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106話

 時間は進み、魔物との会敵も先の一戦以来無く順調に歩みを進める一行。

空を見れば鮮やかな茜色が次第に色彩を欠き、辺りが黒に染まっていく。


「今日はここまでか」


 ライアットの言葉に反対はなく、全員は脇に野宿の準備を始めた。

各々の馬を手近な木に繋げ荷物を下ろし、荷馬に積まれた袋の中から餌さとなる草を押し固めた物を解しながら置いていく。

そんな中クーガーはソーマと一言二言会話を交わすと茂みの向こうへと入っていった。


「さて、今回はもう一組いるのよね。夕食の持ち回りはどうするのよ?」


「こちらはこちらで調理する用意はありますが、シータさん達はどうなさるので?」


「普段は保存食を主として、後はリフルが軽食を作ってくれるからそれを食べているわ」


 シータとライアットは貴族であることもあって自炊の機会は少なく、リフルは多少の心得はある程度で手間を掛ける食事までは難しいといった具合。

康一も前の世界では病を患っていたので自炊の経験などゼロだった。


「良かったらこっちで纏めて作りましょーか?人数が増えるからって手間までそんなに増えるわけでもないし」


 ソーマの提案に康一達は顔を見合ってどうするか考え、今回はお言葉に甘えておこうと結論を出した。


「それじゃお願いするわ。材料とか幾らかあるから、使っても大丈夫だから」


「どーも。でも今回は必要なさそうだと思うんで仕舞っといてくださいな」


 必要ないとはそれだけ食料を持ってきたのか、と考えるシータの背後の茂みからガサガサと音がなる。


「お、きたきた」


 待ってましたと口角を上げるソーマの前に茂みからクーガーが出てきた。


「どうだった?」


「日が暮れ始めた位だったからもう少し掛かるかと思ったが、わりかし近い場所で見つけられて幸運だった」


 その手に持っていたのは既に絞められ血抜きされている猪だった。

ぐったりとした猪を置くとクーガーは肩を軽く回し、ソーマは腕を捲った。


「こりゃ捌きがいがあるな」


「手伝いはいるか?」


「今回は頼むわ」


 そう言うと二人は慣れた手つきで猪を捌いていく。

その光景を見慣れているルセアとコーラルは焚き火台作りに取り掛かり、馴染みのない康一達はその過程をまじまじと見ていた。


 皮を剥ぎ、内臓を取り、部位ごとに切り分けていく。

そしてぶつ切りにした肉に香辛料を塗りたくり串に刺していく。


「少し残して干すか?」


「必要ない全部食う」


 ここで食いきるクーガーの言葉で大量の串焼きが焚き火台を囲い焼かれていった。


「後は適度に回して確り焼けりゃ完成だ」


「なら食事を置ける台を用意しましょう。数が多いですし、地面の上というのもあまりよろしく見えないですし」


「それならこっちで用意するわ。と言うわけでクーガー宜しく頼むわね」


 ああ。と短く返事したクーガーは少し離れた所に立ち、地面を見つめ少し考えると地面に手を着けた。


「こんなものか?――生命を育む豊かな大地よ、我が望みし姿に応えよ『アースチェンジング』」


 地面がゆっくりと隆起し、綺麗な長方形を型どり、ここに居る全員が余裕をもって囲めるテーブルが作り出された。


 クーガーの想像力に依存するがある程度自由の効くアースチェンジングという魔法を見て。

――あれ?これって戦闘中だけではなく日常でも使えるのではないかしら?

という直感を得たルセアの一言で便利な技能の一つとしてこの魔法が最近追加されたのだった。


「へぇ……」


 それを見たシータは興味深くクーガーを見つめていた。







「ふぅ、もうお腹いっぱいだ……」


 転生前と比べ健康になった体になった今でも味わったことのない満足感に息を吐く康一。

それを見たソーマが水の入った木製のコップを差し出す。


「あ、ありがとうございます」


「此方こそ満足気に食べてくれて作った甲斐があったってもんさ」


 勇者とはいえ自分より幼い康一にソーマは肩肘張らず接していた。

食事の感想を皮切りにぽつりぽつりと会話を交わしていく二人。


「ソーマさんはこんな料理も出来てすごいですね」


「切って焼いただけだからそんな大層なモンじゃないけどな。おたくだって魔族との戦いの最前線で戦ってきたんだろ」


 戦いしか出来ない康一はそれ以外でも器用にこなすソーマを羨むが、ソーマからしてみれば皆の希望と羨望を受ける康一の持つ強さの方が眩しく映る。


「戦いしか頑張れる事がないですから、それもまだまだ成長しなきゃ足りないって思います。ライアットさんやクーガーさんみたくもっと頼りになれるように頑張らなくちゃ、勇者として情けないですもん」


「将軍とアイツが同列ね」


 ここでもクーガーは強者として認識されている。それは誇らしくもあり、やはり負けていられないと意地に熱が入る。


「それを言うなら俺だって冒険者としてもアイツの先輩としても、もっと強くならなきゃ立つ瀬がないさ」


「それじゃ僕らは同じですね」


「同じか?」


「そうですよ。僕は勇者としてライアットさん達の仲間として相応しいようにもっと強くなりたい、ソーマさんはクーガーさんの仲間として横に並べるようになる為に。ほら、共に自分達の仲間に恥じないようにって」


