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49話

「これより一回戦第四試合、クーガー対ウードの試合を始めます。両者舞台へ!」


 さて、とクーガーは槍を持ち舞台へ上がる。

対戦相手のウードは剣を構え既に準備は完了しており、表情はどこか余裕のある顔をしていてクーガーの持つ槍を見ていた。


(そういえばウードの得意武器は確か槍だったか)


 自分の得意武器ならば、使い方は勿論、苦手な戦い方も把握しているはず。その上レベル差まであるならばあの余裕の姿勢は納得のものだった。


(だが悪いな。俺は元々槍も得意なんだ)


 転生するにあたりスキルから外れているが元々は一番使っていた時間が長い武器が槍である。なにか相手を騙している感じだが、正直に言える内容ではないので口にはださないが。


「――――ん?」


 歓声が響くなか何か違和感を感じる視線を感じたクーガーは周囲を見渡す。

周りを軽く一瞥するとシグマの辺りで視線が止まる。注意して見てみるとシグマの横に見慣れない人物がいた。

その人物はフードを被っていたがチラと見える瞳からクーガーを見定めるような視線で視ていた。


「……誰だ?」


 毎日のようにクエストを受けるためにギルドへと顔を出しているクーガーだがあのような人物は見たことはなかった。

たまたまクーガーが知らないだけなのかもしれないが、それでもこのような視線を受ける理由が見当たらない。

暫く見続けていると審判から注意が入り、クーガーは相手に意識を戻した。


「試合開始!」


 疑問は残るが今は目の前に集中しなければ。

クーガーは槍を構えウードを迎え撃つ。







「―――チィッ!」


 幾度目となる攻撃が弾かれ、体制を立て直すために後ろへ飛び下がるウード。

試合開始から今まで決定打どころかクーガーの体に当てる事すら出来ずに防がれていた。


(参ったねぇ……、奴さん本当はアレ得意武器なんじゃないのか?幾らなんでも錬度が高すぎる。下手をしなくても俺よりも上かもしれんよな…)


 ウードが素直にそう思うほど構えるクーガーの姿は余分な力みもなく自然体だった。むしろこれが本当の姿だと言われても納得してしまうほど。


(自分が使いなれてる分組みし易しと思ったがところがどっこい。どうしたものか)


 槍の最大の長所はその得物の長さによる圧倒的な間合いの有利。相手の攻撃が届かない距離から防ぎにくい点の刺突、長さを生かした線を描く振り払いなどで一方的に戦いを行える武器だ。

 だが、短所も勿論ある。その長さ故に懐に近づかれた時の取り回しが難しいということ。相手に有効打を与えるのは穂なために、近づかれるとどうしても攻撃がしづらく防戦に回ざるを得なくなる。

 ウードも自身が扱う得物のため、長所も短所もしっかりと把握している。だからこそクーガーの懐に飛び込めると考えたが。


(見事なまでにないんだよな……、隙が)


 近づけない。厳密に言えば近づかせてもらえない。自分が何か行動を起こす度に直ぐにクーガーに防がれ、ウードが一歩踏み出せば、クーガーは一歩下がり距離を詰められない。常にウードの攻撃範囲の外ギリギリに位置取る高い空間認識能力。


 ウードが剣の構えを少し変えると、クーガーも槍の穂先を僅かに変える。ウードの僅かな動きにも小刻みに対応してくる。これも厄介なんだと、愚痴をこぼすウード。

距離を取られているなら多少強引にでも切りかかれば接近戦に持ち込めると考えていたがそれすら出来ないのは、クーガーの対応の手際の速さと精度にある。


 意を決して攻撃を仕掛けようと、剣を振るうために力を入れた瞬間。ウードの体の中心を目掛けて鋭い突きが放たれた。


「おっとお!?」


 ウードは強引に体を捻りこれを避ける。


(攻撃を防がれるならばまだいいけど、攻撃しようとした時に防がれるのはさすがキツイな)


 攻撃を防がれるだけならなんとか切り返して強引に打ち合いの形に持っていける可能性はあるのだが、その起点から防がれては次に繋ぐことすら出来ない。


(こうなったら、後はある程度食らうの覚悟で突貫するしかないか)


 実戦とは違い決定打でなければある程度の被弾は許容される。普段ならば絶対に取らない行動だが、このままでは埒が開かないと考えたウードはクーガーの射程から外れるために一度大きく距離を取る。

そしてクーガーが詰めようと近づき一歩を踏み出した時を狙って一気に飛び込んだ。


(狙いは一点。とにかく奴さんの間合いの内側に入る。それからのことはその時考えればいい)


 そもそも接近出来なければ意味をなさないためウードは余計なことを考えず一直線に駆ける。


「――フッ!」


 勿論クーガーも接近を許すつもりはない。向かってくるウードに向かって突きを放つ。狙いは先程放った一撃と同じ避けづらい体の中心。回避すれば勢いが消え、防げば攻撃に移れない、仕留めるのではなく相手の行動に制限を掛ける一撃。

 

(悪いが、今回は押し通らせてもらうぜぇ!)


 クーガーの腕は確かだ。自分からみても狙った所に必ず当てる技量があると確信できる。だからこそ此方も備えやすい。

ウードは槍を払うように剣を振るい当て、強引に軌道を逸らす。


「っ!?」


 この試合始まって初めてのクーガーの驚きの表情。まさか強引に切り抜けるとは思わなかったと考えの浅さを悔やんだ。


(内側に入った!これならまともに槍は振れんだろっ!)

 

 一か八かの突貫は成功。後は距離を取られないように張り付きながら攻め続けるのみ。

――イケる。なんとか自分が戦闘出来る土俵に入れる、そう思ったウードの顎を槍の石突きがかち上げた。


「ガッ、アアっ!?」


 意識の外からカウンターで入った一撃にウードはたまらず後ろに倒れる。


「ぐっ……!はぁっ……(立たないとっ、まだ終了の声は出ていないっ)」


 豪快にやられたが審判の声は聞こえない。つまり有効であれ決定打にはギリギリならなかったのだろう。

痛みを押して立ち上がろうとするが目の前に槍の穂先が突きつけられる。


「………っはぁぁ。参った、お手上げだ」


 剣を放り、両手を上げる。完敗だ。最後の攻撃、あれは苦し紛れで放ったものではないのは食らった己が一番理解している。


「いやはや、イケるとは思ってたんだがねぇ。末恐ろしいモンがいたもんだ」


 痛む顎を擦りながら舞台を降りる。噂はかねがね聞いていたが、対峙してみればそれは間違いではないと思い知らされた。

ふと後ろを振り返ると試合開始前と何ら変わらない表情で去っていくクーガーの姿が見える。


「驚いたのはあの一瞬だけ、それも直ぐに返されたしなぁ。頼もしいやら悔しいやら」


 そこまで言って、こう思うようになったってことは俺も年かね。と苦笑いするウードだった。

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