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17話

 コボルトを警戒しながらも少しずつ距離を取り、クーガーはソーマへと近づく。


「ずいぶん息が切れてるな。その調子でいけるのか?」


「手負いの奴に言われたくはねーよ。そっちこそ、そんな体で大丈夫かよ?」


「まぁ、なんとかなるだろう。……戦闘、いけるのか?」


「それをやれないようじゃ、ここに戻ってなんかこねーよ。大丈夫。俺は俺の出来る事をやるだけさ。何より後輩に任せっきりだと先輩として、立つ瀬がないからな。――任せろ」


 決意の目で答えるソーマ。それを見たクーガーは背中を任せることを決める。


「そうか。なら――、行くぞっ!」


 掛け声と共にクーガーはコボルトへと駆ける。その後ろでソーマは短剣へ『エンチャント』を掛ける。


「落ち着け、落ち着け……。集中しろ、余計な事は考えるな……!」


 息を深く吐き、気持ちを落ち着かせ敵を倒す事だけに意識を集中する。そして魔力を纏った短剣を構えコボルトへと狙いをつける。視線の先ではクーガーがコボルトへと武器を振りかざしていた。


「ハァッ!」


 手前にいた一体に向けハンマーを振り下ろす。しかしその攻撃は後ろに飛び退き容易く避けられてしまう。そしてその隙を突こうと残りのコボルトが飛びかかってくる。


(そう来るだろうと分かっているっ!)


 クーガーはその場で一回転しハンマーを大きく振り回す。二体のコボルトはこれを躱し、最後の一体は避けきれず直撃した。メキメキと骨をが砕ける感触が手に伝わってくる。


「ぐっ、ぅぅぅう――!」


 疲労と傷の痛みが襲うが、歯を食い縛りハンマーを振り切る。吹き飛んだコボルトは地面を転がっていき倒れたが、まだ息があり口から血を吐きながらも立ち上がろうとする。


(チィッ、『エンチャント』を掛けていないと仕留めるまではいかないか)


 しかし大きなダメージを与えたはず。しばらくは放っておいても問題ないと判断し、残りのコボルトに意識を集中する。

一体のコボルトがクーガーに向かい攻撃を仕掛けてきた。それをハンマーで受け止め、競り合う形になった。そしてクーガーはソーマに視線を向ける。ソーマは一瞬驚いたがクーガーのやろうとしていることを理解し、短く頷く。クーガーが視線を戻すとコボルトは血走った目で口を大きく開け、クーガーに噛みつこうとしていた。


「どうした?そんな大口開けて腹でも減っているのか。――なら良いモノをくれてやる」


 そう言いながら首を横へと倒す。するとクーガーの背後から一本の短剣が通り抜けコボルトの口へと吸い込まれていき、そのまま貫通していった。


「ガヒュッ!?」


 短い悲鳴を上げ倒れるコボルト。ビクビクと数度、痙攣を起こしそのまま息絶えた。

クーガーは視線を後ろへ向けると、息を切らしながらも投擲を終えたソーマが立っていた。


「ナイスアシスト」


「ハァッ、ハァッ、……余裕っ!」


 相当集中していたのだろう。額から汗を滝のように流しながらも力強く答える。その様子を見ながら大したヤツだとクーガーは思った。一瞬視線を交わしただけでこっちの意思を理解し実行できる実力。戦闘を行うことへの恐怖で今まで充分に発揮されなかったであろう実力を少しずつだが出せるようになっていた。


(村に戻っていた短い時間でなにがあったかは分からないが、これなら大丈夫か)


 少なくとも最初の戦闘の時よりは何倍もマシだとクーガーは思った。そして意識を戦闘へと戻す。残りは三体、その内一体はかなりのダメージを負っており、立ち上がってはいるもののもはや脅威とはなりえない。残りの二体もさっきのソーマの攻撃を見て警戒をしており、クーガー達から一定の距離を取っている。流れは完全にクーガー達に傾いていた。


