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102話

 紹介が終わり場所は変わってウォレス城内の訓練所。

どうして此処に移動したかと言えばステータスの提示が終わった後の会話にあった。


 ―――ところで、戦闘での指揮や連携は一体どうする?


 クーガーの一言からそれぞれは意見を交わしあう。順当にいけばローランド王国の将軍であり、康一達とのパーティーでもその指揮の手腕を振るったライアットが一律で執るのが相応しいだろう。

しかしパーティーとしての練度でいえばクーガー達もシグマに選出されるだけの実力があるという自負がある。それにルセア達もクーガーの指揮の元に培われた連携技術があり、いきなりライアットの指揮で十全に動けるかと言われれば大手を振って頷く事は出来なかった。


 そして一応の結論として出したのは、基本的にそれぞれのパーティーが独立して戦闘に当たること、そして対象が一体の場合や目標が一致した場合の指揮はライアットとクーガーに預け、最終的な決断はライアットに任せる事に落ち着いた。


 結論が出たのにどうして訓練所に来たのか?それは議論が終わった後のライアットの一言だった。


 ――話しは終わったがそちらの実力が知りたい。


 共に戦う以上、ステータスも指針になるが実際の動きを見ればより理解出来るとライアットの提案により一同は訓練所に来ていた。

そしてライアット達の前で一対一で対峙しているのはクーガーと康一。

パーティーとしての強さは実践で見るとして、個人の実力を知りたい、パーティーのリーダーの実力が分かればそのメンバーの実力もそれとなく理解出来るという事でこの形式になった。


 それぞれ手元に訓練用の剣と槍を携え握りや感覚等を確かめていた。


「あの、クーガーさん。本当に槍で大丈夫ですか?一応訓練用のハンマーもあるみたいですよ?」


「問題ない。この手合わせじゃエンチャントの類いは禁止だろ?スキルに無いだけで槍は扱える。それにハンマーは普段使っている奴が特別使用のやつだからな、普通のハンマーじゃ感覚が違い過ぎて逆にやりづらい」


 そう言って槍を二三振るう様は流れるように自然だ。それを見て康一は成る程と頷きそれ以上は問わなかった。


「ねぇルセア。アンタんとこのリーダー大丈夫なの?舐めて掛かっているって言うなら承知しないんだけど」


「それなら問題ないわ。クーガーはふざけてそんな事をする人じゃないもの。それにギルドの身内でやった大会で彼は槍で優勝したわ、その実力は確かにあると私達は言える」


「…ふーん。アンタがそこまで言うならそうなんでしょうね。今の言葉は不適切だった、謝るわ」


 当然の疑問だとしても、仲間の実力や人柄を訝しられては良い気分ではない。逆の立場だったら自分も良い顔はしないだろう事を思ってシータは謝罪の言葉を口にした。


「お二人共怪我は治療出来ますが、出来るだけ無茶はなさらないようにー」


「だからと言って萎縮する事はないように互いの全力を見せて欲しい」


 互いの身を案じるコーラルに互いの本気が見たいと言うライアットの言葉でクーガーと康一は集中力を高めていく。


 手合わせであっても手を抜かずに全力で、と意気込む康一。

そも戦いにおいて加減はあっても手抜きは無いと息を整えるクーガー。


「それでは、始めッ!!」


 ライアットの掛け声と共に手合わせは始まった。

それと同時に駆け出したのは康一。


(――速いな)


 真っ直ぐに最短最速を駆ける姿にクーガーはそう感じた。飛び出す勢い、前傾姿勢で切りかかってくるその速さはステータスの高さも相まって、この時点で自分がこの戦いにおいて先手を取れる立場には立てないとクーガーに感じさせる程だった。


 既に槍の間合いに入り、次の一歩で間合いの内側に入ってくるだろう。

しかし先手が取れなくとも後手で立ち回るだけの技術はクーガーにはある。


 槍の穂先を康一の体の中心を目掛けて放つ。攻撃ではなく相手を止める一撃。

並みの相手ならこれで止まるだろう。しかし相手はこの短期間で数多の魔族を相手にしてきた勇者である。一瞬驚きの表情を見せたが、直ぐに肩に構えていた剣を振り下ろして槍を払おうとして、その攻撃が空を切り地面を叩きつけた。


「えっ!?」


 何が起きたと眼を見開いた康一は槍の行方を追って視線を前に向けると槍を引いてもう次の一撃を放つ準備を終えていたクーガーの姿。

そして気づいた、今の攻撃は釣りだと。動きを止めるのではなく迎撃の一撃を誘い出すための一手だと。足を止めずに接近したい攻め気を狙われたと思う頃にはクーガーは次の一撃を繰り出していた。


「うっ、くうッ……!」


 クーガーの狙いはまたしても体の中心。避けづらい場所を狙われ、康一は剣の刃を寝かせて面で防御した。

それでも勢いは殺し切れず後方へと少し飛ばされてしまう。


 二人の立ち位置は開始前と同じ場所。

一瞬の攻防は終わりあっという間の仕切り直しになった。


 互いに得物を握り直し呼吸を整える二人を見ていた方からは息を飲む声が聞こえる。

驚愕はどちらの仲間からも、しかし度合いで言えば康一の仲間であるライアット達の方がいささか大きい。


「まさか最初の攻撃をあんなにも鮮やかなに凌ぐなんて」


「ルセアの奴が自信満々に言い切るモノだからやるとは考えたけど、ああも切り返すなんてね」


「先手は取った、目録道理いけばそのまま主導権を握れる流れだと思ったが。牽制は囮……いや違うか」


 近接戦闘を主としない二人は今のやり取りを見たままに受け止めたが、ライアットはクーガーの動きの更に細かい所まで見ていた。


「牽制の一撃、あれは康一が迎撃するまでは間違いなくあの突きで動きを止めるつもりだった。しかし康一が剣を振り下ろそうとした瞬間に槍を引いた」


 言葉にすれば簡潔だが、あの一瞬の間にそれを理解し手を変えるクーガーの手腕にライアットは改めて驚く。

単純にステータスから見える能力(強さ)とは別に技量により磨きあげられた戦闘力(強さ)

