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10話

 雲一つない快晴の朝、クーガーは冒険者ギルド『デュランダル』に来ていた。

まだ朝早いのだがクエストを受けに来ているのだろう、既に装備を整えている冒険者がちらほらといる。そんな人達を流し目で見ながら受付へと向かう。


「あっ、おはようございます。クーガーさんですよね?ギルドマスターから、来たなら部屋に案内するようにと頼まれたのですが、大丈夫ですか?」


「構わない。よろしく頼む」


「お任せください。それじゃあついて来てくださいね」


 受付嬢の案内で部屋へと案内されるクーガー。そして執務室と書かれた扉の前にたどり着く。


「失礼します。クーガーさんを連れて来ました」


「来たか。中に入っていいぞ」


 シグマから許可をもらい中に入る。部屋の中は、中央に長テーブルとそれを挟むように椅子がおいてあり、その奥では大きめの作業机の上に昨日までは無かった書類が山のように積んであった。


「ご苦労さん。後はいいから受付に戻ってくれ」


 書類の山の向こうからシグマ顔を出す。受付嬢は一礼して部屋を後にした。そしてシグマは立ち上がりクーガーに向けて何かを投げ渡す。


「ほらよ、カナードさんからだ」


 渡されたのは加工された投影石をあしらったペンダントだった。クーガーはさっそくそれを身に付ける。


「なかなか似合ってんじゃねぇか。ステータスの出し方は投影石を触り、少し魔力を込めれば写し出される。試しにやってみな」


(そういえば、自分のステータスを確認するのは久しぶりだな…)


 この世界に来た時に確認したのを最後にしばらく確認していない事に気づく。戦いもイルガ村でのゴブリンとの戦闘一回のみ。他に魔物との戦いもなかったのでステータスを確認する必要を感じなかった。

それはさておき。シグマの言葉通りに投影石に魔力を込める。すると投影石が輝きクーガーの目の前にステータスが写し出された。



名前 クーガー Lv1→Lv2

種族 人間

〈能力〉

筋力値 10 →11

器用値  5 → 7

機敏値  3 → 4

生命力  8

魔力値  4 → 5

〈スキル〉

武器 鎚

魔法 土属性

補助 毒耐性


 イルガ村のゴブリンとの戦闘でレベルが上がっていたらしい。まだレベルが1上がっただけだが、それでも器用値が2も上昇したのはこれから先の戦闘の事を考えると僥倖(ぎょうこう)だった。


「出来たようだな。それとこれは俺からだ」


 次に渡されたのはギルドの名前とクーガーの名前が記された一枚のカードだった。


「それはギルドカードだ。お前が『デュランダル』の所属である事の証明するための物で、それがないとクエストも受けられないからな。なくすんじゃねぇぞ」


 分かった、とギルドカードを懐にしまう。


「さて、これで晴れて『デュランダル』の所属となったってわけだ。歓迎するぜ。それで?これからどうするんだ?」


「クエストを受けようと思う」


「そうか。ならそろそろクエストが張り出される時間だから、クエストボードの所に行くか。案内してやるよ」


 そうして二人は部屋を後にし、クエストボードへと向かう。

ボードの前ではちょうど張り出されたのか、沢山の冒険者でごった返していた。


「よしそのクエストもらい!」


「あっテメェ!それ俺達が先に目をつけてたんだぞ!」


「今ならこの討伐クエストいけるかも」


「止めとけって無駄死にするだけだぞ」


「採取系の依頼はないかしら……」


 誰しもが我先にと依頼書を取り合っている。クーガー達は取り敢えず人が少し減るのを待ってからボードに向かった。

ボードには大分減ったがそれでも様々な依頼書が残っていた。

魔物を倒す討伐系のクエストや指定された物を集める採取系、商人や要人を守る護衛系のクエスト。更には人探しや、仕事の手伝いなどもあった。そんな事すら冒険者に頼むのかと思ったが、補助スキルの中には、クーガーが持っている毒耐性のような戦闘向きのスキルがあるように、料理や解体など直接戦闘に関係無いものもあったのを考えると、何もおかしい事ではなかった。

