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33話

「そらよっと!!」


 三人の中で一番速いソーマが駆け抜けざまにトロルを切る。と言ってもソーマの持つ短剣ではトロルの腹の脂肪を僅かに切ることしか出来ない。しかしそんな事は百も承知、今自分がすべきことは本命の一撃が必ず成功するための布石を敷くこと。そのために一撃離脱を徹底的に仕掛ける。そしてそれを行うのはもう一人―――


「フッ!!」


 ソーマと入れ替わりに攻撃を仕掛けるルセア。鋭く何発もの拳を打ち込む。勿論深追いはしない、トロルの注意がこちらに向き反撃を仕掛けようとした時には直ぐ様に距離をとる。そしてまた死角からソーマが切り込む。


「~~~ッッ!!!!」


 歯を食い縛り、唸り声を上げながらトロルは苛立つ。最初は目の前の人間の男をさっさと殺し、女を犯そうとした。しかしそれがどうだ、手下のゴブリンが殺られたどころか自分も片目を潰されてしまった。その事が更に苛立たせる。ひ弱な癖に自分の周りをちょこまかと動き回る姿に遂にトロルはキレた。

雄叫びを上げ、目の前の男を吹き飛ばすように大きく振りかぶり横へと振るう。当たれば間違いなく肉塊になる一撃。


「っ!?っぶねえっ!!」


 ギリギリのところでその場に伏せることで間一髪回避することに成功するソーマ。トロルは力一杯に振るったために全くの無防備、そして視線も注意もソーマに向けられている。


「これを待っていたっ……!」


 そのトロルの死角、完全に意識から外れていることを確信しクーガーは行動に移る。


「『エンチャント』!!」


 今持てるだけのありったけの魔力をハンマーに込める。ズシッと込められた魔力に応じてハンマーは重さを増していく。それをしっかりと構え魔力を込め続ける。

この瞬間こそクーガーが待ち望んだ一瞬。視界の半分を奪い己の存在を相手の意識から外し、そして相手が致命的な隙を晒したこの時をクーガーは待っていた。


「―――」


 今自分が込めれる魔力を込めたハンマー。重量が増し、気軽に振るえるものではなくなったソレをクーガーは全身の力を使い振るっていく。

―――肩に構えたハンマーを下ろす勢いで一回転。

―――それに体重を掛け勢いを増した二回転。

―――更に勢いがついたソレに振り回されることがないように足に力を込め支点とし、勢いを完璧に制御し極限まで力を乗せた一撃を目標に向かって放つ。


「―――ぉぉぉおおおおっ!!!」


 咆哮と共に放たれる一撃。狙いは一つ。厚い脂肪に覆われた巨体を支える太い足。そしてそのなかでも脂肪が薄い"膝"。


「――!?グルアッ!?」


 クーガーの行動に漸く気付いたトロル。しかしもう遅い。まともな防御行動すらとることを出来ずにクーガーの一撃が炸裂する。


「―――――――ッ!?!?!?」


 声にすらならない絶叫を上げるトロル。大きく鈍い破砕音を響かせ、骨が砕ける確かな感触を感じたクーガー。

 そしてトロル膝をつく。更に自身の巨体の重さに耐えきれずに倒れそうになるが腕をついて四つん這いの形でなんとか踏みとどまった。


「これで決まりだ」


 大きく息を吐くクーガー。まだトロルは生きているがもう負けることも、ましてこちらが負傷することもないだろう。それほどまでに状況が決定的になった。

膝を砕かれたトロルは立ち上がることも出来ず、その巨体をなんとか支えるために腕をついており武器を振ることも出来ない。


これこそがクーガーが望んだ状況。自分達で致命傷を与えることが難しいのであればまず相手の行動を潰す。そのために視界を潰し決定的な一撃を打ち込む隙を待ち必殺の一撃を食らわす。


