Secret episode2 スリーピングプリンス
DarkNightの番外編。
※この作品には本編にまだ登場していないキャラが出てきます。
微ネタバレ注意。
出来るだけネタバレ避けたつもりですが出てないキャラが居ますので苦手な方はバックお願いします。
敵側サイドのお話。
ハニードクターの続きになります。
ハニードクターを読んでいなくてもお楽しみ頂けますが読んだ方がより楽しめるとは思います。
それから次の話の前日譚になります。
「ふぁぁ……」
大きく欠伸をする。
時計を見る。
今の時刻は、午後の一時半を回ったところだ。
その部屋の主はポツリと呟いた。
「やべぇ……寝過ぎた」
♛︎
「ちょっと!ウルちゃんおっそーい!!遅すぎて危うくバターになりかけたわ!」
「やかましい」
頭を掻き、さも面倒くさそうな様子のウルフに憤慨する彼女。
ルルス・ノーヴィンである。
彼女はウルフの同部隊にあたる隊員だ。
桃色よりの髪に軽いウェーブのかかった髪。
そして、
「牛女の癖にやかましいんだよ……寝起きに響くだろうが」
「な!誰が牛女よ〜!ま、私の胸がふくよかなのは仕方ないとしてもね!!」
「あっそ」
適当にあしらい部屋をノックする。
「つれないわねぇ……うちの眠り王子は」
「その呼び方いい加減やめろ」
眠り王子、というのはルルスがウルフにつけたあだ名である。
その話は長くなるので今回は省略である。
「別機動部隊ACE。入るぞ」
ドアノブに手をかけ捻った。
♛︎
「なんで……。今……なんて言ったんだ?」
「だから、出て行ってやるって言ったんだよ…!もうウンザリだ!テメェも……周りでせせら笑ってる連中も!もう……たくさんなんだよ!!」
「おい、待て!!『──』!!」
雨で掻き消されて後は聞けなかった。
雨が降っている。
ウンザリするほどの雨……。
そんな日にまだ少年だったオレは家を飛び出した。
走って……走って……。
どこに行くでもなく、何かから逃げるように走って……それで。
どこへとなりと消えてしまいたかった。
どうせどこにもどの家にも必要とされてないのだから。
♛︎
「ウルフ」
ハッとして前を見る。
あの時、あの後に出会った顔と同じ顔がそこにある。
「今の話、聞いてなかったのですか?」
そう、オレはこの野郎……アウェー・リラ・ヴェイツに拾われた。
焦げ茶の長い髪を持ち、瞳は全てを見透かすような漆黒の瞳。左目は前髪に覆われている。
オレはコイツが苦手だ。
正確に言えば、手を貸す代わりに手を差し出された。
「全くもう〜。ウルちゃんってば隊長担当みたいなものなんだから、ちゃんと聞いててよね?」
「いや、別機動部隊は隊長いねぇんだから。オマエもちゃんと聞けよ」
「あら、手厳しい」
そう言うつつ、ルルスは涼しい顔だ。
「はぁ……。ちゃんと聞いて下さいね?」
アウェーはため息をつき口を開く。
「アナタ方には、〝狂乱舞の騎士〟を探し出して貰いたいのです」
「なんだそりゃ。きょうらん?きし??」
ウルフが怪訝そうに顔をしかめ、ルルスはキョトンとしていた。
「えぇ、なんでもここ最近西の方で騒がれてる……言わば、正体不明の危険人物。と言った所でしょうか」
アウェーは話を続ける。
「外見容姿は不明。性別もわかりません。戦闘能力は極めて高く仕掛けて来た者を全て返り討ちにしているそうです」
「……外見容姿不明じゃ探しようがないじゃねぇか。おい、老いぼれ。
いい加減なこと言ってるとはっ倒すぞ」
「確かに見た目もわからないじゃ探しようがないわよねー」
「つーか、戦闘にあってるんだったら容姿不明なわけねぇーだろ。どうなってんだよ」
「……やられた者は意識不明、うわ言しか言ってないようです」
「うわ言ってどんな?」
「化け物だの、恐いだの…そんなことばかりみたいですね。」
アウェーはチェスの駒をテーブルの上で弄る。
「ただ、遠目で見た者がいるようです。
はっきりとではないようですが……」
「『それは舞うように美しく、狂気のように素早く激しい刺突剣の持ち主だった』とーー。
ついたあだ名が〝狂乱舞の騎士〟
という訳です」
たんっ、とテーブルの上に白のナイトの駒が置かれた。
♛︎
「狂乱舞の騎士……ねぇ」
アウェーの部屋を後にし、ルルスが呟いた。
「アウェーちゃんにも困ったものよねー。もっと明確に教えてくれないと探す手間もー……」
と、ウルフの方を見て話すのをやめた。
「ウルちゃん、楽しそうね」
笑いがこみ上げて来そうなのを必死で堪えたつもりだったが少しニヤけていたかもしれない。
「楽しそうってなんだよ。
……まぁ、その狂ってんだが知らねぇけどさ。
オレとしてはやっぱり、ソイツと一戦交わりてぇな」
ウルフは口角を上げ、残忍な笑みを浮かべた。
♛︎
「アナタは……」
「─────」
雨で掻き消されて聞こえないかもしれないが、名を告げる。
目の前の傘を差す人物はやはり、というかのように自分を見た。
「アナタに、力を貸しましょう。
未来に復讐出来る力を」
その人物は全てを見透かし、飲み込むような瞳で見つめながら、こう告げる。
「……この世界に、復讐をしませんか?」
♛︎
目覚ましが鳴り響く音で勢いよく飛び起きた。
「チッ……嫌な夢だな」
ベッドの傍に置いてある大剣に目をやり一瞥すると、それを手に取る。
この部屋にはベッドと必要最低限のモノしか置かれていない。
必要がないからだ。
ベッドだけはこだわりがあるのでアウェーに言って寝心地の良い少々値の張る物を使用している。
「ここにも、いつ帰れるかわかんねぇな……」
そうぼやき名残惜しそうに部屋を後にする。
この部屋はしばらくこの部屋の主を待つことになりそうだ。
END
ずっと書きたかった話なので書けて満足です。
少し短めなのは訳ありですが、彼らのお話はもう少し続きます。