29話
「シッ!」
手近にいるゴブリンに向けハンマーを振り下ろす。奇襲によって慌てふためている状態のゴブリンは何も出来ずに頭を潰された。
「――次っ!」
相手が体制を整える前に数を減らす。クーガーは直ぐに武器を構えゴブリンの集団の中心へと駆ける。少し遅れてルセアが、そしてライアン達が続く。急な襲撃に対応出来ないゴブリンは為すすべもなく倒されていく。
「生命を包む柔らかな風よ、敵を切り裂け!『ウインドカッター』!!」
「生命を照らす暖かな火よ、敵を燃やせ『ファイアーボール』!」
そしてソーマとライアンのパーティーの魔術師が呪文でクーガー達を援護する。放たれた風の刃と火の玉がそれぞれゴブリンどもを蹴散らしていく。初動は順調、クーガーは駆ける足に力を込め進む。
「ハァッ!!」
そして集団の中心付近へとたどり着いたクーガーはハンマーを振り回す。それによって数対のゴブリンが吹き飛ばされた。そして倒れたゴブリンにライアン達が確実に止めを刺していく。
「ソーマ!敵の状況はどうだ!?」
「先の方から何体かのゴブリンが戻ってきた!それに後方からも!…こりゃ思ったより数がいやがるぞっ……」
攻撃の手を緩めずにクーガーは思考を回す。本来ならこの場をライアン達に任せクーガー達はトロルの元へと向かうはずだった。しかしソーマの言葉通りゴブリンの数が多い。これではライアン達の負担が大きい、しかし全員で相手をしてはトロルが村へと進むのを止められない。
「(分は悪いがこれしかないか……)ソーマ!ルセア!お前達は先にトロルの方へ向かえ、俺は少しコイツらの相手をしてから向かう」
「ハァ!?俺とルセア二人でどうにかなるわけないでしょーがっ!?」
「倒せとは言ってないっ!少しの間足止めをしてくれれば、それでいいっ!」
勿論二人で倒せるとは思っていない。しかし機敏な二人だからこそトロル相手に立ち回れるだろうと考えたクーガー。
「足止めっつったって――」
「わかった。ソーマ、行くわよ」
言うが早いかルセアは駆け出す。
「っておいっ!」
「ルセア、もう一度言うが足止めがメインだ。トロルは動きが鈍い、距離を保っていればそう危険は少ないはずだ」
クーガーの言葉にルセアは足を止めずに手を挙げ応える。そして道を遮るゴブリンを殴り飛ばして進んでいった。
「危険は少ないって簡単に言ってくれやがってっ!ああもう!わかりましたよやりゃあいいんでしょう!?」
「俺も直ぐに追い付く」
「全力でそうしてくれ!」
そう言い残しソーマもルセアに続いて駆け出した。クーガーはライアン達の元へ駆け寄り体制を整える。
「というわけだ。とりあえずは今いるゴブリン達を蹴散らすぞ」
「簡単に言うねお前は、こちとら今からあの数相手にしなきゃなんないと思うと気が重いんだがなぁ」
「やらなきゃ殺られるだけだ。ある程度目処がつくまでは俺もここにいるさ」
「そいつは頼もしいが、お前に頼りきりって訳にもいかないんだよ。さっさと二人に追い付いてトロルを倒してもらわなきゃならないしな。だから、いっちょ気張りますかね!」
その言葉にライアンのパーティーの面々も頷く。いくら自分達より強くてもたった一人に頼りきる訳にはいかないと。
何より当初の作戦は自分達がゴブリン達を抑えなければいけなかったのだ。ならば最初から全力を出さないでいつ出すというのだ。
そしてライアンは懐から煙玉を取り出しクーガーに見せる。意図を理解したクーガーは頷きを返す。そしてライアンは煙玉を空中に放り投げると、弓使いがそれを撃ち抜く。パァンという破裂音とともに赤い煙が空に広がる。