「フーッ!フーッ!!」


 歯を食い縛り荒い息を吐きながらも殺気について満ちた目でクーガー達を睨むトロル。しかしクーガーは何食わぬ顔でトドメを刺すために一歩トロルへと進む。


「―――!グッ、ガアアア!!」


 瞬間、トロルは叫びを上げ最後の力を振り絞り片手で体を支えこん棒を持った腕を振るおうとする。


「っ!?アイツまだ――!?」


 驚愕するソーマ。追い詰められたトロルが見せた決死の反撃。まさか動けるとは思わなかったゆえにソーマとルセアは動けなかった。


「無駄だ」


 しかしクーガーは動じることなくトロルの腕が振るわれるより先に体を支えている腕にハンマーを振るう。

体を支えていたソレは耐えることが出来ずに払われトロルは体を完全に倒してしまう。


「言葉が通じる訳もないが言ってやる。お前はもう終わりだ」


 淡々と言い放つクーガー。言葉通りトロルはクーガーの言っている意味なぞ分からないだろう。しかし今の自分がおかれている状況が、目の前の男の態度が、これから自分が殺されるという事実を突きつけている。


「『エンチャント』」


 ハンマーを振り上げ魔力を込める。トロルはジタバタともがくが最早何もなす事はないしさせるつもりもない。そして振り下ろされた一撃によりトロルの頭蓋は叩き潰された。




「終わったのか……?」


「少し痙攣してるが頭は確実に潰したし、まぁ大丈夫だろうよ」


 ハンマーを軽く振るい付着した血を払いながら答えるクーガー。今の今までトロルと戦っていたのにその声色は普段と何ら変わらない口調に戻っている。


「はぁぁ、何でお前さんはそう直ぐに落ち着けるんですかね、こちとらまだ心臓が脈打ってツラいんですけど」


「そうか。気持ちがまだ切れていないないなら、先にライアン達の所へ向かってくれないか。ゴブリン相手に大丈夫とは思うからこっちの戦闘が終了した報告を頼む」


 余計な事を言ったかとソーマはしかめ面になるが、ライアン達の事が気になるのも事実なので、クーガーに了解と返しライアン達の元へと向かった。

そして残ったクーガーとルセア。


「貴方ってすごいのね」


「……急にどうした?」


「私本当はもっと苦戦してトロルを倒すと思っていたの。それこそ誰かが大きな負傷をしてでもって…。でも貴方の指示通りに動いたら三人ともほぼ無傷でしょ?私もソーマもまだ初級の冒険者よ。それでも自分の実力はある程度は分かっているつもり」


 そこで一旦言葉を区切り真剣な目付きでクーガーを見据え。


「良ければ聞かせてくれるかしら?貴方がどうしてそこまで戦えるのかを」


 それは純粋に感じた疑問。自分とほぼ変わらないレベルなのに自分とは明らかに違うと感じさせるクーガーにルセアは問わずにはいられなかった。


「―――随分踏み込んだ話を聞くんだな」


 どうしたものかとクーガーは悩む。クーガーにしてみれば誇れる事情ではないが、それはこことは違う世界に居たときの話。オテロやシグマには必要と感じ事情を話せたが、果たして今ここでルセアに話すべきかと。


「えっ、と、もしかしたら話しづらいことなのかしら?それだったらごめんなさいっ。私ただ少し気になって…」


 クーガーがあまりにも答えづらそうにしているのを見たルセアはマズイ事を聞いたのかと思いクーガーに謝る。


「いや、気にしなくていい。そうしおらしくされても俺が困る」


「それってどういう意味かしら?」


 一転ムスッとした顔をするルセア。


「言葉通りの意味だ。それより俺達も行くぞ。ソーマ達と合流して村へと向かった奴らに報告しないといけないしな」


 これ以上話していては面倒な事になると察したクーガーはさっさと踵を返してライアン達の元へ向かった。


「ちょっと!?まだ話は終わってないわよ!」


 まだ納得していないルセアは文句を言いながらもクーガーに付いていった。

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