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9話

 教会を後にしたクーガーはシグマの案内でウォレスにある店を巡っていた。


「えーと…武器屋は行った、防具屋も行った。道具屋は今寄ったし、だいたいは回ったか。おっとそうだ。お前確かまだ宿はとってないよな?」


「ああ」


「さすがにずっと応接室にって訳にはいかないからな。知り合いがやってる宿屋があるから、取り敢えずはそこを拠点にやっててくれ」


 シグマに言われるがままに連れていかれるクーガー。暫く歩くと看板に『止まり木』と書かれた宿屋が見えてきた。


「ここか?」


「そうだ。ここの女将はここいらで一番の古株でな、頼りになるが怒らせるとおっかねぇからな。くれぐれも粗相はするなよ?」


「俺だってそこまでガキじゃないさ」


 教会でカナードとの話を着けたからか、肩の荷が降りた二人は軽口を叩きながら宿屋へと入っていく。

入って直ぐに恰幅の良い女性が迎えてくれた。


「いらっしゃい。…おや?シグマじゃないか。珍しいねぇ、どうしたんだい」


「久しぶりだなアムリタさん。今日はちょっと面倒を見てもらいたいヤツがいるんだが……」


「面倒見てもらいたいって…後ろの目付きの悪そうな子かい?」


「そうそう、コイツはちょっと訳ありでさ、目付きは悪いが性根は悪くないからそこは安心してくれ。」


 昨日会ったシグマはともかく、初対面の相手にまで目付きが悪いと言われ、少し気にしながらも挨拶をする。


「クーガーだ」


「はいよ、クーガーだね。あたしはアムリタって言うんだ。呼び方は女将さんでもアムリタさんでもどっちでも構わないよ。なんならママって呼んでくれても良いんだよ?」


 ウインクをしながら言うアムリタ。恰幅の良い見た目通りに豪放磊落(ごうほうらくらく)な性格なのだろう。初対面の相手に対して砕けた口調で話してくるが不思議と嫌みがない。かと言っていきなりママと言う選択肢などクーガーは持ち合わせていない。なのでここは無難に呼ぶことにした。


「宜しく頼むアムリタさん」


「おや素っ気ない。からかい甲斐がないねぇ、ほらもうちょっと愛想よく笑わないと。人は第一印象が大事だよ。ほら笑顔、笑顔」


「いやいきなりそんなこと言われても出来な……っていひなりなにをっ」


「全くそんなムッとした顔じゃ運気も離れていくよっ。あらやだ。クーガー、あんた普段からちゃんと笑ってるかい?顔の筋肉が硬いじゃないかい」


 グニグニとクーガーの両頬を掴み、力強く揉んだり引っ張るアムリタ。止めるように言うが聞き入れてもらえず、なおも続けるので掴んでいる手を引き離して強制的に止めさした。

痛む頬を擦りアムリタを睨むが、当の本人は全く意に介さず笑っていた。


「ははは、諦めろ、アムリタさんは昔からこういう人なんだ。抵抗するだけ無駄だぞ」


「やだよ人聞きの悪い。それにしてもどういう風の吹き回しだい?シグマがここに人を連れてくるなんて」


「ん?ああ、実はコイツはオテロの紹介でここに来たんだよ」


「まぁ!なんだいなんだい!あんたオテロの知り合いだったのかい!?それを早く言っておくれよ!」


 オテロの紹介だと分かった途端に喜ぶアムリタ。そのあまりの喜びようにクーガーは驚き、シグマに説明を求めた。


「実はな、アムリタさんはアメリアの母親なんだよ」


「なっ!?」


「そうだよ、アメリアは私の娘さ。どうだった?私に似て美人だっただろう?」


 確かにアメリアは美人だった、しかし母親がこのアムリタというのならいずれは、とそこまで想像しかけてクーガーは考えるのを止めた。きっと彼女は父親似だったのだろう。クーガーは一人納得するように自分に言い聞かせる。


「なんか失礼な事を考えてないかい?」


 ズイッと顔を近づけるアムリタに対してクーガーは首を横に振ることしか出来なかった。

そしてお互いの紹介が一通り終わった後、暫く滞在する部屋に案内された。中はベッドと机のみのすっきりとした部屋だった。


「ここがあんたの部屋だよ。代金は日数を指定しての前払いだ。いくらあんたがオテロの紹介で来ても、私も客商売をしてるからね。他のお客さんに示しがつかないから、代金を甘やかす事は出来ないよ」


「分かった。それで幾ら位なんだ?」


「一日銀貨一枚、朝食を付けるなら銀貨一枚に銅貨三枚だね」


「アムリタさんは新人の冒険者を優先して泊めてくれてるんだ。他の宿屋だとだいたい一日銀貨二、三枚はするからな。この値段でやっているのは此処ぐらいのものさ」


「だからある程度稼げるようになったら他の宿に移ってもらうけどね」


 値段を聞き、手持ちを確認する。イルガ村を出る時オテロに幾らか貰っているので、そこからこれからの予定を考える。


(手持ちは金貨三枚に銀貨五枚に銅貨が十枚か)