煙玉は離れたパーティーと連絡をとるためにも使われる。そして煙の色毎に意味があり、赤色は救難、援護を求める色だ。これにより煙に気付いた遊撃のパーティーが駆けつけてくれるはずだ。
「さて後は援軍が来るまで、コイツらを倒すことに集中しますか」
剣と盾を構えるライアン、パーティーメンバーもそれぞれ武器を構えゴブリンに備える。
こちらの人数はクーガーとライアンのパーティーを合わせ六人。対するゴブリンは見える分だけでも十体はこえており、後ろからもまだ来る様子だ。
(せめて今の数を半分ぐらいには減らさないといけないか)
救援が来るまで時間がかかる。それまでにせめてライアン達でも安心して対処できる状況を作らなければならない。それにトロルを討伐するために『エンチャント』用の魔力を残しておかなければならない。
(迎え撃っていては時間がかかりすぎるか)
先行させたルセアとソーマのこともある。速やかにゴブリンを倒さねばルセア達の危険が増す。ならばと、クーガーはライアンへ提案をする。
「俺がゴブリン達へ突っ込む、最初に魔法と弓で援護を頼む。そしたら俺がうち漏らしたゴブリンを倒してくれ」
「お前の負担が多くないか?」
「今は時間が惜しい、行くぞっ」
そう言ってクーガーはゴブリンへと駆け出す。手近にいたゴブリンが迎撃しようと武器を振るうが、クーガーは相手の間合いの外からハンマーを振るい頭を吹き飛ばす。
続けて襲いかかってくるゴブリン、クーガーは後ろで呪文の詠唱が完了する声を聞きその場に屈む。そしてクーガーの背後から呪文による火の玉と矢がゴブリンへと殺到する。
「ギャアアアァ!?」
矢で体を射ぬかれ、火で焼かれ悲鳴を上げてゴブリンは絶命する。クーガーはそれを確認し、直ぐに立ち上がり次の相手へと迫る。
一体をハンマーで叩き潰し、飛びかかってきた一体の攻撃を体をずらすことで躱して左手で顔を掴みそのまま地面へと叩きつける。その衝撃で手放した短剣を拾い首へと突き刺し、真横へと引き裂く。
そしてそれを近くにいたゴブリンへと投擲。短剣は頭へと突き刺さりゴブリンはそのまま天を見上げ倒れる。一瞬で仲間が倒れたことに驚き動きを止めたゴブリン、その隙を逃さずクーガーはハンマーを振るいこれを仕留める。
「すげぇ……」
「もうアイツに任せていいんじゃないかな…」
そのあまりの戦いぶりにライアンのパーティーの男性冒険者がこぼす。数対のゴブリンを相手にするのは自分達も出来る。しかしクーガーのように圧倒的な戦いが出来るかと問われれば否だ。
「馬鹿なこと言ってないで俺達も行くぞっ!本来の目的を忘れんなっ!」
呆ける二人に渇をいれライアンが駆け出す。男性冒険者もそれに続き、魔術師と弓兵がそれを援護する。
クーガーが敵を乱し、ライアン達がそれを仕留める。一連の流れによりゴブリンの数は順調に減っていった。
「シッ――!」
ゴブリンの頭を叩き潰し、周囲を確認する。後方からまだ何体ものゴブリンが駆け寄って来るがクーガー達の周辺のゴブリンはあらかた片付いた。クーガーはライアンへと目を向ける。
「後は頼めるか?」
「任せろ。ここまでやってくれたんだ、残りはきっちり仕止めるさ。お前も早くルセアとソーマのところへ向かってくれ」
ライアンが剣を上げて答え、残りのパーティーメンバーも各々に答える。そしてクーガーはルセアとソーマの元へ向かうために走る。ライアン達はそれを見届けた後、迫りくるゴブリンに対峙するために構える。
「さあ構えろよ!アイツ一人であんなに戦えるんだ!俺らがやれない道理は無いぞ!」
その言葉にメンバーはおうっ!と答える。戦いが始まる前の弱さはもうどこにもなかった。