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11話

 準備を済ませるためベリス達と別れて約一時間、クーガーは宿屋『止まり木』の主人アムリタにクエストに出るにあたり、もしかしたら二、三日戻れないという旨を伝え、そして道具屋で傷薬などを買い、装備を整えギルドに向かっていた。予定の時間より少し早くついたが既にベリスがギルド内の集会所で座っていた。


「早いな」


「クーガーか、準備は済ませたか?」


 勿論と答え、ベリスの向かいに座る。二人は軽く会話をかわしソーマの到着を待つ。しかし集合の時間になってもソーマが現れる気配がない。何かあったのかと思い探しに行こうかと提案するがベリスに止められる。


「安心しろもうじき来る。アイツはいつもこうなんだ。……ほら、噂をしたら」


入り口のほうからドタバタと騒がしい音が聞こえ大きな荷物を背負ったソーマが駆け込んできた。


「セーッフ!!よっしゃ時間ぎりぎり間に合ったー!」


「残念ぎりぎりアウトだ馬鹿」


 ベリスは無駄のない洗練された動きでソーマの頭を叩く。スパンっ、と小気味良い音を響かせソーマは痛みに悶える。ついさっきも見た光景にクーガーはまたかとため息をつく。


「それになんだこの荷物の量は?お前はどこかに遠征でもするのか?備えは確かにあれば良いが度を越せばパーティーの行軍の足を引っ張る悪手だ。パーティーの面子と依頼の内容を考えて最適な物を最適な量を揃えられるように気を付けろ。…聞いてるか?」


「聞いてますよ!というか何かあるたび頭を叩くのやめてくれませんかねえ!ベリスさんみたいな高レベルの人に叩かれるとクエスト行く前にこっちの頭がもたないんですよ!!」


「これでも器用値は高いからな、手加減は得意だ。安心して叩かれろ」


「手加減が出来るからって安心して叩かれる訳ないでしょ!」


「それが嫌ならさっさと一人前になることだな」


「ぐぬぬっ…!」


「わかったらさっさと荷物の整理をするぞ」


 なんだこれ?ジント村に行くのにテントなんかいらないだろ。などと言いながらもソーマの荷物をどんどん仕分けていく。隣でソーマが、それはいりますって!と喚いているがベリスの手が止まる気配はなく、大量にあった荷物もみるみる少なくなっていき、最終的には最初の半分以下になった。


「こんなもんだろ。持っていかないやつは一旦ギルドに預けておけよ」


「ううっ……、きっちり準備してきたのにぃ…」


 自分が念入りに準備した物を、目の前で不要だと言われ外される気持ちは解らなくもないが、さすがに今回のはやり過ぎだと思ったクーガーは口を挟む事はしなかった。しかしこれでようやく出発出来ると安堵していると周りが少しざわついているのに気づき少し耳を澄ます。


「なぁあれって…」


「ああ、ソーマだろ?ヘタレでお馴染みの」


「何だってアイツがベリスさんとクエストに?それに一緒にいるヤツは誰だ?」


 どうやらソーマと自分について話しているらしい。確かに今日から所属した自分の事は知らなくても仕方がないだろうから特に気にしてはいないが。


(問題はこっちか――)


 ソーマの方に視線を向けると二人組の男が絡んで来た。


「ようソーマ。何だ今回はベリスさんのクエストにでもついていくのか?」


「どーせまともに戦闘なんか出来ないのに報酬は貰おうってか?」


「お前ら止めておけ。ソーマを誘ったのは俺だ。それにソーマは戦闘以外にも力になれる事はあるだろう」


 ベリスが口を挟んだ事により、男達は口を閉じるがそれも少しの間だった。


「だがよベリスさん。俺達は冒険者だぜ?冒険者なら魔物を倒してなんぼじゃないか。それなのに肝心の戦闘が出来ないなんて冒険者とどうかって思ってる訳で――」


 なおも話し続ける男にベリスは苛立ったのか語気を強めて話す。


「そこまでにしておけよ。確かに魔物との闘いも重要だが、それだけが冒険者の仕事じゃない。指定品の採取、依頼人の護衛などの依頼から、物の配達、町の大工の手伝いなどの小さな依頼まで全てが大事な仕事だ。それなのに戦闘系以外の依頼を疎かにし、あまつさえ同じギルドのメンバーを馬鹿にするようなら――俺にも少し考えがあるぞ」


