらクーガーを横から抜こうと駆け出す。
単純な速さならクーガーよりも上だ。脇さえ抜ければ仕切り直せる。そう思ったが。
クーガーは槍を突き出しソーマの進行方向を遮る。ソーマの考えはお見通しだと言わんばかりに。
(予想通りっ!お前ならそうくると思ってたぜっ!)
ソーマは急停止して逆方向へと転進する。
クーガーが先読みして止めたように、ソーマもまた止められることを想定していた。そして自分の最大の武器である速さを使って強引に抜き去ろうとした。
これで抜けれると確信したソーマの前にクーガーが立ちふさがった。
「なっ!?」
「予想通りだ。お前ならこれぐらいやると思っていたからな」
驚くソーマに淡々と答えるクーガー。
別段特別な事は何もしていない。ソーマの実力を確りと把握し、この程度の事をやってのけるだろうと想定していたから出来た行動。
なんて事はない、ただ単にクーガーが一枚上手だっただけの事。
「言っただろう、余裕を与えると厄介だと。暫くそのまま呆けていろ」
完全に足を止めてしまったソーマに間髪いれずにクーガーが迫る。
深く一歩踏み出し、薙ぎ払うように振り放つ。狙いは足寄りの胴体。距離を詰めたことにより後ろに下がれず、剣で防ぐしか出来ないソーマ。
「ぐっ!っう!」
防がれてもお構い無くクーガーは力任せに振り抜く。
飛ばされたソーマは受け身を取れず地面に倒されてしまった。
「チッ、クショウっが……!」
急いで立ち上がろうと、起き上がろうとしたソーマの背をクーガーが踏みつけ地面に縫い付け、顔前に槍を突き立てた。
「これで詰みだ」
「―――はぁ……。参りましたよ、降参だ」
足掻く事もせず負けを認めるソーマ。この状況でまだ何かしら打てる手立てなど持ち合わせていない。
「そこまで!勝者クーガー!」
試合終了が宣言されると周りから歓声が上がる。終わってみれば打ち合いは僅か一合、余りにもあっという間に終わってしまったがそれはクーガーの実力が高いという事の裏付けだ。それを理解出来るから観客は驚き声を上げる。
その歓声に特に返す事もなくクーガーはソーマへと手を貸し立ち上がらせる。
「ったく、もうちょい嬉しそうに出来ないのかよお前は。そこまで当たり前だっていう顔されてると余計に心にくるんだよ」
「子どもみたくはしゃいだ方が良かったか?」
「……やっぱいいわ」
「だろう?」
あまりにも想像出来ないし、想像したとしてもそれはもはやクーガーの姿を模したナニカでしかない。
「ま、お前さんはそれでいいのかもしれないか」
これが素なのだから変にとやかく言うこともないかとソーマは一人納得する。
「しかし後二回勝てば優勝か。どうよ勝算は?」
舞台から降りて控え室に向かう道中で問いかける。実力のあるものが勝ち残っていくトーナメント、次に戦うのは自分よりも強い相手にクーガーはどう思っているのか気になった。
「さて、な。断言出来るほどの事は言えないが―――」
クーガーにしてはなんだか歯切れが悪いとな思ったソーマに、クーガーは喉を鳴らして笑って続けた。
「残り二回、俺に賭けておけ。損はさせんさ」
それを聞いてソーマは笑った。少し様子がおかしいと思ったが全くの杞憂だったと。
「ハハハハッ!何が断言出来るほどの事は言えない、だよ。まったく。負ける気なんざハナから無ぇんじゃねぇかよ」
腹を抱えて大笑いするソーマ。おそらくクーガーが優勝出来ると思っているのは少数派だろう。ならばせいぜい自分は稼がせてもらうさとソーマは思った。