3話
「ゴブリンだと!?いったい何があったんだ!?」
男の話を聞いた瞬間オテロが男の肩を掴み問い詰める。掴まれた男はうっ、とうめき声を上げる。よく見てみると左腕から血を流していた。どうやらゴブリンに出くわしてそこから逃げるさいにやられたらしい。オテロは、はっとして手を離した。男は息を整えなが状況を説明しだした。
男の話によると、男を含めた仲間三人で狩りをしていた途中にゴブリンに出くわしたという。三人はすぐに逃走したが、運悪くゴブリンに一番近かったこの男が左腕に攻撃をくらったらしい。それを見た他の二人は持っていた弓を使いゴブリンを攻撃して注意を逸らした。その隙に男に向かって村まで急いで向かいオテロを呼んでくるように言ったという。
「状況はわかった。それで、その二人はどうした!?」
「注意を引き付けて少し離れた木材置き場の方に向かって行ったんだ。あそこなら小さな小屋もあるから少しなら凌げるはずだが、それもいつまでもつかわからない…頼むオテロさん!ゴブリンを退治してくれっ!!」
「任せておけ。ゴブリンなんざちゃちゃっと倒して二人を連れて戻ってくるからよ」
オテロは力強く答える。そのままクーガーのほうを向いて、
「クーガーよ、すまねぇがコイツを家まで上げて傷の手当てを頼むっ、俺はすぐに助けに行かなきゃならねぇからな!」
そう言いながら家の入り口に立て掛けてある斧を背負うオテロ。
「あんた一人で行くのか?」
「ここでぐずぐずしてる間にもゴブリンに殺られるかもしれねぇんだ!それにこの村でまともに魔物と戦えるのは俺ぐらいしかいないからな」
準備を終えたオテロはクーガーの肩に手を置く。
「安心しろ、すぐに戻ってくるさ。アメリアとフランクにも言っておいてくれ」
そう言ってオテロは走っていった。残されたクーガーは、負傷した男を治療するために、肩を貸しながら家の中に入っていく。すると中から慌てて様子でアメリアが出てきた。
「どうしたんだい!?さっきから外が騒がしかったけど」
クーガーは今さっき起きた出来事を説明する。話を聞いたアメリアは驚いたが、すぐに状況を理解し傷薬を取りに向かった。その後、クーガーは男を居間まで運び傷薬を持ってきたアメリアが治療を開始した。
「ところでそのゴブリン達はどれくらいいたんだい?」
傷薬を塗り傷口を包帯で縛り終えてアメリアは男に尋ねる。
「た、確か…五体はいたと思う…。」
治療を受けたことで少し落ち着いた男は、ゴブリンと遭遇した状況を語る。するとなにか思い出したのかはっとした顔で、
「あっ…いやその五体の中に一体だけ周りのやつより大きいやつがいたような、もしかしたら他のゴブリンよりレベルが高いやつかも…」
言いながら男の顔を青ざめていった。クーガーは男の話を聞いて少し前にオテロと会話していた内容の中に魔物の成長があったことを思い出していた。
この世界では魔物も人と同じようにレベルという概念があるらしい。人と魔物が戦い、人を殺すと魔物にも経験値が入り成長するという。成長した魔物は強くなるだけではなく、一定の成長をするとより上位の魔物に進化をする。さらに成長を続けると魔物の群れを率いる魔族になるといわれている。
男の話に出てきたゴブリンの姿が本当なら、あまり良くない状況かもしれないとクーガーは考える。
「ど、どうしよう。もしかしたらオテロさんでも危ないんじゃ……」
男は声を震わせながら呟く。それを聞いていたフランクは目に涙を浮かべながらアメリアに尋ねる。
「お父さん、危ないの?お父さん……、死んじゃうの?」
「何言ってんだい、大丈夫だよ。お父さんは昔から強かったんだから、ゴブリン相手に負けやしないよ」
不安にかられるフランクを抱きしめ、落ち着かせるように優しく答える。しかし抱きしめているその手が震えているのをクーガーは見てしまった。
クーガーは少し思案し、男に尋ねる。
「なぁ、木材置き場って村からどう行けばいい?」
「ちょっとあんた!?もしかして助けに行く気かい!?」
木材置き場までの道を聞いたクーガーは部屋の隅に置いたハンマーを手に取りながらアメリアに答える。
「オテロにはこの村に連れてきてもらった、それに親父さんの形見のハンマーを使ってほしいといって渡されもした。ここまでしてもらって何もしないっていうのはどうも落ち着かなくてな、要するに自分のために行くんだ」
あくまで善意で向かうのではなく、借りを返すという自分の都合で行くのだとクーガーは答える。
「待ってろ。すぐにお父さん達を助けて戻ってくる」
不安がるフランクにそう言ってクーガーはオテロの家を後にする。
「はぁっ、はぁっ。あれかっ!」
村を出て走り続けてしばらくして、オテロは目的地の木材置き場にたどり着いた。
周囲を見渡すと散乱している木材と応戦していたのだろうか、矢が何本も落ちていて、そして所々に血の痕があった。最悪の展開がオテロの頭をよぎったが回りに死体がないところを見るとまだ大丈夫らしい。
少し進むと小屋が見えてきた。しかしその回りを囲んでゴブリン達が手に持っている武器で扉や壁を破壊しようと攻撃している。今はなんとかもっているが、このままではそのうちに突破されてしまうだろう。もはや一刻の猶予はないと、オテロは戦闘体勢に入る。