あれこれ考えていると、ふと後ろから声をかけられる。


「よう、お前は確かクーガーだったよな?それにシグマさんも。どうしたんだこんなところで?」


 声の人物はイルガ村からウォレスに来るときに乗せてもらった商人の馬車を護衛していた壮年の冒険者だった。


「ようベリス。いろいろあってな、コイツは今日からウチの所属だ。せいぜい()き使ってやってくれ」


「いろいろねぇ。あんたが良いっていうなら問題ないんだろうけどさ」


 そして何か思い付いたのかシグマはベリスに提案を告げる。


「なぁベリス、お前が今ここにいるってことは今日はクエストを受けてないんだろ?よかったらコイツと一緒に簡単なクエストを受けてやってくれないか」


 それはいきなりすぎるだろ、とクーガーが口を挟もうとするが

、それをシグマがまあまあと制す。ベリスは少し考え了承した。


「そりゃ別に構わないが、手頃な依頼が残っているのか?」


「そうだな……。おっ、これなんか良いんじゃないか?多少手間は掛かりそうだがお前が付いてくれれば問題は無いだろう」


 そう言って手にした依頼書には、依頼主はジント村の村長。内容は最近村の家畜が何物かに襲われているとの事。まだ人的な被害は出ていないが村人は不安で仕方がないので、調査と出来れば対象の駆除をしてほしいという依頼だった。


「ジント村か…確かここからだと二時間程の場所だったな。俺は良いがクーガー、お前はどうだ?」


「俺もそれで問題ない」


「決まりだな。ならこの依頼はお前達二人で――」


「ちょっと待ってくれ。良ければもう一人連れていきたい奴がいるんだが」


「もう一人?誰なんだ?」


「ソーマだよ」


 その名前が出た瞬間シグマはあぁ…アイツかぁ、と頭を掻く。何か問題でもあるのかと尋ねると。


「問題って言うほどじゃないがちょっと性格がな、お調子者のくせにビビりでよ。戦闘になっても魔物相手にまともに切りかかれないんだよ」


「問題だろ」


「だから少しでもなんとかしようと思ってな、ジント村の周辺では強力な魔物が出たという報告も聞かないからちょうど良いと考えたんだ。悪いが協力してもらえないか?」


 クーガーは考える。自分にしてみればクエストを行えればそれでいいのだが、『デュランダル』では冒険者の安全を高めるために一人ではクエストを受けられない決まりになっている。そのこと自体に不満はないのだが、今日初めて会う相手とパーティーを組むにあたって、低レベルな自分とまともに魔物に切りかかっていけないという問題を抱えているソーマと呼ばれる人物、いくら経験の積んでいる冒険者(ベリス)がいるとはいえ、クエストをこなせるかという不安がある。


「―――分かった。どちらにしろ俺自身が右も左も分からない状態だ。そのあたりはあんたに任せる」


 ここでぐだぐだ考えても先に進めないと思ったクーガーはベリスの提案を受ける。


「そう言ってもらえると助かる。それじゃあソーマを連れて来るからそこら辺で待っててくれ」


 そう言ってベリスはギルドを出て行った。残された二人はベリスが戻って来るまでの間、近くのテーブルに向かい席について待つことにした。


「そうだ、クーガー。お前に一つ言っておくことがある。これからくるソーマって奴だが、最初だけで良い下手に出てくれないか?」


 シグマがいうにはソーマというのは相当なお調子者であるため、後輩から先輩呼ばわりされるだけでもすぐ調子に乗るらしい。

今回もクエストに行くのを渋るかもしれないから、最初の挨拶だけでも下手に出てほしいとのこと。


「やらなきゃならないのか?」


「大したことを頼んでる訳じゃないんだがな」


「―――わかった。先輩と呼んで下手に出ればいいんだな?」


 そして待つこと十数分、ベリスが一人の男を連れて戻って来た。いや正確にいうと引きずってきた。


「待たせた。ほらソーマ、そこにいるのが今回一緒にパーティーを組むクーガーだ。取り敢えず挨拶をしろ」


「いやベリスさん、いきなりクエスト行くぞって首根っこひっ捕まれて連れてこられてですよ?そんでいきなり初めましての相手とクエスト組んで行くから挨拶しろって、そりゃさすがに横暴が過ぎませんかねぇ!?」


「文句はいいからさっさと済ませろ」


 じたばたと暴れるソーマの不満を一蹴し、クーガー達の目の前に放り投げる。イテっ!と尻餅をつき、痛む尻を擦りながらベリスを睨むが、ベリスは全く意に介さない。その様子に観念したのかソーマは立ち上がり服の埃を払うと改めてクーガーと向き合い紹介をした。


