プロローグ
初投稿です。拙い文章のうえ不定期投稿ですが、良かったら読んでいってください。
「ここまでか……」
そう呟いて男は自分の体を見る。疲労困憊の体は全身が傷だらけだ。特に肩から胸にかけて一直線に入った切り傷、どうみたって致命傷だ。
「まぁいいさ。…仇はとれたんだ。それだけで充分だ」
目の前には、異形の姿をした魔物の死体がある。ーーたった一人の肉親である大切な兄の命を奪った仇敵、男が今まで戦い続けてきた、ただひとつの理由。
次第に薄れていく意識の中、遠くから自分を呼ぶ人の声が聞こえる。そして男の姿を見つけた兵士が近づき叫んでいる。
「おいっ!しっかりしろっ!!あんたはこの戦いを終わらせた英雄なんだっ!あんたのおかげで俺たちは勝利することが出来たんだ!だからっ!あんたはここで死んじゃいけないんだ!」
その言葉を聞いて男は思わず笑いをこぼす。自分のおかげで勝てたと言っているがそんなのは結果論だ。自分は兄の仇をとるためだけに戦ってきたにすぎない。見ず知らずの誰かのために戦える兄と違い、自分は復讐という己の目的のためにしか戦ってきていないからだと。
だからこそ英雄という言葉は自分には相応しくない。そう言おうと思ったが、口も満足に動かなかった。
しまらねぇな、と心のなかで苦笑して男は瞼を閉じた。
「んっ……ここは…?」
体に妙な浮遊感を感じながら男は目覚めた。
「気が付いたか」
周囲に何も存在しない空間で男を呼ぶ声がする。男は声のする方向に顔を向けると一人の老人がそこにいた。
「あんたは、誰だ…?」
「儂か?ふむ…すまんが儂にはお主らのように個別の名前はない。」
「名前がない?だったらあんたはいったいなんなんだ?」
「お主にもわかるように言えば神、とでも言えばいいかな?」
神と言われて男は一瞬、老人を怪しむが、この説明しようのない空間に悠々と存在している様を見て、あながち嘘ではないのだろうと納得する。
「神様ってのは本当にいるんだな。その神様がわざわざ何のようだ?まさか俺を天国にでもつれていってくれるのか?」
「すまんが、天国や地獄のような場所は存在せんよ。死んだ者は魂の存在になり、また次の新たな命となって生まれ変わる」
その言葉に男は驚いた。男が生きていた世界では、善行を重ねていた者は死んだ後は天国にいき、悪事を重ねた者は逆に地獄にいくと伝えられていたからだ。
「じゃあ、俺もこのまま生まれ変わるって訳か」
「本来ならの。じゃが少し事情があっての。お主に頼みたいことがある」
「頼みたいこと?」
「お主がいた世界とは別の世界が魔物達によって脅かされていての。その状況を打開しようと勇者召喚の儀式を行おうとしておる。しかし魔物の脅威は想像以上に強く、勇者一人じゃ少々荷が重い。そこでお主には勇者と共に行動をしてもらいたい」
その依頼に男は少し考え込む。神の言っていることは正しい、戦力は一人でも多いほうがいいのは当然のことだ。
だがーー
「……悪いがそれは出来ない。俺は復讐のために生きてきた男だ。そんな奴が勇者と一緒に世界を救うためになんか戦えないだろ? 」
男の返答は拒否だった。復讐のためにしか戦ってこなかった自分には世界を救う戦いなどあまりにも似合わない。そもそも世界の命運なんて荷が重すぎると。
「……どうしても無理かのう?」
「……あんた神様ってほどだから、普通じゃ出来ないこともできるんだろ?その勇者に俺のステータスやスキルとか与えられないか?
どうせこのまま生まれ変わるんだ、ならスキルとか持っていてももったいないだけだろ?」
そう言いながら男は内心で呆れる。偉そうに言っていても内心は、これから一人で召喚されるであろう勇者に対する罪悪感で出た言葉にすぎないからだ。
「…わかった。しかし条件がある。お主もその世界に行ってももらう」
「何故だ?俺は戦わないと言ったろ?」
「別に戦いを強要せんよ。魔物の脅威はあっても人々の営みがないわけでは勿論ない。畑を耕すもよし商売をやったっていい、お主は復讐のためにしか生きてこなかったと言ったな、それではあまりにも勿体ない。他の生き方も探してみるのもいいじゃろう。それにこれから行く世界はお主のいた世界とそう違いはないはずじゃ」
「憐れみのつもりか?」
神の諭すような言い方に男は不機嫌になる。
「儂がお主に対してそうしたいという、ただのおせっかいじゃよ」
「それでも他の生き方ができないというのなら儂を呼べ。その時は儂が責任をもってお前を次の命へと生まれ変えす」
「………わかった、それでいい」
男は少し悩んだが、提案を受け入れた。おせっかいだと言っていた時の神の表情を視ていたが、そこには同情や哀れみという感情は感じなかったからだ。
「それではこれからお主を異世界へ転生させる。本来のやり方と異なるからたどり着く場所を完全に指定出来ないが、なるべく人のいる町や村の近くに着くよう調整しておく」
そう言いながら神が手をかざすと男の意識は急速に薄れていった。
こうして男の2度目の人生が始まった。