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31話

 ズシン、とトロルが重い一歩を踏み出す。動きは鈍いが確実に近づいてくるその姿から来る圧迫感に額から汗が滲む。二人は視線を交わし行動に移る。


「――――っ」


 狙いを分散させようとソーマはルセアから距離をとる。しかしトロルはソーマのことなんぞ眼中にないようでルセアへと真っ直ぐ近づいていく。


「ったく、ここまで完璧に無視されると、それはそれでカチンとくるんで、ねっ!!」


 トロルの顔を目掛け短剣を放つ。真っ直ぐに放たれたそれは腕を盾にして防がれてしまう。そしてトロルは腕に刺さった短剣を腕を振るっただけで抜いてしまう。


「チッ、効果はほぼ無しですかよ」


 刺さった部分から流血することもなく、有効なダメージを与えられないままトロルは歩みを再開させた。


「……一回仕掛けてみましょうか、ソーマ!今度は呪文で援護を頼むわ!」


 その様子を見ていたルセアが次の行動へと移る。自分達の攻撃がどの程度まで通じるのか確かめなければならないと感じたからだ。


「了解っと、そっちもへまだけはしてくれるなよ!」


「勿論っ!」


 ダンッ、と地面を蹴りだし一気に距離を詰めるルセア。ソーマも直ぐ様詠唱に入る。


「『エンチャント』!」


 魔力を纏わした一撃をトロルへと打ち込む。トロルは一切の防御行動をとらずにルセアの一撃を受けた。確実に入った攻撃、手応えはある、トロルの反応を確かめようとするルセアだったが直ぐ横からトロルの手が迫ってきていた。


「―――ッ!?チィッ!」


 間一髪の所で後ろへ飛び退くことで難を逃れたルセア。トロルを見ると何事もなかったかのように立っているトロルの姿がある。

尚もルセアを捕まえようと手を伸ばしてくるトロルに対してソーマの呪文が放たれた。


「『ウインドカッター』!!」


 トロルに向かって飛んでいく風の刃は、先ほどの短剣と同じように腕で防がれてしまった。


「これも駄目かっ……?」


 ソーマの呪文はトロルの腕を軽く切り裂いただけに留まった。しかし先ほどとは違い確かな傷を負わされた事にトロルは怒りの表情をソーマに向けた。


「あら良かったわね。貴方も見てくれるようになったじゃない」


「お前と全く意味合いが違うんですけどね。全くここまで攻撃が効かないんじゃ埒が開かねえ、早いとこクーガーは来てくれないものか」


 トロルの特長である自身の巨体を覆う厚い脂肪。それは天然の鎧となり、剣で切ろうが槍で突こうが、脂肪に阻まれ致命的な一撃を食らわせることを難しくさせる。高レベルの冒険者なら力ずくで倒すことも出来るが今の自分たちでは火力が足らない。


「とりあえず後少しで来るはずよ。それまでは私達でなんとか凌がないと」


「幸いなのが相手さんが見た目通りにノロマな事か、近づき過ぎず適度な距離を取って行くしかないか」


 会話を終えトロルから距離を取り散開する二人。トロルはソーマの存在が邪魔だと判断したのか鼻息荒くソーマへと向かっていく。


「い"い"っ!?マジかよっ!?」


 てっきりまたルセアの方に向かうと思っていたソーマは驚く。しかもルセアを捕らえようとした動きではなく、確実に目標を叩き潰さんとした動きでトロルが迫ってきていた。


「んにゃろっ!!」


 迎撃のために短剣を放つがこん棒を持つ腕を一振りされただけで払われてしまう。その様子を見て、足を止めることは叶わないと思ったソーマは再度距離を取ろうと駆け出そうとするが、


「ガアアッ!!」


 トロルが地面に向かったこん棒を力いっぱい振り下ろした。ドゴンッ!!という衝撃と共に地面が砕け、破片が辺りへと吹き飛ぶ。


「――っ!?」


 咄嗟に腕を交差させ破片を防ぐソーマ。いくつかの破片が体に当たるが幸い致命的なダメージは無い。衝撃が収まったのを確かめ腕を解くが、目の前にはこん棒を振るおうとしているトロルの姿が。


「しまった!?」


 やられた。今の一撃は攻撃ではなくソーマの足を止めておくためのもの。鈍重なトロルが足の速い相手を捉えるための手段。その手際に舌を巻くのもつかの間、トロルはその腕をソーマへと振るう。―――殺られる。そう覚悟した瞬間。


「―――ハアアァッ!!」


 雄叫びと共に横からトロルの腕にハンマーがぶつかる。ドン、という鈍い音がしてトロルの攻撃の軌道が逸れた。攻撃をした人物――クーガーはソーマに向かって叫ぶ。


「走れっ!」


 その一声でソーマはトロルから距離をとる。クーガーもそれに続き、トロルから離れた。


「はぁっ、はぁっ……、いやーマジで死ぬかと思った……。助けてもらってなんだけどもう少し早く来てくれませんかね?」


「これでも全速力で来たんだ。ギリギリだったとはいえ間に合ったんだ、コレぐらい大目に見ておけ」


 軽口を叩きながらもクーガーはトロルから視線を外さない。トロルの腕へと完璧に入った一撃だが、多少痛む仕草は見せているが行動を制限させるようなダメージには至ってはいないようだ。


「大目に見るかどうかはこれからよ。本当に私達でアレを倒す方法、あるんでしょうね」


 二人の元へ来たルセアが尋ねる。脂肪という天然の鎧を纏ったトロル相手に自分たちが本当に太刀打ちできるかを。


「当然だ。今からそれについて話す――」


 返ってきた言葉は肯定。続いてこれからの行動の指示。それを聞いたソーマは不安そうな顔でクーガーへ問う。


「それ本当に上手くいくのか?よしんば成功しても本当に倒せるのかよ?」


 クーガーの指示の内容は単純明快。理屈は分かる、だからこそ今の自分達の実力でそれを成せるのかが疑問に残る。


「倒せるのかじゃない、倒すんだ。覚悟を決めろ、なにがなんでもアイツを仕留めるという覚悟を、それ以外は必要ない」


 出来る出来ないの二択ではなく、必ず仕留めるという一択。その言葉で覚悟を決めたソーマとルセアはそれぞれに構える。対するトロルは目を血走せながらクーガー達へと突撃してくる。


「さぁ来るぞ。準備はいいな?」


「当然!やってやるわ」


「こちらもオッケーですよ。まぁお前の言うとおりもうやるしかないんだ。全力でやってやるさ」


「よし、――行くぞっ!」


 そして三人はトロルを倒すべく駆け出した。

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