「俺はソーマ。あんたは、えーっとクーガーで良いんだっけ?なんかシグマさんの紹介でギルドに入ったっていう」


「ああ、今日から『デュランダル』の所属となった。まだ何もよく分かってない新人だが宜しく頼む」


 シグマに言われた通りに言って手を出す。目付きが鋭く一見すると野蛮そうな印象を受ける見た目のクーガーの丁寧な対応にソーマは一瞬キョトンとした顔をする。だが直ぐに我に戻り、今度は得意気な顔になりクーガーの手を握る。


「そーかそーか!まぁ確かに?お前がシグマさんの紹介で入って来た冒険者とはいえ、ここでは俺のほうが先に所属しているいわゆる先輩だし?分からない事があったら何でも聞いてくれ。なんたってそう!俺は先!輩!なのだから!!」


 この上なく清々しいまでのドヤ顔を見せるソーマ。そのあまりの様子にクーガーは、お調子者と言われるのも当然だなと納得した。


「挨拶はすんだか?なら今度はステータスやスキルの情報の共有だ。ほらいつまでやってんだソーマ」


 スパンっ、と勢いよくソーマの頭をひっぱたく。叩かれたソーマはうぉぉっ…と頭を抑え床で悶えている。それを尻目にベリスは自身のブレスレットに手を当て魔力を流しステータスを表示させた。


名前 ベリス Lv17

種族 人間

〈能力〉

筋力値 20

器用値 25

機敏値 17

生命力 21

魔力値 15

〈スキル〉

武器 剣

魔法 火属性

補助 連携 識別 夜目


 続いてクーガーもステータスを表示させ、遅れてソーマも続く。


名前 ソーマ Lv2

種族 人間

〈能力〉

筋力値  6

器用値 13

機敏値 15

生命力  6

魔力値  8

〈スキル〉

武器 短剣

魔法 風属性

補助 料理 識別 夜目 解体 投擲 気配察知 道具作成


 ベリスはベテランらしく高いレベルと纏まったステータスだった。だがそれよりも目がいくのがソーマのステータス、それも補助スキルの多さ。

シグマのように高レベルの冒険者は長年培った経験により多数の補助スキルを持つ者もいる。しかしソーマは自分と同じLv2。なのにこの数の多さにクーガーは疑問を感じた。クーガーの視線に気づいたソーマはなぜか慌てて説明し始めた。


「いやっ!まぁほらアレだよアレ!俺ってばセンスがあるっていうか、なんかこう…ちょちょいとやってたら取得したんだよ!分かったか!?分かったよな!?いやお願いします分かってください!!」


「そ、そうか」


 ソーマの勢いに半ば強引に押しきられる形になったクーガー。正直疑問がなくなった訳ではないが、これ以上問いかけたところで納得できる答えが得られないだろうとクーガーは思った。


「もういいか?これでお互いの紹介とレベルやスキルの認識の共有がすんだ。これで後は受付で正式にこの依頼を申請して受理されればようやくクエスト開始だ。ほらさっさと行きな」


 シグマに急かされクーガー達は受付へと向かい依頼書を出し、本人確認のためギルドカードを提示した。


「お待たせしました。それでは確認しますね。今回の依頼はジント村での家畜の被害の調査とそれの解決となります。そしてこちらから向かうメンバーはベリスさん、ソーマさん、クーガーさんの三名ですね。そしてこちらが依頼受諾の証明書です。依頼主はジント村の村長さんになりますので、きちんとサインをもらってください。それでは気をつけて行ってくださいね」


「ありがとよ。…さてこれで正式にクエストを受けたわけだ。それでジント村へ向かう前に各自で準備を済ませ、一時間後にギルドの前に集合だ」


 そしてベリスとソーマは準備をするためギルドを出る。クーガーもギルドを出ようとするとシグマに呼び止められた。


「今回初めてのクエストだろ?そんなお前にささやかながら餞別だ。これで少しは道具を揃えられるだろ」


 そう言って金貨一枚を投げ渡す。クーガーはそれを掴み金貨をまじまじと見つめシグマへと視線を移す。


「ん?どうした?礼ならいいぞ。ギルドマスターだからな、これぐらいは気にするな」


「いや、金貨一枚しかくれないのかと思って」


「お前はもうちょい謙虚さを身に付けろ」

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