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4話

 さて、とクーガーは柄を握りなおし状況を確認する。

 目の前には短剣持ちのゴブリンが一体、こん棒持ちが一体、ついさっき吹き飛ばした高レベルのゴブリンが一体の計三体がいる。

そして後ろには負傷したオテロ、そこから少し離れて小屋がある。チラリとオテロの様子を見てみると、傷は致命傷ではないもののこれまでの疲労と重なっているのだろう、今も膝を突いており息も荒い、とてもじゃないが一緒に戦いに臨める状態ではない。


(ゴブリン達から小屋までは少し距離がある、それにその間には俺とオテロがいるから狙われる心配はないだろう。むしろ気を付けなきゃならないのはオテロのほうか、最低限自分の身を守るぐらいは出来そうだがそれだって確実なものじゃない……か)


 視線を前に戻しクーガーは状況を整理し戦術を練る。


(オテロのほうにゴブリンが抜けないようにするとして、俺自身も囲まれないように立ち回り、出来る限り各個撃破出来ればいいが……)


 今度は相手の位置を確認する。一番奥にはリーダー格のゴブリンとそれを守るようにこん棒持ちのゴブリンが側にいて、手前には短剣持ちが進路を遮るように立っている。リーダー格はダメージがまだ残っているのか剣を杖がわりにして立ち上がろうとしている。


(やはりこのゴブリン達は普通とは少し違う)


 クーガーの知る限りゴブリンはその数を活かし一斉に襲いかかる戦いを主にして、 傷ついた仲間を庇う行動などは見られなかった。つまりこのゴブリン達は人との戦いのなかで戦術というものを少なからず学習した個体ということになる。普通であればとても不利な場面だが、今まともに戦えるのが自分しかいないこの状況では、数で攻めてこないだけでも幸運といえる。


(とはいえ、このままじっとしていても奴らに体制を整える時間を与えるだけか。ならこの隙にこちらから仕掛ける)


 ふぅっ、と軽く息を整え武器を構える。この世界に来てレベルが1の状態でなおかつ手には使い慣れない得物で迎える初めての戦闘。頼れる武器は前の世界で築いた戦闘経験ぐらい。


(改めて思うが、呆れるくらいに状態は良くはないな)


だがやるしかないか、とクーガーは覚悟を決めゴブリンに向かって駆け出す。


「ふっ!」


 一番手前のゴブリンに近づきハンマーを振り下ろす。だがゴブリンは後ろに飛びこれをかわす。すかさず構え直そうとするが、扱い慣れていない武器のせいか少しもたついてしまう。


「ゲヒッ!」


 その様子を見て好機と感じたか、ゴブリンが短剣を構え突くように突進してくる。それを足を引き半身にして回避する。そしてすれ違いざまに引いた足を使いゴブリンの足に向けて払う。


「ゲギャッ!」


 足を払われたゴブリンは勢いよく顔面から地面にぶつかる。クーガーはすぐさま距離を詰めゴブリンの背中を思い切り踏みつけ、身動きをとらせないようにした。そしてハンマーを振り上げゴブリンの頭を目掛け振り下ろす。

 頭蓋の砕ける衝撃音と共にゴブリンは悲鳴すら上げれずに頭をひしゃげ絶命した。


(まずは一体)


 クーガーは確かな手応えを感じながらハンマーを持ち上げ、残り二体のゴブリンに備える。

 今の光景にゴブリン達は少なからず動揺しているのか、なかなか次の行動に移らない。それを見たクーガーはハンマーを肩に担ぎわざとらしく笑みを浮かべる、それも相手を馬鹿にするように明らかな挑発の意味を込めて。


「ググゲゲッ……ッ、…ガアァッ!!」


 ワナワナと体を震わせていたゴブリン達はこらえきれずにクーガーに向かって来た。仲間が無惨に殺れた怒りではない、目の前の人間が自分達を下に見ているその顔が気に入らないのだ。

 ゴブリンにとって人間とは、自分達に殺され、喰らわれ、犯されるだけの下等な生物であり、そんな人間の一人が仲間を殺しただけではなく、あまつさえ自分達を取るに足らない存在と言わんばかりのそぶりを見せつけられ怒りを覚えない訳がなかった。


「上手い具合に引っ掛かったか」


 向かって来る二体のゴブリンを見ながらクーガーは次の行動に移る。今仕留めたゴブリンが持っていた短剣を拾い、こん棒持ちのゴブリンに放つ。短剣は一直線に飛んでいきゴブリンの腕に刺さり、うめき声を上げ倒れた。

 一体が倒れ足並みが揃わなくなったことにより分断の成功を確認したクーガーはハンマーを携えリーダー格のゴブリンに向け走る。両者の距離が縮まっていき、お互いの攻撃範囲に入った瞬間――


