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115話

 場面は変わり、相対してるは康一とソーマ、そして吸血鬼であるクルース。

たった二人でありながらクルースに手傷を負わせることに成功し、逃げるクルースを追いかける展開から対峙する状況にまで持ってきていた。


(向かい合う形になったのはいいが、こっからどう動いたもんか)


 仕切り直すようになってからは互いに見合い様子を窺っている。

康一とソーマはクルースの高火力を警戒し、クルースは二人の多彩な連携に注意し動けないでいた。


(黙っていたって流れる時間はこっちに味方しねーんだ。ならいっそ強引にでも突っ込むか?)


 今ソーマが危惧するのは膠着時間によりクルースが落ち着きを取り戻すこと。

万が一でも自分の仕掛けに感付かれると、ただでさえ少ない勝機の目が一つ失われてしまう。


(こっちは多少なりとも連携もどきの動きは出来るがそれでもやるしかないか……?)


 歩調を合わせるのは苦手ではないが相手が魔族ともなるとどうしても萎縮の気が滲み出る。


「ソーマさん。ここからは此方から仕掛けましょう」


 剣を強く握り直し視線をクルースから逸らさず声だけを掛ける康一。

言葉には提案よりもこれで行くから付いてきてくれという強さがあった。


「迷っても有利にならない、かといって受けに回れる訳でもないなら選択肢は一つのはずです」


「随分大きな声でのご相談ですねぇ、筒抜けですよぉ?」 


 嗤うクルースに今度はソーマが口角を上げて言葉を返す。


「なんだ結構耳聡いのな、案外見た目どおりにお子ちゃま精神で何でも気になる年頃か?」


「返す言葉の殆どが煽り文句なんて随分な性格じゃあないですかぁあ…!」


「言い出す言葉が煽りから始まるアンタにゃ劣るさ」


「コイツ……っ!」


 顔に筋を浮かばせ激情を表すクルース。

ソーマはその圧を受けつつも平静を装い、康一の直ぐ斜め後ろに近づく。


「さぁてこれで膠着状態は終わっちまうな。よろしく頼むぜ康一」


「はい。全力で向かっていくんで後は頼みます!」


 康一が全力で地面を蹴る。それを合図に間を置かずクルースも康一へと迫っていく。

瞬く間に互いの距離は無くなり各々の攻撃が届く範囲へ。


「フッ!」


「その程度っ!!」


 康一の上段からの振り下ろしをクルースは身軽な動きで横に躱す。

そのまま康一の胴体を目掛け手刀を放とうとするが、それを制すようにソーマの短剣がクルースへと飛翔する。

威力は低いが被弾することを嫌うクルースは手刀の軌道を変え短剣を弾き落とした。

僅かな時間、それでも康一が振り下ろした剣を切り返すには充分な猶予であり、クルースの首を目掛け今度は切り上げを放つ。


「甘いってんですよッ!!」


 返す剣をクルースは今度は後ろに飛び退くことで躱す。

身軽な見た目に不釣り合いな運動能力は正しく魔族のソレであり、ここでも康一達の攻撃は避けられてしまう。

 ならば届くまで攻めるまでと康一の後に続いていたソーマが前に躍り出て短剣を順手に構えクルースへと突撃した。

 機敏さであればクルースと勝負が出来ると踏んだソーマはこの回避後のタイミングを狙って一直線へ突きを放っていく。


「これで!」


「だぁかぁらぁ! 甘いってぇ!」


 その突きに合わせるようにクルースは再度手刀を構えソーマに向けて放つ。

リーチの差はソーマが有利。しかし感じる圧力から危険なのはクルースの攻撃だと察知したソーマは回避に移るかと一瞬過るが、後ろから続く気配を感じ、更に一歩を強く踏みしめた。

避ける為ではなく、次に繋ぐため。


(イメージはクーガーのように、恐れずに怯まずに――!)


 クルースの脇を抜けるようにして力強く一歩を蹴りだす。

それにより目測を誤る結果になったクルースは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべソーマを睨む。


「せぇいッ!」


 増した速度そのままに放った突きはクルースの脇腹を切り裂く。

その痛みに激昂しながらも突き出した手刀がソーマに迫る。

分の悪い相討ち、しかしそうはさせまいと後方から近づいた康一が次の()を出す。


「間に合え!」


 体当たりでは間に合わないと地を蹴り飛び上がって放った跳び蹴りはソーマの背中に直撃し前へと押し出した。


「んなっ!?」


「ふぎゃ!」


 まさかの行動に驚く両者。望んだ結果を得られたのはソーマ達であり、いいようにやられたクルースは直ぐに苛立ちを表す。

たかが二人になんて様だと、怒りで更に我を忘れそうになるが切られた痛みが忌々しくも気付けの役割を果たす。


「くぅ……っ!」


 苦々しく歯噛みをすると跳躍し距離を取る。

視線の先では顔から地面に地面に突っ込んだソーマが康一に腕を掴まれながら立ち上がっていた。


「すいません、咄嗟の事だったんで」


「っつつ…。なに、それで無事ならそれが正解でしょうよ。ナイスだ助かった」


 少し赤くなった鼻をさすったソーマ。

今の攻防で負った傷がこの程度で、かつ相手にもう一撃当てれたのだ。むしろ上手くいき過ぎていると感じるくらいに。


(これで二撃目、前に食らわした分との間隔でいえばそろそろ何らかしらの反応が出るか? いやそれ以前に異変に気付くか?)


