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32話

 三人とも散開しながら展開していく。ルセアはトロルから見て右側からクーガーは左側から、ソーマは少し離れてまず自身の得物である短剣を回収していく。

 ギロリ、と血走った目でクーガーを睨む。どうやら先程腕にハンマーを叩き込まれたのがよほど頭に来たらしい。視線だけではなく体もクーガーの方へと向けこん棒を構えた。


(いい具合に頭に血が上っているか…、あともう一押しといったところだな)


 作戦の第一段階ではいかにトロルの注意をソーマから遠ざけるかに掛かっている。そこでクーガーはルセアと共にトロルに接近戦を仕掛けることで注意をこちらに引き付ける。

チラ、と視線をルセアに向け互いに合図を送る。先に仕掛けたのはルセアだ。


「シッ!!」


 トロルの視線が完全にクーガーへと向いていたので、がら空きになっている腹へと拳を打ち込む。それでも意に介してないのかこちらを向かないトロル。ならばと、ルセアは拳を連続で打ち込む。


「ハアァーー!!」


 二発三発四発と、拳を打ち込んでいく。これにはさすがのトロルもルセアに注意を向けざるをえない。トロルはルセアの方へと向き、腕を振って払おうとする。

それを屈むことで回避するルセア。躱されたことに苛立つトロルは今度はこん棒をルセア目掛けて振り下ろした。


「そんな大振りっ、当たるものですかっ!!」


 すかさず横に飛び退くルセア。その直後に振り下ろされたこん棒は地面を砕く。砂塵が舞うなか、距離を取るルセアを追うとするトロルだったが。


「どこを見ている?相手は一人じゃないぞ」


 クーガーによる一撃がトロルの背中に放たれる。完全な意識外からの一撃。しかし。


「どうやらこれも効果が薄いか…、わかってはいたつもりだったが厄介だな」


 多少のダメージは与えられただろうが、有効打かどうかと問われれば否だろう。トロルはクーガーを睨み付け迫ってくる。


「まぁ、苛立たせるということでは成功か」


 そして直ぐ様に距離をとる。それをトロルが追う。そして注意が外れたもう一人が攻撃を仕掛ける。そしてそれをトロルが追う。この繰り返しを続ける。トロルの意識から()()()()()()を消すために。


「よっ、と」


 何度目かの攻防。トロルの意識がルセアへと向いている時、クーガーはソーマへと視線を向ける。ソーマは短剣を回収し終え、一本の短剣を構え魔力を施していた。


(準備は順調、仕込みのほうもそろそろいいだろう)


 そろそろ仕掛け時だとクーガーは感じ、ソーマへと合図を送る。ソーマもそれを確認し、さらに魔力を込める。


「さぁ、仕掛けるとしようか」


 武器を構え、トロルへと走る。先程から幾度と繰り返した攻防で頭に血がのぼりきり、もはや手近にいるクーガーとルセアしか目に入っていないトロル。残す手順はソーマの短剣を確実に当てるための決定的な隙を作ること。そのために今までは入れ替わりで一対一の状況を作っていたがここで二対一になるように動く。


「ルセアっ!」


 トロルと対峙しているルセアへ声を掛ける。すぐに意図を理解したルセアは身軽にステップを踏み、トロルへと肉薄する。


「フッ――!」


 一足で距離を潰し腹へと拳を見舞う。この戦闘が始まってから何度か繰り返された光景、しかしここから違うのが――


「ハアァ――!」


 横からのクーガーの追撃。勿論ダメージはほとんど与えられていない。しかし先程から何度も何度も何度もしつこく繰り返されたこの動きに遂にトロルがキレた。


「グルルアアアァァアア―――!!!」


 一際大きな叫びを上げ今まで片手で振るっていたこん棒を両手で持ち、攻撃をした直後のクーガーへと狙いを定め振り下ろす。


(ここだっ!)


 クーガーは僅かに立ち位置をずらしトロルの攻撃を誘導する。そして振り下ろされた瞬間、全力で後ろへと飛び退く。

 そして飛び退いた直後、今までとは比べるまでもなく巨大な破砕音を響かせ地面が砕かれた。


「フーっ!フーっ!!」


 避けられたことを知りながらも渾身の力で振り下ろしたが故に直ぐにこん棒を構えることが出来ない。辺りに粉塵が舞いクーガーを見失ってしまい、何処へ消えたかと視線を動かすトロル。そんななか、粉塵を切り裂き一本の短剣が姿を現す。魔力を纏ったソレは確かな速さと鋭さをもってトロルの顔へ、正確には右目へと突き刺さった。


「アガアアア―――!?!?」


 一瞬で視界の半分が失われた衝撃と痛みで絶叫を上げるトロル。


「ようやくまともなダメージが入ったか」


「ここまでしてやっと一撃っていうのが辛いわね」


 体制を立て直しトロルの様子を見る二人。そこにソーマも駆け寄ってくる。


「なあ、本当に片目だけでいいのか?今なら左目も出来なくはないぞ?」


「いやそれじゃ駄目だ。片目は残しておかないといけない」


「……理由は?」


「簡単なことだ。両目が見えなくなればアイツはなりふり構わず暴れ得物を振り回すだろう。今の俺達にそれを捌ききるのは流石にキツイ」


 だからこそ片方の視界だけを潰す。片側が見えればそれでなんとかしようとするのは当然の行動だからだ。そして勿論のことだが半分の視界では今まではと同じ行動をとることは難しい。単純に視野が狭くなること、距離感の取り方、それら諸々の原因でただでさえ鈍重なトロルの動きがさらに鈍くなる。


「ここが正念場だ。一気に決めるぞっ!」


 この一撃で確実に戦闘の流れはこちらに傾いた。後は勝利という結果を手に入れるだけだ。

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