18話
コボルトを倒した三人は村の居住区に戻り、村長へと報告をしに来ていた。村長は最初は明るく迎えてくれたが、クーガーの怪我を見て顔を青くした。
「おおっ!お三方ご無事でした……、けっ、怪我をなさっているではありませんかっ!?だ、だだ大丈夫ですか!?」
「応急措置はしてますのでひとまずは。とりあえずは今は報告だけでも済ませようと思いましたので、それが済みましたら小屋へと戻りきちんと手当てをしますので」
「それならばよいのですが……。ああ、あと依頼でしたら翌日には達成書を書き上げておきますので、今日のところはどうか、ゆっくりと休んでください」
「宜しくお願いします」
報告を済ませた三人は小屋へと戻ってきた。
「痛っ………」
「傷の具合はどうだ?」
「大丈夫だ。幸い動きに支障が出るほどの傷ではないみたいだ」
「そうか、それはよかった」
話ながらもクーガーは自身の体に傷薬を塗っていく。ベリスは今回の依頼の内容をまとめ、ギルドへの報告書を書いていて、ソーマは戦いの疲れからぐっすりと寝ている。そんななかベリスはクーガーに声を掛ける。
「なぁ、少し聞いてもいいか?」
「どうした?」
「お前から見てソーマはどう思う?」
「どう、とは?」
「そのまんまの意味さ。お前から見たアイツは冒険者としてこれから先やっていけるのかどうか、な」
そう聞いてくるベリスの表情は真剣そのものだった。クーガーはそんなベリスに応えるために少し考える。
「……そう、だな。本人のポテンシャルでいえばかなり期待していいだろう。ステータスだってレベルの割に高いし、スキルだって充分にある。俺からしたら羨ましい限りだ」
そして一呼吸置いてだが、と続ける。
「それを扱う本人に若干の問題がある。魔物との立ち会いの時に震えていたり、優位に立っている時に浮き足立ったりという精神面の部分が特にな」
「やっぱりその部分か…」
来ると予想していた答えが返ってきてベリスはため息をこぼす。
「だが、さっきの戦闘を見たら克服出来そうな気がするけどな」
「そうなってくれればいいんだがな」
「そもそもこういう話を今日会ったヤツにするものか?普通」
「ん?なに問題ないさ。シグマさんがわざわざ俺に預けるようなヤツがそうそう普通なヤツだなんて思っていないからな。お前はいい意味で変なヤツだよ」
クックと笑いながらベリスは答える。対するクーガーは如何にいい意味であろうと、変なヤツ扱いをされて素直に喜ぶ訳もなく不満げな顔をする。ベリスは悪い悪いと言い、クーガーとしっかりと向き合い少し真面目な声色で続けた。
「お前のお陰でソーマは先に進む事が出来るだろう。本当にありがとう」
そう言ってベリスは頭を下げる。クーガーはベリスがどうしてそこまでソーマを気に掛けるのかと疑問に思いベリスに問う。ベリスは昔の話だがなと前置きをし、ポツポツと語りだした。
「ソーマの父親とは冒険者仲間でな。新人の頃はどちらが先にレベルが上がるかと競って魔物を倒したものさ」
それからも二人は冒険者を続けていき、そんな中ソーマの父親は結婚をしソーマを儲けたと、昔を懐かしみながら語るベリスの顔は穏やかだった。
「だけど十年前の戦いでアイツは、死んじまったんだよ」
十年前、すでにベテランといえる実力を持っていた二人は最前線で戦っていた。しかし魔物との戦いは熾烈を極めギルドの冒険者も何人も犠牲になったという。ソーマの父親もその一人だ。
「アイツが死んで五年ぐらい経った時にソーマのヤツが冒険者になりたいとギルドに来たんだ」
その当時まだ小さいソーマを見てギルドの職員はどうせ受からないだろうと思って試験を受けさせようとした。しかしベリスはその万が一さえ危惧してソーマに試験を受けないよう説得した。
「アイツの大事な一人息子だからな。それにソーマに何かあれば残された母親が悲しむ」
それでも尚冒険者になりたいというソーマにベリスは一つ条件を出す。それは十五になる時までに知識を蓄え体を鍛えること。そしてベリス個人が審査し合格すれば試験を受けさせるというもの。ベリスも最初は無理だろうと思って提案したが、ソーマの才能は予想以上で認めるしかなかった。そしてソーマは晴れて冒険者になった。
「そこからはお前が知っている通りだ。小さい頃のトラウマで魔物とまともに戦えなくて、周りの冒険者に馬鹿にされていたんだ。俺はそんなソーマをなんとかしたくていろいろと手を尽くしたつもりなんだが、なかなか上手くいかなくてな。そんななかシグマさんの紹介で来たお前を見て、何か刺激になればと今回の依頼に同行させたんだ」
結果は俺の予想以上のものだったよ。とベリスは柔らかく笑う。
「おっと、随分話し込んでしまったな。朝は早いから俺らも休むとしよう」
そうしてベリスは寝床に就く。クーガーも傷の手当てを終えて寝床へ就いた。
翌朝クーガー達はジント村の村長の家へと来ていた。
「それではこれで依頼の達成書は書き終わりました。本当なんてお礼を申し上げたら良いか」
「いえこれも冒険者の仕事なので。それとコボルトの巣ですが、後日ギルドから依頼した調査隊が来るはずですので村の人達には近づかないようにと注意をお願いします」
「分かりました。村の人々にはちゃんと伝えておきます」
そして三人は村長の家を出る。するとそこには昨日助けた親子がいた。親子はそれぞれ手に持った包みをクーガーとソーマに渡してきた。
「はい。これ昨日助けてもらったお礼。家で飼ってる豚の干し肉、とっても美味しいんだよ!」
「なんだ、わざわざお礼に来たのか。だけどその気持ちだけで充分だ。俺たちは別にお礼が欲しいから助けたんじゃ「有りがたく貰おう」ってなにお前はあっさりと受け取ってやがるんですかねえぇ!!」
「なにって、折角くれると言っているんだ。貰うだろ?」
「いやそれはそうだけどもうちょい謙虚さというか――」
「それに相手が用意してくれた物を無下にするのは良くないだろ?だからこそ貰える物はなんであろうが受けとるものだぞ」
「あ、うん。そうっすね……。それじゃあ、これは有りがたく貰ってくな」
「うん!」
お礼を受け取ったもらった事に少年は笑顔で喜ぶ。クーガーも母親に改めて礼をした。
「さて、二人とももう大丈夫か?」
「ああ」
「勿論大丈夫です」
「よし、なら帰るぞ。ギルドへ」
こうして三人はジント村を後にする。帰る道中のソーマの足取りはとても軽いものだった。




