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19話

 クーガー達がジント村からウォレスへと帰還している頃。

今日も今日とて雲一つない快晴の空、そんな清々しい空気の中、ウォレスの城下町にある冒険者ギルド『デュランダル』のギルドマスターの部屋から大きな声が響く。


「だーかーらっ!ケガはもう治ったんだからクエストに行く許可を出してって言ってるの!」


「何度も言ってるだろ、ケガが治っても絶対にクエストには行かせるなとマルスにキツく言われてるんだ。いい加減に諦めろって」


「諦められないからこうやって直談判しに来てるんでしょうが!私はもう大丈夫なの!いつでもいけるの!」


 冒険者ギルドのトップであるギルドマスターのシグマに対して随分な物言いをする少女。しかしシグマは特に気にする様子はなく慣れたように相手をする。


「だいたい父様に言われたからクエストには行かせない?父様は王国の騎士で、あなたはギルドのマスター。そして私はギルドの冒険者!私が大丈夫って言ってんだからギルドマスターのあなたは許可を出してくれればいいの!」


 いくら自分の父親であろうと、騎士である父親に冒険者である自分の行動を阻害される謂れはないと少女は言う。そんな少女の言い分に次第にシグマも苛立ち始める。


「こんの利かん坊め…!、お前がいつもそうやってじゃじゃ馬みてーな行動するから今回の依頼でもぽかしたんだろうが!お前はもうちょい周りの事も考えて行動をしてだな――」


「また説教を始めて話をすり替えようとする、そんなだからいい年して独り身なのよ」


「それは今関係ないだろ!?」


 その後も十数分に渡りお互いに言い合う。だが少女がいくら頼んでもシグマは断固として許可は出さなかった。


「くっ…、こんなにも誠心誠意頼んでいるのにどうして許可を出してくれないの……っ!?」


「お前は一回誠心誠意の意味をマルスからきちんと学んでおけ。ともかく、クエスト参加の許可は出さない。わかったか、ルセア」


「……はぁ、わかった、わかったわよ。今日のところはこの辺で帰ります。だけど明日も朝から来ますからねっ!」


 ルセアと呼ばれた少女はそう言い残して部屋を後にした。シグマはやっと終わったと深く息を吐き、また明日もアイツの相手をするのかと頭を抱えた。すると部屋の扉をノックする音が響く。


「シグマさん?報告したい事があるんですけど、大丈夫ですか?」


「おう、いいぞ。入ってくれ」


 シグマそう言うと、失礼しますと受付嬢が部屋へと入ってくる。


「お疲れ様です。今回も随分大変でしたね。廊下でもまだプンプンでしたよルセアちゃん」


「だろうなぁ。しかし今回はマルスのやつにも暫くはクエストへは行かせないでくれと頼まれたからな、許可を出すわけにはいかねぇよ」


「ルセアちゃんのお父様でしたよね?やっぱり娘さんの事を大事に想っているんですね」


「娘を想うのはいいが、もう少しこっちにも気を回して欲しいもんだよ、ったく。それで?何か報告があるんだったよな」


「ああ、そうでした。昨日ジント村の依頼に向かったベリスさん達ですが、依頼を達成して戻って来ましたよ」


「なに?もう戻ってきたのか。そこまで大した内容ではなかったのか?」


 時刻は昼過ぎ。シグマの見立てでは、昨日ジント村に着いたとして今日一日は依頼に取り組み、何事もなく終われば翌日には帰って来るだろうとシグマは考えていた。しかしふたを開けてみれば村について向かった翌日には依頼を達成して帰って来た。依頼が簡単なものだったのか、それとも――


(予期せぬ出来事、それも俺たちにとっては良い方の何かが起こったとか、な)


 いずれにせよ当人たちに会わなければ分からないと思ったシグマは広間へと向かうために部屋を後にした。





 広間ではベリスは受付に依頼達成の報告をしており、ソーマとクーガーは少し離れたところで終わるのを待っていた。


「ふふーん」


「どうした?そんなにやけた面をして、あまり良い気分にはならないから止めてくれると助かるんだが」


「もう少し何か他の言い方はないんですかねぇ!?まったく、……良いだろ別にちょっとくらい浮かれたって。始めてなんだよ、なんかこう、胸を張って依頼を達成したって思えるの」


 達成感に満ちた顔で語るソーマを見てクーガーは今の発言は失言だったと気付く。


「…そうか。悪いな茶化すような言い方をして」


 流石に本人が真剣に感じていれば軽口を言った事に対して謝罪はするクーガー。


「別にいいって。その代わり、もうちょいこの気分に浸らせてくれよ」


 短いやり取りを終え、二人の間に沈黙が流れる。少しすると一人の少女がダン!ダン!と階段を踏みしめて降りて来た。


「げぇっ!?ルセアのヤツもう戻ってきてたのかよ」


「知り合いか?」


「そんなんじゃねぇよ。アイツはウチのギルドの問題児で有名――「随分な言い方ねソーマ」おわぁっ!?」


 ソーマが驚き飛び退いた後ろにはルセアと呼ばれた少女が立っていた。


「全く。自分の事を棚に上げ私の事を問題児だなんてよくも言えたわねソーマ。それで?今日はどうしたのかしら。あなたの事だから自ら進んでクエストに行くとは思えないけれど」


「余計なお世話だっつーの!それに、クエストに行くんじゃなくてもう行ったの!依頼を達成して戻って来たの!」


「あらそう。それはお疲れ様。まあ、あなたの事だからベリスさんにおんぶに抱っこだったと思うけれども」


「いつまでも世話になりっぱなしの俺だと思うなよ!今回は俺自身も戦闘をして魔物だってちゃんと倒したんだからな!」


「え、嘘っ!?」


「嘘じゃねーよ!どこまで失礼なんですかねお前は!」


 そこから二人はぎゃーぎゃーと言い合う。すると後ろから報告を終えたベリスとシグマがやって来た。ベリスは二人の様子を見るとやれやれまたかと、ため息を吐き、二人を止めてくると言いクーガー達から離れた。そしてシグマはクーガーに声を掛ける。


「ようお疲れさん。ベリスから粗方聞いたぜ。大活躍だったみたいじゃねぇか」


「俺は別に特別な事はしてないさ」


「そうか?聞けばベリスがいないなかコボルト相手にソーマと二人で大立ち回りをしたそうじゃないか。あのソーマにどんな発破を掛けたかは知らないがお陰でアイツは一回り成長したみたいだしな。俺からも礼を言うぜ」


「言ったろ?俺は何もしてねぇよ。ソーマが成長したのはアイツ自身の成果だ。俺は自分に出来る事をしただけだよ」


 あくまでソーマが成長したのは本人の努力の成果だと言うクーガー。これ以上何を言っても礼を受けてはくれないだろうとシグマは思った。そしてシグマはもう一つの質問をクーガーに問いかける。


「それで、どうだウチのギルドは?やっていけそうか?」


 そのシグマの問いに、クーガーは少しだけ考える。


「さてな、まだ何日も経っていないからどうとは言えないが」


 その視線の先にはいまだに騒ぐソーマとルセアと呼ばれる少女、そしてそれをなんとか止めようとするベリス。その光景を見ながら、フッと笑い、そして答える。


「まあ。悪くはないな」


 クーガーの答えに、シグマは満足そうに笑った。

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