「ガアァァッ!」


 リーダー格のゴブリンが剣を水平に薙ぎ払う。それをクーガーは相手の脇に抜けるようにスライディングしてかわす、そして後ろに抜ける瞬間にゴブリンの足に手を掛け勢いのままに思い切り引いた。攻撃中だったこともあり踏ん張りも利かずゴブリンは顔面から倒れた。

 すかさずクーガーはさっきのゴブリンのように相手の背中を思い切り踏みつけ、ハンマーを振り上げる。しかしリーダー格のゴブリンも学習したのか、持っていた盾で頭を守った。クーガーはその行動を見てすぐさま狙いを変える。そして狙いを定めハンマーをゴブリンの足首に振り下ろした。

 鈍く骨が砕ける音が響き、クーガーは確かな手応えを感じる。


「ギャアァァァァッ!!」


 悲鳴を上げながらじたばたとゴブリンが暴れる。追撃をかけようとクーガーがハンマーを再び振り上げようとした時、先程倒れたこん棒持ちのゴブリンが追い付き横から飛びかかって来た。

それを柄で受け止め、後ろに飛び下がって距離をとり、構え直しながら相手の状態を確認する。リーダー格のゴブリンは声を上げながらまだ転がっていて、こん棒持ちはジリジリと距離を詰めてくる。


(奥のゴブリンは足首を砕いたからしばらく放っておいても大丈夫だろう。それなら目の前の奴に集中出来る)


 これまでの戦いでハンマーの扱いはあらかた理解した。まだ十全に扱える訳ではないがある程度の戦闘は問題ないだろう。なら次にやる事は決まった。クーガーはハンマーを強く握り、魔力を流し込む。


『エンチャント』


 言葉を放つと同時にハンマーが淡く光る。今のステータスだと掛けられる魔力も強くなく、持続力も長くはない。だがそれでも強力なことに変わりはない。

 クーガーは軽く息を吐くと、こん棒持ちのゴブリンに攻撃を仕掛ける。距離を詰めハンマーを右から左へと振り抜く、がゴブリンはしゃがむことで回避した。しかしクーガーは勢いを殺さずそのまま左足を軸として一回転し、ハンマーの軌道を変えた。そして遠心力が加わって更に強力になった一撃をゴブリンに向けて振り下ろす。ゴブリンはこん棒で防ごうとするがそんな事で止まる訳などなくこん棒もろとも叩き潰された。


(これで二体)


 ハンマーに掛けていたエンチャントは既に切れた。クーガーは消費した魔力によって乱れた呼吸を整えつつ残り一体になったゴブリンに目を向ける。

 そこには剣を突き立てそれを支えにして立っているゴブリンがいた。目は血走り、足を引きずりながら迫ってくる。クーガーは慌てる事なく自分の状態を確認した。


(今の状態だと、エンチャントは全力で後一回ってところか……。だが残りは奴だけだ、ならばもう温存する必要もない)


 それに今の自分がスキルを使い、何がどこまで出来るのかを知るにはちょうどいいとクーガーは考え、ハンマーに残っている魔力を注ぎ込む。


『エンチャント!』


 言葉と共にハンマーが先ほどより強く輝く。

 クーガーの属性は土。そして今の熟練度で行える付与効果は武器の硬化と重量の増加。オテロの火属性のような派手さはないが、扱う者によっては十分な強みとなる。武器の硬化は打ち合いでの武器の損傷を軽減し、とっさの場合には盾がわりにも使用できる。重量の増加もそのままではデメリットしかないが、武器を上手く扱えればその重さを活かし強力な一撃を叩き込むことができる。

 ズシリと手に持つハンマーの重さが増す。クーガーはハンマーを構え体を右に捻りゴブリンを待つ。ゴブリンはクーガーまでもう少しという距離で、砕かれていないほうの足で跳躍し切りかかってきた。しかしクーガーは焦ることなく、近づくゴブリンにむかって武器を振る。

 ただ力任せに振るのではなく、足から腰、腰から腕へと力の伝わりを意識し、そしてその力を余すことなく武器に伝える。エンチャントによって重量が増したハンマーに充分な遠心力が加わることで威力が格段に上がった一撃。

 ドンッ!!!という衝撃音と共にゴブリンの胴体にめり込む。バキバキと骨が砕ける感触が手に伝わる。


「はあぁぁああーー!!」


 叫びを上げ、クーガーは渾身の一撃を振り抜いた。

吹き飛ばされたゴブリンは二度三度地面を跳ねて転がり、木に激突し力なく倒れた。確認するまでもなく仕留めただろう。


「これで、最後」


 ふぅぅ、と深く息を吐き、周りを見渡す。見える範囲に他の敵の影はなく、後ろを見ると、負傷したオテロと小屋から出てくる二人の男の姿があった。


(とりあえず、なんとかなったか)


 オテロ達の無事を確認したクーガーは緊張を解き、未だ膝を突いているオテロに向かって歩く。


 こうしてクーガーのこの世界に来て初めての戦闘が終わった。

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