 スッと腰に備えた剣に手を掛ける。言外に目の前の男達だけではなく周りの人達にもそう訴えていた。周囲のざわめきは消え、目の前の男はうっ、と言葉に詰まり後ずさる。


「や、やだなベリスさんっ。冗談、軽い冗談だってハハハ…、じゃ、じゃあ俺達はこれで。おいっ行こうぜっ!」


 そして男達はそそくさとギルドを出ていく。周りにいた連中もぞろぞろとこの場を後にした。


「まったくアイツらは……。ソーマも深く気に病む事はないが、戦闘については改善していかないと駄目だぞ」


「わ、分かってますって!今回は大丈夫ですよっ、何たって新人がいるんだし、さすがに新人の前で無様な格好は出来ないですから!」


 やってやりますよー、と笑顔で腕を振り回し意気込むソーマ。しかしどこか無理しているのか、少しぎこちなさを感じた。ベリスは一抹の不安を感じながらもソーマのやる気を信じることにした。


「お前も悪かったな。クエストに行く前にこんなゴタゴタして。ああいうヤツはギルド内でもごく少数だ、ほとんどの連中は気の良い奴らだから、あまり気を悪くしないでくれると助かる」


「別にそこまで気にしてはいないさ。それよりもさっさと出るぞ。早くしないと日が傾く前にジント村に着けなくなる。そこそこ距離があるんだろう?なら話しは歩きながらでも出来るだろ」


 ソーマとは対照的にまったく気負いをせず自然に答えるクーガー。


(シグマさんが頼むぐらいだから普通のヤツじゃないとは思っていたが、これは本当にコイツ自身に何かあるのかもな)


 新人と本人は言っているが、それに見合わない落ち着いた雰囲気。シグマが連れて来たから人柄に問題はないだろうが、クーガーから感じる妙なちぐはぐさがベリスには気になった。だがクーガーの言うとおりここで話していても仕方がないので、余分になったソーマの荷物を受付に預け三人はギルドを後にする。


 ギルドを出て少し歩き、三人はウォレスの東門に来ていた。

ウォレスでは外に出るための門が東、西、北の三つある。そしてそれぞれの門で門番に外に出る目的と本人の署名がなければ出ることは出来ない。そしてウォレスに入るためには、クーガーがここに来た時のように誰かの付き添い、または紹介がなければ入る事は出来ない。


「今回の目的はジント村の依頼……、名前はクーガー。よし確かに。それでは気をつけて」


 書類に必要な事項を書き、門番の確認を終えてようやく外に出ることが出来たクーガー達。


「さて、ウォレスを出るまでに少しごたついたがジント村までは道なりに進んで行けばいい」


「確か歩きだと二時間位かかるんだよなぁ……、やっぱり馬を借りて行ったほうが良かったんじゃないですか?」


「二時間ならまだ近場だろ?新人のうちにそんな楽を覚えるもんじゃないぞ。ほら歩いた歩いた」


 さっさと歩くベリスにクーガーも続き、ソーマもうへぇ、と言いながらもついて歩く。

道中ジント村についての話しを聞いた。ジント村では牧畜が盛んで、ウォレスとも距離が近いことから牛や豚などを安全に運べるように、村とつながる道を整備したという。そして農家が護衛に冒険者を雇ったりするので道中、輸送の馬車を襲う魔物達も少なく比較的安心してウォレスへと行き来出来るらしい。


「まぁ少ないってだけで出る時は出るがな」


「ちょっ、あんまりそういこと言わないでくださいよ。本当に出たらどうするんすか!」


「?、出たら倒せばいいだろ?」


「何でお前はそんなに平然と言えるんですかねぇ!まったく!…ってそこの茂みでなんか動いたぁ!?」


 いきなり声を上げ近くの茂みを指差し慌てるソーマ。瞬間ベリスは素早く剣と盾を構えた。クーガーは一瞬驚いたがソーマの補助スキルの中に()()()()があったのを思いだし、直ぐ様ハンマーを構え警戒を強める。その行動の早さにベリスはほう、と感心するが直ぐ様視線を戻す。


「ソーマ。お前も武器をさっさと構えろ……来るぞ!」


 すると茂みの中からゴブリンが飛び出してきた。その数は三体、ゴブリン達は飛び出した勢いそのままにクーガー達に襲いかかってくる。


「うわあぁぁあ!?本当に出たあぁぁああ!」


 尻餅をつくソーマをよそに、ベリスとクーガーはゴブリンを迎えうつ。


『エンチャント』!


