48話
中級の試合が始まる。
第一、第二試合と終了し、早くもソーマの順番へとなった。
「これより一回戦第三試合、ソーマ対ゴルの試合を始めます。両者、舞台へ上がってください!」
審判の呼び掛けが響き、名前を呼ばれた二人が舞台へ上り相対する。
「決着はどちらかが負けを認めるか、有効打、決定打有無を私達審判が判定して決めます。宜しいですね?」
説明を聞き、頷く二人。試合毎に確認される事項だから最早確認されなくても問題ないのだが、それは必要な事だからしょうがない。
「ゴルさーん!豪快な一撃頼むぞーっ!」
「ソーマなんかチャチャとやっちまってくれー!」
「よっしゃあ!任しとけぃ!!」
ゴルに対しての声援が沸き上がり、ゴルもまたそれに応える。
ゴルは筋骨粒々の見た目そのままの豪快な性格でギルド内での人受けは良い。
「同じギルドの仲間なのになんなんすかねこのアウェイ感…。ちっとは俺にも声援の一つや二つくらいあっても良いもんだけど」
「おいソーマ項垂れんなよー!」
そんなソーマに声を掛けたのはパーティーメンバーのルセアやましてクーガーでもなく、同期のルドだった。
「あぁ、やっぱり持つべきものは友じ―――」
「お前に銀貨五枚賭けてんだ!負けたら承知しないぞっ!」
「少しでも感動をした気持ちを返してくんねぇかなあ!!」
今回の大会では観客側も盛り上げるために勝敗の結果を賭けを実施している。
勿論本格的に賭けて借金などされてはギルドとしても困るので、上限銀貨五枚までと定めている。
それでも観客のボルテージを上げるには十分すぎる効果が出ていた。
「おーおー、試合前だってのに言い合うなんてソーマのやつ随分余裕がありそうじゃねぇか?なぁ、クーガー」
観客席から眺めていたクーガーにそう喋りかけてきたのは初級の決勝戦で惜しくも敗れたライアンだった。
「お前はどっちが勝つと思ってる?下馬評では圧倒的にゴルさんが優勢だが」
「ソーマが勝つだろうな」
ゴルの力は確かに一番脅威だろうがそれだけではソーマの負ける理由には足らない。他にも幾つかあるが総合的に見てもこの試合の結末は決まっているとクーガーは考える。
「ほう?それはパーティーメンバーだからの見方か?」
「まさか。端から見ても今のソーマの実力なら十分に勝負になるさ、それに――」
身内贔屓かと問われるがそれを一蹴する。クーガーは戦いに関しては自分にも他人にも甘い考えはしない。それは油断であり驕りであり、それが自分の敗北―――すなわち死に繋がる事を知っているから。
「それに?」
「今のアイツに攻撃を当てるのは少々骨だと思うぞ?」
クッ、と笑うクーガーの言葉の意味をライアンは直ぐに知ることになる。
「試合開始っ!」
開始と同時にソーマは距離を取り、ゴルは一直線に突っ込んで来る。
(やっぱり最初から突っ込んで来るよなっ!)
ゴルは自他共に認めるパワーファイターだ。手には普段使っている斧ではなく大剣を持っている。対してソーマが持つのは通常の剣だ。
(互いのステータスを考えても真っ向からの打ち合いは決定的に不利。かといって呪文は使えない)
「打ち合えないからって下がってちゃ勝てないぞソーマあぁ!」
大剣を構え叫ぶゴル。厳つい風貌も相まって相手を萎縮させるには充分な気迫を放っている。
「真正面からやりあうだけが戦いじゃないでしょうよ」
ステージの端に着いたソーマは剣を構え腰を落とす。
距離を取ったのは試合の空気に慣れる時間が少しでも欲しかったから。
一呼吸つき、ゴルの姿をしっかり視界に入れる。
打ち合えないなら、打ち合わなければいい。何も相手と同じ土俵で戦う決まりはない。
(大丈夫、いける。相手は大剣だ、間違っても素早く連続で攻撃なんて出来ない。落ち着け、まずは一撃を避けることだけを考えろ)
意識が尖っていくにつれ周りの歓声が遠退いていく感覚がする。それに代わって自分の呼吸が、心臓の鼓動が耳を叩く。
「っふう…」
息を吐く。距離は約五歩。数度軽く手を開閉する。
――大丈夫、いける。
ゴルを見据え、ソーマは腰を落とす。
「ドオオリヤアア!!」
雄叫びと共にゴルは大剣を振り下ろす。
ソーマは放たれたそれをしっかり見極めてから左へと回避をした。
「まだまだあっ!」
ゴルは地面に叩きつけられ弾かれた大剣を力で無理やり軌道を変え、すかさず右へと振り払う。
「マジかよっ!?」
まさかこんな強引な形で続けて攻撃がくるとは思わなかったソーマだが、直ぐに体を沈めることでこれを躱す。
「なにっ!?」
まさかこれを躱わされると思わなかったゴルは驚愕する。
「っ、ここっ!」
ゴルは今の一撃で体が流されている。ソーマはここが機会と感じ、沈めた体制から足に力を入れゴルへと飛び込む。
前傾姿勢のまま一歩踏み込みがら空きになった胴へと剣を叩きこもうとする。
「甘いぜぇ!」
が、ゴルは体の流れに逆らわずにその勢いに乗って左足で蹴りを放った。
ソーマが攻撃しようとした瞬間に放たれた蹴りは、タイミングが完璧で端から見てもソーマに当たると思われた。
「―――っ!!」
ソーマが咄嗟に取った手段は剣や腕を使い直撃を防ぐのではなく、前傾姿勢だった体をさらに倒し、いわゆるヘッドスライディングの形でゴルの蹴りのその下に滑り込んだ。
「んなああっ!?」
当たると確信していた攻撃が避けられたことにゴルは驚く。
ソーマは滑り込んだ勢いそのままに体を転がし直ぐに体制を整え懐へと飛び込む。
ゴルは蹴りまで放ったこともあり、体は完全に開ききっており防御が出来る状態ではない。
「っ、くそ…」
そして抵抗も防御も出来ることもなく、ソーマの剣が首筋へと当てられた。
「そこまで!勝者、ソーマ!!」
審判の声が響き、続いて観客の歓声が響き渡った。
「マジかよ。本当に勝ちやがった」
驚愕するライアンにクーガーは言った通りだろと答える。
「にしても最後のあの蹴りをまさか躱すなんてな」
「言っただろ、アイツに当てるのは骨が折れると」
回りの人は口々に驚いているが、パーティーを組んでいるクーガーにとっては既に知っていることだった。
ソーマは目がいい。それは遠くが見えるとかではなく相手の行動をしっかり視れると言うことだ。相手の動きが視れるから攻撃がどこに来るかが分かる。
そして攻撃を見てから直ぐに回避行動に移れる反応の速さも備えており、この二つがあるからこそ最後のゴルの蹴りを躱すことが出来たのだ。
ソーマがこんな事が出来るようになったのはハイペースで戦闘系クエストを受けまくる二人のせいで急激に戦闘経験を積んだからこそなのだが、それはソーマ本人しか知り得ることはない。
「さて、と」
「ん?どこ行くんだクーガー。控え室はあっちだろ?」
「なに、ちょっと小遣いを貰いにな」
そう言って向かったのは訓練場脇に構えてる賭けの受付。どうやら確り賭ける事はしていたらしい。
「成る程、そんだけソーマを信頼してたって訳ね」
そう呟くライアンの財布の中は試合開始前より銀貨三枚程軽くなっていた。