「残り三体。追い払うんじゃなく、ここで仕留めるぞ。いけるか?」


 ハンマーを構えわざとらしくソーマを煽る。効果は抜群だったらしい。


「後輩の癖に言い方がいちいち生意気なんだよお前は!ったく、いけるかって?――当然!!」


 短剣を構え『エンチャント』を施しながらソーマは答える。


「そいつは上等。さぁこれで終いにするぞ。『エンチャント』!!」


 ハンマーに魔力を流し、コボルトへと駆ける。コボルトは迎え撃とうと獲物を振るおうとするが――


「ギッ!?」


 クーガーの脇から短剣が通り抜けコボルトの腕を貫く。そして無防備になったコボルトに向けてクーガーはハンマーを振り下ろす。鈍い衝撃音を響かせコボルトは頭から叩き潰された。

 仲間が殺られたコボルトは状況の不利を悟り、傷を負っているもう一体を置いて森へと踵を返し駆け出す。


「っ!?しまった!このままじゃ逃げられちまうぞクーガー!」


「分かってるっ!――ぐっ!?」


 距離が離れたことにより短剣の投擲距離から外れ攻撃が出来ないソーマ。そしてコボルトの近くにいたクーガーは直ぐ様追いかけようとするが、ここに来て疲労とダメージが体に来てしまい足が止まってしまう。逃げられる、そう思った二人だが――


「凄いな、まさかここまでやるとは」


 逃げるコボルトの前に人影が立ち塞がり――


「ガァッ……」


 一振りでコボルトを真っ二つに両断した。


「うぇっ!?」


「……今頃帰還か、遅かったんじゃないか?」


「手厳しいな。これでも全速力で戻ってきたんだがな」


 クーガーの嫌味をさらっと流して、人影――ベリスはクーガー達へと向かってくる。


「さて、いろいろ話はあるが、まずは残りを片付けないとな」


 そうしてベリス達は傷を負っている最後の一体を睨む。


「相手は手負いか…、お前達いけるか?」


「いきたいのはやまやまだが、生憎ダメージが酷くてまともに戦えそうにない。だからここは先輩に譲るとするよ」


 ベリスの狙いを理解したクーガーは言葉とは裏腹に軽い口調で言う。


「だとよ。どうする?先輩」


「だあぁぁっ!!やりますよ!やりますとも!なんで二人ともわざとらしくお膳立てしますかねぇ!このぐらいやってやりますよっ!」


 二人の目的を理解し、手の平の上で転がされているような感覚に不満を訴えながらも、ソーマはコボルトと対峙する。


「グルルッ……」


「――っ!……」


 対するコボルトも一矢を報いようとソーマを睨み付ける。その視線にソーマは先ほどの戦闘の事を思いだし体が固まる。

それを見守るベリスは、何かあった場合に備え武器を構えるクーガーにその必要はないと視線を送る。クーガーは少し考え、武器を下ろした。


(ここが正念場だぞ)


 自分がいない数時間に何があったかは分からない。しかし今この瞬間がソーマにとってとても重要な場面だとベリスは感じた。だからこそベリスは手を貸すことをせず信じて見守る事に決めた。


(何ビビってんだよ…。二人に啖呵きって何だこの様は……っ!これじゃさっきと何ら変わらないじゃないかよ!)


 いまだに体が固まり武器を構えられないソーマ。それを隙と見なしたコボルトが飛びかかってくる。


(ああっクソっ!みっともねぇ!こんなんじゃ二人にも、あのボウズにもカッコがつかないじゃないかよ!みっともないまま殺られてたまるか!)


 迫り来るコボルトを見てソーマの心の中に湧くのは死の恐怖ではなく、無様な自分を晒してしまう事の恐怖だった。そんなちっぽけで、でもとても強い自意識(プライド)が熱となってソーマの体を巡る。


「動けっ…、動けってんだよ――!」


 叫びを上げて動いた左手を足へと叩きつけた。痛みと共に体から固さがとれる。


「っし!いくぞ!『エンチャント』!」


 短剣に魔力を施しコボルトを迎え撃つ。振り下ろされたコボルトの一撃を躱し、すれ違い様に首を切り裂く。


「―――!?」


 首から血を吹き出しコボルトは倒れる。その様子を見たソーマは緊張の糸が切れ、その場に倒れこんでしまう。


「はぁぁ……。全く心臓に悪い」


「同感だ。だがこれでようやく終わりだ」


「ああ。ソーマも、そしてお前さんもよくやってくれたよ。さぁ疲れていると思うがもう一踏ん張りだ。村の人達に報告しないといけないからな」


 そうして二人は倒れているソーマを起こし、ベリスが肩を貸しながら住居区へと歩いていく。

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