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98話

 時は少し遡り、場所はオネッサ村から出立したところ。

ソーマとコーラルは日が昇るのと同時にクーガー達を探しに森の中を歩いていた。


「雨は上がってくれたか。後はすんなり二人を見つけられたら良いんですけどねぇ」


 先を歩くソーマは頭に叩き込んだ地図を頼りに、昨日別れた場所までやって来て周囲に痕跡は無いか探していた。


「戦闘の形跡は見られますが、降り続いた雨のせいで余程大きな痕でもない限り発見するのは難しいですね」


 ここに来るまでも地面はぬかるみ、酷いところは泥のように足が捕られる場所もあった。


「早く合流しなければ…、二人とも無事でいてくれればいいのですが」


「ん?ああ、そうだな」


 言葉から焦りが出るコーラルに対してソーマの返答は思いの外軽い口調だった。

まさか心配ではないのかと疑うコーラルにソーマはそんなつもりはないと笑って首を振り。


「確かにこんな事になったのは初めてだし心配もある。けど一晩たって落ち着いて、そしていくら考えてもあの二人が万が一にもやられてるなんざ思いもつかなくてさ。まぁ多少の怪我はしてるかもだけど、それでもそれ以上はやっぱり想像出来ないよ」


 そう言われてコーラルは確かにと思った。コーラルはこのパーティーの中では新参者だが、それでも今まで行動を共にしてきてクーガーという人物の実力を目の当たりにしてきた。

個人の実力、パーティーの統率力、およそ戦闘に関する事であれば高レベルの冒険者と比べ何ら遜色はない。


「ま、それでも早く合流出来るに越したことはない。エイプだってまだいるんだしな」


 自分達二人ではあのエイプを相手どれるとは到底思わない。だからこそ最優先であるクーガー達との合流を果たすため、何かないかと辺りを探した。


「ん?」


「どうしました?」


 何か見つけたのかと近寄るコーラルにソーマは崖のへりから下を指差した。


「ほらあそこ。あの部分だけ何か滑り落ちたような跡がある」


 その跡はずっと続いており崖下まであるのが確認出来た。


「お二人ですかね?」


「どうだろうな。でも他に何も無いんだし追ってみる価値はあるんじゃないんですかね」


 顎に手を当て脳内で地図を広げる。崖下から続く道で何かあったかと探ると一つの場所にたどり着いた。


「ちょっと先に夜営用の洞穴があるな…」


「行ってみますか?」


「今はそこに賭けるしかないでしょう」


 そうと決まればと道具袋からロープを引っ張り出したソーマは手頃な木の幹に巻き付ける。次いでそのロープを伝って二人は崖下へと慎重に降りていった。


「方向は…こっちか」


 ソーマを先頭にして二人は歩き出す。距離は然程離れてはいないが近くもない。それゆえに道中沈黙の時間が流れた。


「しかしこんな事になって言うことじゃないが、別れた組み合わせがこれで良かったと思うよ」


 突然の会話にコーラルは歩みを止めずに何故と問い返した。


「クーガーと一緒にいるのがルセアで良かったって事。なんやかんやであの二人は互いに出すぎないように止め合えるからな」


 ルセアと言えば猪突猛進を地で行くタイプだ。戦闘でも好機であれば更に攻め立て、劣勢であっても覆す為に果敢に攻めるというスタイル。それに振り回されたギルドの冒険者も多い。それを諌める事が出来るのはベリスを筆頭としたベテランの冒険者位だった。

 そしてその役目をこなせる希有な一人がクーガーだ。最初こそ足並みが揃わない事があったが、今では端から見ても分かるほどに信頼を置いている。


 対してクーガーはメリハリがはっきりとしているタイプだ。仕掛けるときは苛烈に、引くときは迅速に。その線引きの見極めと判断の速さはギルドマスターのシグマも感心するほど。

だが時折ではあるが、戦況を好転させる為に一人で多数の敵を相手したり、その場で一番強い魔物と一対一を仕掛けたりと無茶を平気で行う。

 その行為の大半はクーガーだからと三人は納得するが、時折行き過ぎたと思う場合にすかさず異を唱えるのがルセアだ。クーガーの意図は理解出来る。しかし戦闘の勝利とクーガーの危険の秤があまりにも傾いたと判断した場合にルセアは断固としてクーガーの意見を止めるのだ。