 ハンマーにエンチャントを施しクーガーはゴブリンと相対する。こん棒を手に持ち真っ直ぐに攻撃して来た一体のゴブリンを、体を回転させて攻撃を避ける、そして回転の勢いのついた一撃をゴブリンの後頭部目掛け振り抜く。


「ギッ!!」


 直撃を食らったゴブリンは短い悲鳴を上げ、頭は砕けそのまま絶命した。

ベリスの方に視線を移すと、すでに一体を片付けもう一体と対峙していた。

相手のゴブリンがベリスへと突貫していくがベリスは剣を一振りし武器を持っているほうの腕を切り落とす。そして悲鳴を上げ地面でのたうち回るゴブリンを足で押さえつけ首を切り落とした。


「強いな」


「さすがにレベル差があるからな。特別大した事じゃないさ。ここら辺に出る魔物はだいたいが()()()だ。大して強くはないが気を付けないと不意に痛い目に会うぞ」


 戦闘を終えた二人はそんな軽口を交わす。それを見ていたソーマは何とも言えない感覚に襲われていた。


(ベリスさんは分かる、あの人はベテランだから余裕でいられるのも。だけど――)


 自分と同じレベル2であるはずのクーガー。ステータスも総合的に見て自分より低いはずの相手が、一体だけとは言えゴブリン相手に苦戦も苦労もなく勝利した事実に心が苦しくなる。


「どうした?どこかやられたか?」


 クーガーが今だに立ち上がれないソーマを気にかけ声を掛け、手を差し出す。普段であれば他人にそう易々と手を貸さないが、ソーマのあまりな状態に手を出してしまった。

戦闘が出来ないとは聞いたがまさかここまでとは思わなかった。

これでは一般人と変わらない、これがクーガーの正直な感想だった。


 ソーマはその手を掴むことが出来ない。掴んでしまえば本当に自分が役立たずである事を認めてしまいそうで、どうしても出来なかった。


「おっ、おおっ大丈夫!いやちょっとびっくりしただけだって!別に何にも問題ないって。それよりさっさと行こうぜ!ほら今二人が戦ってくれたからさ、荷物は俺が持って行くよ!」


 ソーマは立ち上がり三人分の荷物を待ってさっさと先に行ってしまった。ベリスは少しばつが悪そうな顔をしていた。


「やっぱり、まだ駄目そうか……」


「なぁ、アイツはどうして戦闘が出来ないんだ?」


「……アイツには小さい頃から仲が良かった友人がいてな一緒に遊んでいるときに魔物に襲われたらしい。幸い近くにいた冒険者に助けられて二人とも命は無事だったが、その友人が大怪我をしたらしくてな、アイツはそれを気に病んで冒険者になったんだが、襲われた時のトラウマからまともに戦闘が出来ないんだ」


「…そうか」


「だから、あんまりソーマのヤツを責めないでくれ。アイツ自身も悩んで何とかしたいと本気で思ってるんだ」


「ああ…、分かった」


 そして二人はソーマを追いかけて歩いた。

ベリスの話しを聞いてクーガーの中でソーマの見方は変わった。最初ソーマの印象はただのお調子者だと思ったが、ギルド内で戦闘が出来ないビビりだと言われても何とかしたいと本人が思っているのならば、少なくとも他人を馬鹿にする奴らよりも信頼出来るとクーガーは思った。

しかしソーマの抱える問題はそう簡単に解決出来るものではない。トラウマによって植え付けられてる恐怖心はそう簡単に克服することはないだろう。他人がどう力を尽くしても結局は自分自身が乗り越えなければならないからだ。


(このクエスト中に何か切っ掛けでも出来ればな…)


 そう考えながらジント村へと歩いて行く。依頼の他にパーティーの仲間の問題。クーガーの初めてのクエストはなかなか大変なものになりそうだった。

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