 互いに知らないが、二人とも自分の仲間達に対してコンプレックスを抱えている。そしてそれに不貞腐れることなく何とかしようと努力する気概がそれぞれにある。

そんな雰囲気を感じとったのか二人は力を抜いたまま自然に会話を交わしていった。






「で、ここまでの話しはちゃんと聞いているんでしょうね?」


「んあ」


「飲み込んでから返事をしてもいいんだぞ」


「もが」


「飲み込んだそばから口に入れるな!」


 そんなやり取りをしているのはシータ、クーガー、ライアットの三人。

各々が串焼きを堪能したがそれでもかなりの数が残っていた。それらがクーガーの目の前に積まれていたが今現在貪られていた。

そんな中、先程の魔法の使い方を見て興味を持ったシータがクーガーに魔法について質問をしている最中だった。


「んぐ。聞いているさ、どうして一つの魔法しか使わないのか、だろう?簡単に言えばその方が楽だからだ」


「アンタの魔法は確かに応用度は物凄く高いけれど、毎回毎回頭で組み立てる方が手間と苦労はかかるんじゃない?詠唱とか力加減の調整はあれどそれを差し引いても専用の魔法は使い勝手があるとおもうけれど」


「それはそうだな。だが俺自身の立ち位置は前衛だ。本職のような完成度は求めていないし、まだ日は浅いが使い続けた甲斐もあり調整の幅も質も上がってはきている」


 その証拠がこんなんだ、とコンコンと作った台を叩く。


「修練度か」


「何事も継続は力だ」


「違いない」


「むぅ…。それは私もそう思うけれど、皆が皆当たり前のように出来るものじゃないのよね。アンタの主観で良いからどういう風に考えて、魔力を流しているのか教えてくれない?」


 シータは若いながらも魔法に関してはローランド王国において限りなく上位にいる。

実力も然ることながら、学び研究する姿勢も深い。

それゆえ魔法についての造詣が深く、冒険者ギルド『デュランダル』で魔法の教導もしているヨダとも対等に議論を交わせる程。


 だからこそ通常ではない完成度で扱うクーガーに興味が湧く。どうすればそのように使えるのか?自分もモノに出来るか?他の属性や魔法への応用は?個人差はどこまで出るのか?等々、疑問が沸けばキリがない。


「それは構わないが、替わりと言っては何だが魔力の扱い方についての意見を聞きたい」


 クーガーもクーガーで己が成長出来る伸び代があるならばその教えを乞うのも厭わない。

その言葉に猪突猛進な幼なじみと全く同類の近接厨なのではと勝手に決めつけていたシータは良い意味で衝撃を受けた。


「ええ、ええ!勿論!!理解をしようと議論を交わすのは成長は勿論新たな発見の第一歩よ!きちんと要望には応えて上げるわ!」


「なかなか熱が入りそうな雰囲気だな。俺にも為になることだろう。このまま居させてもらうぞ」


「かまふぁん」


「これから真面目に語るんだからさっさと食べ終わりなさいよ!」


 ウガー!と怒鳴るシータをライアットが宥めている内にクーガーは残った串焼きを口に放り込むのだった。






「ふーん」


「混ざらないのですか?」


 クーガー達の会話を遠巻きに見ていたルセアにコーラルはそう言った。傍らに座るリフルも少し心配そうに見つめる。


「うーん……。今のシータの所に混ざってもねぇ。アンタは珍しい属性持ちなんだからもっと魔法を学びなさい!って怒鳴られるのがまじまじと見えるのよ」


「確かに、ルセアさんは接近戦が主ですからね」


「ルセアさんは魔法が苦手なのでしょうか?」


「苦手は苦手なのだけれど」


 ルセアは魔法が苦手だ。得手不得手という訳ではなく単純に好んで使う気にはなれない。


「詠唱する時間があったら近づいて殴った方が早いじゃない?」


「え?」


 まさかそんな理由で?とリフルがキョトンとすれば。


「え?」


 それ以外に理由があるのかしら?とルセアもぽかんとする。


「ははは………」


 教会にいた時にリフルと交流があり、パーティーとしてルセアの人となりを知っているコーラルは乾いた笑いしか出なかった。


「まぁ、それがルセアさんの強みですからね」


 相手の懐に飛び込み肉弾戦を仕掛ける。得意武器の属性故のこともあるが、敵の間合いの内側で戦闘をするには並大抵の度胸では務まらない。

それを一歩も臆することなく実行出来るルセアだからこそ、魔法を放つより殴った方が早いという結論に至ったのだろう。


「私にはとても考えられないですね……」


 呆れではなく単純に驚嘆から言葉を溢すリフル。

典型的、それより上にいく理想的な後衛として康一達のパーティーにいるリフルにとってそれは初めての感覚だ。


「適材適所よ。私はこう考えているから逆にコーラルやソーマ見たいに後ろから全体を見渡すのはまだ苦手だもの」


 オネッサ村での一件から少しは違う視点から見ることも覚えたが、長年染み付いた考えは簡単には変わらず直ぐに殴った方が早いという結論にたどり着く。


「なら少しお話をしませんか?ルセアさんとリフルさん、前衛と後衛、立ち位置も所属も違うからこそ見識を広げるにはもってこいかと」


 それに魔法の勉強をするよりかは気がらくでしょう?と告げられた一言が決定打となりコーラルを真ん中に会話が交わされていく。


 互いに理屈は知っていても熟知とまではいかない知識に理解が足されていく。






 それぞれの場所で各々が思い思いに会話を交わしていく。

目的を同じにする同士から一歩踏み込み仲間になるように。

夜が更けるまで話し声が途切れることはなかった。

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