それは神の加護というスキルよりステータスが底上げされている康一とは真反対の強さ。

単純な数値以上の手強さをクーガーに感じながらライアット達は戦況を見つめた。


 距離が空いた事で康一の思考は落ち着いていく。


(まさかあんな風に返されるなんて)


 魔族や魔物相手に戦ってきた康一にとって対人戦は城内でライアット相手にやった訓練位しか経験が無い。

それでも人型の魔物や魔族との経験をも頼りに切りかかって行ったが呆気なく返されてしまった。

力ではなく技で、それは康一が未だ手に入れられていないモノであり、魔族や魔物相手では経験出来なかったモノでもある。


(今ので分かった、僕じゃどうしたって技術の応酬じゃ相手にならない)


 先手を取ったのに気付けば先制の一撃を食らったのは此方だ。あまりにも自然に行われた攻防で康一はまともに向かってもあの槍の間合いの内側に潜るのは無理だと悟った。


 ならどうする?決まっている。自分に出来る事は多くない、全力で真正面から押し通す。

そうと決まれば剣を構え足に力を入れる。釣られても、防がれても弾かれても届くまで前に。


「行きますッ!」


 二度目も真っ直ぐに駆け出す。直ぐ様槍の間合いに入りクーガーが突きを放つ。

狙いはここでも体の中心。このまま剣を振り下ろせば先の光景の再現に終わるだろう。

変化を求めるなら此処だと康一は剣の刃を寝かせて前に構える。

鋭い衝撃音が響くが康一は足を止めるだけで踏みとどまる。


(弾こうとしても駄目、避けるのも駄目。なら一回受けてそこから押し通すっ!)


 刃に角度を付けて槍を強引に上へと押し上げる。そしてそこから足に力を入れて潜り込むようにしてもう一歩を踏み出す。

槍が引かれるより先に内側に潜り込む、そしてがそれが出来るだけの速さが康一にはあった。


(次の手なんて悠長な事は考えない!この一手で決める!)


 流れるように剣を滑らせ、内へ内へと進んでいく。力を弛めず最後までと集中力をあげていく。


 ――入った。


 そう思ったのはライアット達。そして、入り込まれた側のルセア達も。

方やあそこまで肉薄すれば状況は決定的だと客観的事実と自身の経験から導き出し。

もう一方はクーガーがあの状態から決定的な一打を放つ事が出来ると目にした記憶と食らった経験から確信した。


 クーガーは押し上げられた槍を逆らうことなく任せていく。そして下がっている右足を前に出しながら槍の柄を握っている右手に力を込める。

対人戦や素早い魔物相手をするときに好んで使うクーガーの反撃。

間合いの内側へ入り込んだ相手の意識外から打ち込むカウンター。

槍の向きが急速に変わり、勝ちに向かう相手を打ち砕かんと柄が半円を描き康一へと迫る。


「っ!?」


 クーガーが仕掛けた瞬間、刹那の時間、康一は相対するクーガーの表情に僅かに力が入った事を気付いた。

何が来るかは分からない。だけど自分を仕留めんとする何かが来ると察した康一は襲いくる不安感に従い槍に沿わせていた剣を自分の眼前に横に構えた。


 果たしてその選択は正解で真下から圧を感じた瞬間、剣に衝撃が走った。

手に持つ剣は弾かれ後方へと飛ばされていく。


「痛ゥッ……!」


 顔面への直撃は防げたが痛みで痺れる右手に表情が歪む。

それでも視線を前に向けるとクーガーは顔に驚きの感謝を浮かべながらも既に槍を振り下ろす動作に移っている。

 それは追撃ではなく勝敗を決める為に突きつける一撃。手合わせであるからこそ迅速に決着をつけるとしたクーガーの行動。

 それを前にして康一が咄嗟に取った行動は動く左手を握りクーガーへと殴りかかった。


 手合わせでもあるのにここまでの執着を伴った行動を取ったのは高まった集中力に当てられたからか、勇者として負けられない矜持があったのかは分からない。しかしこの瞬間康一はこのまま終わることを良しとしなかった。


「まだ…、まだッ!!」


「気概は良い、――だが」


 その気迫を受けてクーガーも行動を変える。飛び込んでくる康一の右肩に槍を打ち降ろしその足を鈍らせると、太刀打ちの部分を首筋に押し付けるとそのまま力任せに振り抜いた。


 如何にレベルがステータスが高くても康一は一般的な同年代に比べ小柄な体躯。咄嗟の行動で不安定な状態で力の入りが甘い状態では耐えられることもなく宙を舞った。


 地面に落ちて二度三度転がって止まり何とか膝立ちの状態になった康一が視線を上げると目の前に槍の穂先が突き付けられる。


「諦めない姿勢は見事だが時と場合を見極めるべきだな。回復出来る奴は居るがこの手合わせでここまで無茶をするものでもないだろうに」


 突きつけたクーガーは緊張を解き力を抜いて話す。康一にもう終わりだと言外に告げる。康一もそれを理解したのか大きく息を吐くとその場に座り込んだ。


「参りました。僕の敗けです」


 そう言った康一の表情は悔しさが少しみえたがそれでもやれるだけやりきった顔を浮かべていた。

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