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14話

 クーガー達がコボルトと戦闘を始める一時間ほど前。ベリスはコボルトが残した痕跡を頼りに巣を探していた。


「もうそろそろ着いてもいいと思うんだがな……」


 コボルトが仕留めた家畜を巣へと持ち帰る際に、地面に引きずった跡や血の跡が残る。しかも人が追う事を警戒していないのか何度も同じ道で巣へと戻ったのだろう、夜の森の中にいるのに痕跡ははっきりと残っていた。

それを頼りに更に奥に進んでいくと少し開けた場所に出る。周囲を見渡し痕跡の跡の先を目で追っていくと洞窟の入り口のような所まで続いていた。


「まだ跡が新しい…。ここで間違いなさそうだな」


 やれやれやっとたどり着いたかと、首を回してふぅと息を吐く。


「あまり時間をかける訳にはいかないからな。さっさとやらせてもらうか」


 腰に付けている道具袋から閃光玉とそれに似た別のもう一つの玉を取り出す。


「まずは――」


 閃光玉に魔力を流し洞窟の中へと投げ込む。閃光玉が弾け洞窟内に光が包まれる。同時にコボルト達の叫び声が洞窟から聞こえてきた。


「そこそこ数が多いな。まぁそれでもやることは変わらんがな」


 そう言いながらもう一つの玉を洞窟に投げ込む。玉が弾け少しして洞窟からなんともいえない異臭が漂ってくる。

ベリスが投げたのは、こやし玉といわれる道具。これは大多数の魔物が嫌う匂いを発する物を調合して作られた物で破裂すると広範囲に臭いが広がる、主に魔物から逃れる場合に使われる道具だ。コボルトは犬や狼に似た魔物で嗅覚もとても優れている。そんな魔物だからこそ、こやし玉の匂いは他の魔物よりも数倍強く感じるはずだろう。


「――そろそろかな」


 武器と盾を構える。洞窟という閉鎖的な空間にこやし玉の匂いは充満し、出入口は一つ。ならば必然的にコボルトの取る行動は決まっている。


「ガァッ…、グルァア!」


 眼を閃光玉でやられながら臭いから逃れるために、おぼつかない足取りでコボルトが洞窟から出てきた。ベリスは近づき剣を一振りし首をはね飛ばす。するとその後ろから一体、また一体とコボルトが出てくる。しかしそのどれもが洞窟から出るのに精一杯だったのだろう、ほとんどが武器を持っておらず、持っているほんの一握りのコボルトも視界と嗅覚をやられているのでまともに戦える状態ではない。


「さぁ、それじゃあいくか。『エンチャント』」


 剣にエンチャントを施し、次々にコボルトを切り捨てる。魔物との戦闘というにはあまりにも一方的な戦いが行われた。

――そしてコボルトを切り伏せること十数分。


「とりあえず洞窟から出てこれた奴はこれで最後か」


 最後の一体を倒し、剣に付着していた血を振り払い周囲を見渡す。転がっているのは全てコボルトの死体。森に逃げられた様子もないし、洞窟から新しくコボルトが出てくる気配もない。


「まずは一段落。残りは洞窟内の生き残りを倒せば終わりか」


 そう言うとベリスは近くの木から手頃な枝を切り落とし、コボルトの死体から布を剥ぎ取りそれを枝の先端に巻き付け、即席の松明を作る。


生命(いのち)を照らす暖かな火よ――」


 呪文を詠唱し松明に灯をともす。そして使っていた剣を鞘に収め、それよりも少し短い剣を抜き構える。これは狭い洞窟内でも問題なく戦闘を行うためだ。

準備を整え、ベリスは洞窟の中へと入っていく。中ではまだこやし玉の匂いが残っているため、ベリスは布で口と鼻を覆う。洞窟内の通路では閃光玉とこやし玉にやられ、外に出られなかったコボルトが地面にうずくまっていた。勿論これを放置するわけにはいかないので、きっちりとトドメを刺しながら進んでいく。

洞窟内はそこまで大きいものではなく、少し歩くと広場らしき場所に出た。ここで奪った家畜を喰ったのだろう、地面には家畜の骨や食い残した臓物が辺り一面に散乱しており、こやし玉の匂いと混ざり強烈な臭いが周囲を包む。