「数は五体。厳しいがやるしかない……!『エンチャント』!」
背負った斧を手に構え魔力を流し『エンチャント』を施す、すると刃の回りが赤く輝く。それを確認したオテロはゴブリンに突貫する。
『エンチャント』とは、自分の武器に自分が所持している魔法の属性を付与することで性能を高める技のことである。属性を付与することによって威力の上昇は勿論、物理が効きにくいアンデット、ゴースト系にも攻撃が通るようになる。ただし付与できるのは武器スキルにある得物のみなので、武器スキルにない得物を使う者は少ない。
「おぉぅらぁぁ!!」
雄叫びと共にゴブリンに切り込む。まず一番近くにいたゴブリンにむかって斧を振り下ろす。
「グギャッ!?」
小屋を攻撃していて後ろを向いていたゴブリンはオテロの一撃で脳天から真っ二つにされた。
「グゲ!?」
仲間の断末魔を聞いてようやく他のゴブリン達がオテロに気付く。
オテロは一体目を倒した勢いそのままに近くにいたゴブリンに切りかかる。しかしすんでのところで避けられてしまう。その隙に他のゴブリン達がオテロの周りを囲んだ。オテロは斧を構え直し様子を伺う。
(ちっ、さすがに長く実践から離れていたからか、少しきついか。しかも一体は明らかに他のやつよりレベルが高いな…)
十年前の傷によりステータスも下がり、実戦感も陰りがある。視線の先には他のゴブリンより体が一回り大きいゴブリンがいた。装備も周りのゴブリンがこん棒や短剣などに対し、騎士団や冒険者が使うような剣と盾、そしてぼろぼろだが鎧も付けていた。その様子をみるに以前に人間と戦い、殺し奪った物だということは想像に容易い。
(だからといって、ここで退くわけにはいかねぇ!)
ここで退いてしまえば小屋の中にいる二人は勿論、村のほうまで危険がおよぶのは確実だ。それだけはさせはしないとオテロは精神を集中させ先ほどよりも魔力を強く流しエンチャントを掛けた。
エンチャントは使用者の熟練度によって追加効果を得ることが出来る。オテロの属性は火属性、それによりオテロの構える斧の刃に炎が纏われ、更に威力が上昇した。
(まずはこのゴブリン達のリーダーを潰す!)
リーダーを叩けば、残るゴブリンは取るに足らないと考えたオテロはリーダー格のゴブリンに真っ直ぐに向かって行った。
「グラァッ!」
横にいたゴブリンがリーダー格を守るように立ちふさがる。それに対しオテロは止まることなく掛かっていく。
「邪魔だあぁぁあ!!」
炎を纏った斧を振り下ろす。ゴブリンはこん棒で防ごうとしたがその程度で防ぎきれるはずもなく、こん棒もろとも切り伏せられてしまう。オテロは勢いを殺さず、リーダー格のゴブリンに襲いかかる。
「でえぇりゃあぁあ!」
大きく振り下ろした一撃は横に転がられたことでかわされてしまう。すかさず斧を構え直し追撃をかける。リーダー格に近づき斧を体の右に引き付け力を溜めて振り放つ、それをリーダー格は盾で受けるが威力を殺しきれず吹き飛ばされた。
それを見てここが好機と一気に畳み掛けようと踏み込んだ瞬間――
「がぁっ!?」
背中に鋭い痛みが走る。振り替えるとそこには短剣を振り抜いたゴブリンの姿があった。
(しまったっ、集中し過ぎて注意が疎かになったか……)
膝をつきながらオテロは歯を食い縛る。エンチャントは強く掛ければ掛けた分だけ強力になるが、それに比例して魔力や集中力も必要となる。一体一の戦闘ならまだしも、集団戦となると集中力の低下は命とりとなる。
(くそっ、クーガーにあんだけ大見得切っておきながらこの様とはっ……)
傷は致命傷ではないが、動きに支障がでるのは間違いない。この状態で残りのゴブリンを相手にするのはあまりにも絶望的な状況だった。
「だからって、諦めるわけにはいかないんだよっ!!」
自分にそう言い聞かせ、オテロは立ち上がる。その姿を見てゴブリン達はトドメを刺そうとオテロに飛びかかる。
「ぐっ、らぁぁああ!!」
オテロは傷の痛みに耐えながら、体を一回転させ斧を振るう。
「ギャッ!?」
飛びかかってきたゴブリンを弾き返すことは出来たが武器に防がれたのか、大したダメージは与えられなかった。この隙に体制を立て直そうするが、戦いの疲労とダメージで足がふらつき、また膝を着いてしまう。
「まず、いっ!!」
なんとか立ち上がろうとするが、目の前にはリーダー格のゴブリンが剣を振り上げて立っていた。
(ここまでなのか…?)
オテロの脳裏に家族の顔が浮かび上がる。そして剣が振り下ろされる光景を見て死を覚悟した瞬間――
「はぁぁぁああっ!!」
力強い声と共に横からハンマーが振り抜かれた。
「グギャァァッ!!」
悲鳴をあげながらリーダー格のゴブリンは吹き飛ばされた。
「なんとか間に合ったか」
オテロはいきなりのこの状況を飲み込めず、声のしたほうに視線を向けると、そこにいた人物に驚く。
「なんでお前さんが、ここにいるんだ!?」
「ん?まぁ細かい理由はいろいろあるが一言で言うなら、」
問われた男はこちらを振り返りると――
「あんたを助けにきた」
親父の形見のハンマーを携えながらクーガーはそう答えた。