 短剣に付着した血をサッと払うと、そこには刃先から根元まで鋭く煌めき、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()は綺麗になくなっていた。


(血の扱いについて右に出る奴なんざいないだろう吸血鬼に果たして毒が通るか、なんてそもそもの話しはもう遅い)


 正統に追い詰める術が無いなかで絞り出した搦め手と言うにはあまりにも細い道筋。しかも予想は未知数ときた。

だがそれでも、万が一にも効き目があるのなら、その機を逃さない自信はある。その細い勝機の糸をきっと手繰ってくれるはずだと思える康一(相手)がいる。


 ならここはどうするか?決まっている。

気取られぬようクルースに落ち着かせる時間をなるべく与えぬこと。


「どうよ? おたくの攻撃は外れてこっちは当たった。たかが二人にこの様は」


「かすり傷付けた程度で調子乗ってンじゃあないですよお…っ!」


 食い付いた。

やはり魔族といえど幼い見た目と精神性はそう乖離することはないらしい。

次はどの言葉を使えば苛立たせられるかと思案を回すソーマ。

本当ならば康一にもやってほしいのだが、この純真な少年に自分のパーティーメンバーのような煽りが演技でもこなせる場面が想像出来ない。

だからここは自分がと集中するために口を結ぶ。

その僅かな間がクルースに状況を確認させる切っ掛けを与えてしまう。


(さっきから一人がぐちぐちとぉうるさいですねぇ。多分その間に勇者が攻める算段なんでしょうけどぉ)


 その割には攻勢に出てくる頻度が思ったよりも少ない。吸血鬼である自分に対して慎重を期しているにしても間を取る間隔が多い。


(増援を待ってる? にしてはぁこちらを伺う姿勢が気になりますねぇ)


 ならこの展開を変えるか。どうにかして距離を取って力を込めた炎を放つ、単純だが流れを変えるには分かりやすい程効果があるだろう。

そこで魔力を練ろうとした時に漸く、身体の内を巡る違和感に気付いた。


「何っ、これ…? 熱い、内から? 這い回るこの感覚、まさか、まさかまさかぁ!」


 自身の身体の異変、己が吸血鬼だからこそこ鮮明に理解し、吸血鬼だからこそ仕掛けられたモノにこの上なく怒りが込み上げる。


「吸血鬼にぃ! この私にぃ!! 毒なんて仕込みやがってええぇ!」


「毒?」


「気付かれたか。でも反応あるってことは全くの無意味じゃねぇーんだな」


 クルースの怒りにソーマは僅かな勝機への道筋はあったのだと手応えを感じる。

後はその道筋が近いのか遠いのか、太いのか細いのか。だがどちらにしても行かねば勝利を掴めない。


「効き目があるならもうちょい予備も欲しかったんだけどな。それでも用意してくれただけ感謝だわやっぱ」


 毒は無くなれど切れ味までは落ちていない短剣を握り直し康一へと軽く目配せをする。

毒本来の効き目はまだまだ未知数だが、少なくとも精神的には効果が出ている今は間違いなく好機。

康一もそれを察し剣を構え息を整える。

僅かな猶予を使い、互いに呼吸を合わせ踏み出す瞬間。


 ―――突如彼方で爆発が起こった。


「「「!?」」」


 轟音と共に襲う揺れが爆発の威力を物語りソーマと康一はその場に膝を着く。


「なんっ、だ、コレ……!?」


 戦闘中にも関わらず爆発の方向へと視線を移すソーマと康一。

突然の事に理解が追い付かないが、限られた状況の中で起こった事で原因の予想は間もなく着いた。


「もしかして――」


「ハハ…ッ、キャハハハハ―――ッ!!!」


 康一が何かと言葉を出すより早く察しの着いたクルースは高らかに笑う。


「おやおやおやぁぁああ??? 確かぁ、あそこってぇ私のゴーレムとあなた方のお仲間さんが戦ってた方向ですよねぇぇ?」


「何高らかに笑ってんだよ、爆発したってこ―――」


「爆発したってことはお前のゴーレムがやられたって言いたいんですかぁ~? そうですよねそう思っちゃいますよねぇ?」


「違うとでも?」


 問うソーマにクルースは笑いを抑えきれずクフフと漏らしつつも答える。


「あのゴーレムは特別製で万が一倒されそうになるとコアの魔力を使ってぇ、ボン! って爆発するんですよぉ!! あ、勿論相討ち狙いなんかじゃなくてぇ、コアだけは無事という素敵使用なぁんでぇすよおぉ!!」


 あの爆発で生きていられる訳はないと、お前の仲間は死んだんだと勝ち誇るように叫ぶクルース。

この宣告でお前らはどんな絶望の表情をするのかと楽しみにするクルースが見たのは。


「そっか、でもまあ大丈夫だろ。あっちにゃアイツがいるし」


 そうあっけらかんと言い放つソーマ。

その言い様に隣に立つ康一も、ええ? と溢す。


「だってアイツらがそれで本当にやられると思うか?」


「――確かにそうですね」


「それにそんな爆発を使うまで追い込んだってことだろ? ウチのリーダーは詰めに関しては相当やるんだ。信頼はしても心配は余計だよ」


 それよかこっちに集中しないとな。

直ぐに落ち着きを取り戻すソーマに康一も同意を返して構え直す。


「さぁ、ここからもうひと頑張りだ」

読了ありがとうございます。

リアルで色々あり投稿が遅れに遅れました。

これからも投稿頻度は早くはならないですが、完結はするつもりなので頭の片隅にひっそりとでも置いてもらえたら幸いです。

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