「確かに…昨日の撤退の時も残ると言ったのはルセアさんだけでした」


「ああいうときは普段と同じような行動とってるのに凛々しく見えるんだよなぁ」


「普段から凛々しいじゃないですか」


「本当にそう思ってる?」


「―勿論」


 ほんの少しの間に笑うソーマ。コーラルは珍しくばつが悪そうな笑みを浮かべた。

その甲斐もあってか、余分な緊張が取れ体の力みが取れていく。


「迎えに行くんだ。心配はあっても辛気くさい面で行くよりいつもの感じでいけりゃあいいでしょ」


 先輩たるとも余裕であれ。まがりなりにもクーガー達と幾つもの戦闘を乗り越えソーマ自身も成長している。今はまだ頼りきりの面が多いが、それでも少しずつでもいいから自分でやれる事をと。意識は勿論、胆力も。ヘタレと呼ばれ陰で笑われていた姿はほぼ無くなり、少しずつ目標とする自分の姿へ。


「成る程それは確かに」


 コーラルは深く頷きいつもの優しい微笑みに戻る。その笑みは先に行くソーマには見えなかったが喜びの色を含んでいた。

コーラルは途中からパーティーに加わったが、それでもソーマの人となりを今まで見てきた。

いつもはクーガーの指示を正確にこなす印象が強かったが。今は二人しかいないが率先して行動をしている。

当初であればどうすればいいか悩みに悩んでいただろうが、今は合流する目的があるがその道を先導している。


 不慮の事態で分断された形になったが、どうやらソーマにとっては自立する一歩になりうるものだった。

エルフとして人より長く生きているコーラルにしてみれば短いと取れる時間で成長していく様は眩しいものだった。


(いけませんね。お二人の無事を願わなければいけないのに、ソーマさんの姿を見るとどうも、あの二人にももしかしたら切っ掛けとなりうる出来事が起きているのではないかと期待してしまいます…)


 老婆心ながら考えるコーラルは、今はその時じゃないと頭を軽く振って気持ちを切り替えた。


 その時乾いた破裂音が辺りに響いた。


「コーラル!回れ右!後ろを見てくれっ!」


 ソーマの指示に従い後ろを向くとその背にソーマが近づき背中合わせの体勢になる。

辺りを一瞥するが特に変わった様子はなく、すると視線は必然上に向けられた。


「どうやら二人とも無事なようだぜ」


 その言葉に振り向いたコーラルがソーマの指差す先を見ると、青空に広がる黄色の煙が。


「お呼びが掛かりましたね」


「あまり待たせるとうるさそうなのが一人いるからなぁ。さっさと行くとしましょうか」


 煙玉が上がった位置と自分達の現在地と目的の場所を照らし合わせて、どうやら目星を付けた洞穴に間違いないと確信したソーマ達は駆け足で向かった。


 これで一安心。そう思った二人の心情を掻き乱すように、今度は獣の叫声が響いた。


「っ!ソーマさん!」


「分かってるッ!くそったれ!そこは空気読んで全員揃ってから出てこいよッ!!―――とばすぞ、行けるか!?」


「勿論!」


 間髪入れずに返ってきた返事を合図に二人は体に魔力を流す。


「『フィジカルエンチャント』!」


 強化された肉体で森を駆ける二人。速度で言えばソーマが上なのだが、コーラルが付いてこれるギリギリの速さで走っている。


 先の獣の声は十中八九エイプで間違いないだろう。つまりクーガー達と会敵したということに他ならない。

距離はもう然程ない。しかしクーガーとルセアの状態を確認出来ていない二人は一刻も速くとがむしゃらに足を動かす。


「――!戦闘音っ、あと少し…!」


 合流まで直ぐそこだと確信したソーマは両手に短剣を構えた。


「会敵したら俺は一気に飛び込む、後詰めは頼んだ!」


 それにコーラルは杖に魔力を込め始めることで返事とした。


「折角少しは明るくいこうと考えていたのに台無しにしやがって…!今度はこっちが奇襲をかけてやるさッ!」


 力強い決意を瞳に宿してソーマは速度を上げた。

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