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34話

「皆よくやってくれた!!ささやかながら宴会の用意をさせてもらった!ぜひとも楽しんでくれ!」


 オオーッ!と杯を掲げ互いの健闘を称えるように祝う。

緊急依頼を終えて数日、事後処理を終えた面々はシグマの提案でギルド近くの飲み屋で宴会を開いていた。


「しゃーっ!!飲むぞーー!」


「シグマさんの奢りだ!遠慮するなよ!」


「うめーっ!タダで飲める酒ほどウマイもんはないな!!」


「お前らぁ!!あくまでもささやかな宴会だからな!ちっとは気ぃ使えよ!?」


「はいはーい!分かってますよー。あ、すいません!とりあえず酒どんどん持ってきちゃって下さーい!」


「分かってねぇだろ!?お前!?いくら俺がギルドマスターつってもモノには限度ってもんが、っておい!待てって!しょっぱなからこんなに頼むんじゃないっ!!」


 良いじゃないかー、ケチ臭いぞー、独り身ー。皆のために宴会を開いた本人に対し、酒の席というのもあってか皆いつもよりも軽い口調で文句を垂れる。勿論シグマ本人も分かっているので怒ることなく――


「おいっ!誰だ独り身つった奴!ソイツだけいくらか支払わすぞ!!」


 ―――普段よりも陽気な態度で応えていた。


「おー怖、シグマさんが気にしてること見事に言っちゃってまぁ。少しの間離れるとしますかねっと」


 巻き込まれるのは面倒だと、自分の分の小皿をしっかりと確保してシグマ達のテーブルから離れるソーマ。向かった先は同じパーティーのメンバーであるクーガーの元。


「よぉ、楽しんでいる…か?」


 そこには宴会が始まってまだ間もないのに既に皿を積み上げ始めているクーガーの姿が。

ムシャコラムシャコラと、他の冒険者と会話もせず黙々と食べ続けるクーガー、ソーマに気付いて軽く一瞥するがそのまま手を休めることなく食事を続ける。

こいつは一人で大食い大会でもしてるのかと持っている皿をテーブルに置くことなく食事風景を見ているソーマ。


「………何か用か?」


 飯を食っているところをじっと見られては流石に気にはなるクーガーはソーマへと問う。


「いや、特別用があるわけじゃないがシグマさんの所が騒がしくてな。落ち着くために避難しにきたってわけ」


「そうか」


「というかどんだけ食うつもりよオタク。宴会なんだから飯を食うんだけじゃなく他の奴らとワイワイと楽しまなくていいのか?」


「別にいい。そういうのは得意じゃないんだ。それに折角のタダ飯だ。なら目一杯食わないと勿体ないだろ」


 そう言うとクーガーはまた食事を再開する。前の世界では食事は一人で取っていた。誰と会話するわけでもなく交流することもなく、ただ腹を満たす目的のために食事を取っていたクーガー。この世界に来てから少しは食事中でも会話をするようにはなったが基本的には必要がなければしないしその方が楽だ。


「まーそうですけどねー。でも折角一緒の依頼をこなしたんだ。互いに健闘を称える会話だけでもしとくもんだと俺は思うぜ」

 