「これは…、予想はしていたがなかなかにキツいな」


 あまりの臭いに顔をしかめるが、直ぐに意識を切り替え他に生き残りがいないか周囲を見渡す。そこには臭いでやられたであろう数体のコボルトが転がっており、これにも確実にトドメを刺していく。


「これで広場のコボルトは終わりか……。しかしメスのコボルトの姿が見えないな」


 最後の一体にトドメを刺し、討ち漏らしがないかと確認している。しかし肝心のメスのコボルトを確認出来ていない。この広場までは一本道で他に道は見つからなかった。どこか見落としがないかと考えていると、微かにだが魔物のうめき声が聞こえた。声が聞こえた方向に視線を向け注意深く探してみると、小道があった。その先には小さな空間があり、そこにはコボルトと小さなコボルトが数体いた。


「成る程、ここで数を増やしていたわけか」


 状況から見るにこのコボルトがメスで間違いなさそうだ。ゴブリン等とは違いコボルトは数は少ないがメスがおり、同族で数を増やす事が出来る。このコボルトの集団にはその希少なメスがいて、ジント村から家畜を奪いそれを喰らい、数を着実に増やしていたのだろう。このまま放置しておけばかなりの数が増やされてしまうが、そうなる前になんとかケリをつけられそうだ。そう思っているとメスのコボルトが爪を立て襲いかかってきた。


「っと、余計なことを考えている場合じゃなかったな」


 それを体を半身にする事で躱す。コボルトは体をひるがえし爪を振るう、ベリスはしゃがんでこれを躱しすかさずコボルトの足を切る。切られたコボルトは地面に這いつくばりながらもベリスに攻撃をしようと腕を伸ばす。ベリスはその腕を足で踏みつけ封じ、コボルトの首に剣を突き立てそして切り落とした。


「残りはこいつらか」


 視線を向けると四体の子どものコボルトが体を震わせ、少しでも距離をとろうと部屋の隅へと逃げる。ベリスが近づくと一体のコボルトが残りのコボルトを守るようにベリスに飛びかかってきた。


「フッ!」


 それを剣を突き出し迎え撃つ。剣はコボルトの腹に突き刺さりそのまま貫通した。コボルトは二度、三度痙攣しそのまま息絶えた。剣を振り死体を抜き捨てる。するとその隙を狙って一体のコボルトが脇から抜けようと駆け出していた。


「逃がしはしねぇさ。――生命(いのち)を照らす暖かな火よ。『ファイアーボール』!」


 剣を地面に突き立て掌をコボルトに向けて照準を合わせ呪文を詠唱する。掌から放たれた火珠は一直線に向かっていき直撃すた。全身を焼かれたコボルトは絶叫を上げながら絶命した。


「悪いが一体たりとも見逃しはしない。万が一、一体でも生かして逃がしてしまえば、やがて成長したお前らが幾人もの人間を殺すだろう。だからこそその可能性を完全に潰すために一体残らずここで殺す」


 再び剣を構えゆっくりと近づく。残り二体のコボルトは攻撃する意思すらないのか互いに身を寄せ震えている。その様子を見てもベリスは警戒を一切緩めず距離を詰めていき、コボルトの首を跳ねる。


「やっと終わったか…」


 最後に周りをぐるりと確認して討ち漏らしがないことを確認すると洞窟から出るために出口へと歩きだす。出口へ向かう途中も敵の生き残りがいないか、確認は怠らない。


「ふぅー、あぁ~空気が上手い」


 生き残りが見付かることなく洞窟から出たベリス。今さっきまで臭いが充満していた空間に居たので、外の新鮮な空気を思いっきり味わう。


「さてと、んじゃ早いとこ戻りますか。まぁクーガーがいるから大事ないと思うが――」


 そう言うや否やジント村の方向の空から強烈な光が輝く。


「オイオイ、マジか?」


 一体何があった?予想より数が多かったか?それとも何か不足の事態か?それとも――。


(いや、考えるのは後だ。まずは一刻も早く村に戻らないと!)


 頭を振り意識を切り替える。ここで考えていても何か変わるわけでもない、今は一秒でも早くクーガーとソーマと合流する事が優先だと。そしてベリスは真夜中の森を全力で駆け抜ける。

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