「そうだな…、取り敢えずは二週間で頼む。朝食は無くて構わない」


「あいよ。それじゃ代金は金貨一枚に銀貨三枚だね」


 腰に付けている硬貨入れから硬貨を取り出し支払いを済ませる。


(それにしても、通貨の価値も前と変わらなくて安心したな)


 ちなみにこの世界では銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚、さらに金貨十枚で大銀貨一枚、大銀貨十枚で大金貨一枚となっていく。物の単価でいうとリンゴ一個で銅貨一枚相当になる。


「確かに。後クエストとかで暫く部屋を空ける時は事前に言ってもらえれば、宿泊期間中なら支払ってもらっている分から一日あたり銅貨二枚を戻ってきた時に返させてもらうよ」


 その後、宿での生活にあたっての注意事項の説明をして、アムリタは部屋を去った。


「さーて、これでようやく一段落だな。…もう昼時か、どうだ?飯でも食いに行かないか?」


「奢りならな」


「まずそこかよ」


「これでも新人冒険者なんでな、手持ちが心許ないんでな」


「新人がギルドマスターにこんな風にたかるかねぇ。まぁ昼飯位なら問題ないけどよ」


 ほらさっさと行くぞ、とシグマと共にクーガーも宿を後にしる。

 宿を出て少し歩くと沢山の屋台が並ぶ通りに出た。その中からシグマがオススメだという串焼き屋で昼食をとることにした。


「ここは値段の割りに量も多くて味も良いんだよ。親父取り敢えず適当に二人前よろしく」


 はいよ!、と屋台の親父が景気よく返す。少しして豚や牛の串焼きの盛り合わせが運ばれてきた。焼きたての香ばしい匂いが食欲をそそる。クーガーとシグマは豪快にかぶりついた。


「うまいな」


 肉の味は勿論だが、なにより掛けてあるタレがうまい。クーガーは一心に肉を食べ続けた。

そして食事を終え、少し一服しているとシグマがクエストについて説明を始めた。


「そうそう、クエストなんだがな。毎朝ギルドで一斉に張り出すからよ、受けるなら朝は取り敢えずギルドに来い。それとクエストは基本的にソロでは受けれないからな、注意しろよ」


 昨今の魔物の攻勢により『デュランダル』では、クエストの成功よりも自身の命を最優先とするように徹底している。今はギルドも人不足でどんな簡単なクエストだろうと最低でも二人であたるように指導している。


「だからクエストを選んだ後に、パーティーを作るんだ。元からパーティーを組んでる奴らのとこに参加するもよし、クエストの内容に合わせて個人個人で誘うのも構わない。重要なのはどんなクエストだろうと全員生きて帰って来ることだ。生きていりゃ次がある。死んじまったら何にも残らないからな……」


 そう語るシグマの表情はどこかやりきれない感じがあった。

イルガ村から一緒に来た冒険者の話では、シグマは十年前の戦いにも参加していた。その戦いでは王国の騎士団もギルドの冒険者も大人数が戦いで亡くなったいう。勿論その中には親しい者達もいただろう。

だからだろうか、"全員生きて帰って来ること"、この言葉にはシグマ個人の願いが込められているように聞こえた。


「分かった。努力しよう」


「努力じゃなくて絶対守れよ?」


「戦いに絶対はないだろうよ」


「…分かってるよそんなことは。ったく話す内容がいちいち新人っぽくないったらありゃしねぇ」


 その後、シグマはギルドへと戻り、クーガーは生活に必要な物を揃えるついでに街の地理を把握するために散策をした。

そして日が沈み夜になる頃、クーガーは宿へ戻って来ていた。


「これで終わりっと」


 街で買った雑貨の整理を終え一息をつき、今日の出来事を思い返す。


「さすがに今日は疲れたな」


 まず朝から教会に赴きカナードとの投影石について話をした。明日の朝にはギルドに届けてくれるようなので朝一に行く事にする。次に暫く拠点にする部屋を確保した。

前の世界では兄の仇を探すために各地を旅していたし、ただ寝るだけだからと金を使わないために野宿をするなんてざらにあった。そんな生活をしていたからか、長い期間宿をとるなんて初めてなので慣れない事をして少し疲労していた。


「とりあえず明日はクエストでも受けるか」


 カナードの話だと勇者はまだ戦場に出ておらず、ウォレス城で戦闘訓練をしているらしい。勇者の様子を見たいと思っていたのだが、この調子では顔を見ることも叶わないだろうと思ったクーガーは、自身のレベルを上げるのと、当面の資金を得るためにもクエストを受ける事を決めた。

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