「そうね、私もそう思うわ。貴方は普段からもう少し周りの人と関わったほうが良いと思うの。ソーマにしては良いこと言ったんじゃない?」


 新たに聞こえた声の方向に視線を向けるとそこにはグラスを片手にしているルセアの姿が。


「お前なぁ…、ソーマにしてはって……、まったく一言余計だっつーの」


「あらそれはごめんなさい。まさかそこまで気にするとは思っていなくて」


 ジト目で睨んで抗議するが対するルセアはまったく悪びれる様子もない。それに少しカチンときたソーマはルセアに突っ掛かっていき、ルセアもそれに対抗していく。


「この際だからはっきりと言わせてもらいますがね―――!!」


「へぇ、ソーマにしては言ってくれるじゃない―――!!」


 次第に熱を上げていく二人、周りの冒険者も様子の違う騒ぎだと気付きどうしたんだと集まってきた。ちなみにこの間もクーガーは食事の手を一切止めていない。

尚も止まらない二人に、周りの人がそろそろ止めようかと動きたそうとした時、シグマが二人に近づき頭にげんこつを落とした。


「い"っっ――!?」


「いっっ、たぁぁ……」


「ったく、お前らそこまでにしとけよ。今日は宴会だって言っただろうが」


 痛む頭を抱え踞る二人に説教をするシグマ。周りの冒険者達も後は大丈夫だろうと宴会を楽しみに戻っていった。


「おいちゃんと話を聞いてるのか?」


「勘弁してくださいよ…痛みでまともに聞けてないですって…」


「よしちゃんと聞いてるな。いいか、だいたいお前らは――」


 ソーマの抗議も空しくシグマの説教は続いていく。

暫くして残りの時間は揉めるなよと念を押し二人を解放した。


「まったく、折角の宴会だっていうのに素直に楽しめないのかねアイツらは…」


 グラスに入った酒を呑みながら愚痴るシグマ。緊急依頼をこなしてくれた面々を労うために自ら開いた催しだからこそ、皆に十全に楽しんで欲しいとい気持ちだったからこそ出た言葉だった。


「というかお前はいつまで食ってんだ?というよりどんだけ食いやがったお前っ!?」


 シグマの視線の先にはうず高く積まれた皿の山が()()()()あった。


「?いつまでと言われれば腹が一杯になるまで食うし、どれだか食ったかと聞かれれば漸く腹八分ぐらいか」


 クーガーの答えに唖然とするシグマ。明らかに大の男が一人で食べれるであろう食事量を軽く上回りながらも涼しい顔でまだ食べると答えられたのだから当然の反応ではあるが。

とりあえずこれ以上出費を重ねられたくないと考えたシグマはウェイターに酒を一杯注文しクーガーへと渡した。


「ほら、別に飲めないってことはないだろう?一杯だけでいいから付き合え」


「……一杯だけなら」


 しぶしぶといった感じだが了解をしクーガーはグラスを受け取る。


「それじゃあ依頼達成を祝って――」


「「乾杯」」


 カランと軽く互いのグラスを合わせる。一口飲んで喉を刺激が通る。滅多に口にしない酒にクーガーは少し顔をしかめる。その様子を見てシグマは意外そうに笑った。


「――ところで話はなんだ?」


「ん?大したことじゃないんがな…、ルセアのことで改めて礼を言おうと、な」


 そこまで聞いてクーガーは前にシグマと交わした会話を思い出した。


「別にいいさ。それよりやけに気に掛けるんだなルセアの事」


「まぁ、親友の一人娘出しな。それに……」


「……いやそれ以上はいい。確か前にも聞いたことだったな」


 依頼に出る前に少し聞いたルセアの事情。勿論詳しくは聞かなかったが少なくともルセアをああも駆り立てる程の事はあったのだろうと想像はつく。本人が抱えている事情を他人から聞くつもりはないクーガーはそれっきり口を閉ざした。


「――――――――」


 二人の間に流れた沈黙。それを破ったのはシグマだった。


「最初はどうなるもんかとハラハラしたが、案外上手くやっていけそうで安心したよ」


 最初は少し押し付ける形でルセアをパーティーに組み込ませてみたが、この分なら充分にやっていけそうだと感じたからこそ出た言葉だった。

最初は弟であるオテロから面倒なヤツを寄越されたものだと不満に思ったが、今では中々どうして優秀なヤツを寄越したもんだとありがたく思えているシグマ。


「これからも宜しく頼むぜ」


 そう言って新たに注文したグラスをクーガーに手渡しシグマは自分のグラスを上げる。クーガーは心底面倒だという顔をするが、ため息を一つついて、あまり面倒なのはゴメンだがな、と言ってグラスを合わせた。

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