王国との決戦22
隼人は、森林の戦場に入ってから、まず敵の位置を確認した。
憲兵は森林戦でも白銀の鎧を装着していたので、確認を取ることは簡単だった。しかし、ロスコーが報告したように、数が多い。
憲兵は1人が、レベル99以上であることを考えると、苦戦を強いられて当然の展開だった。たとえ、白銀鎧で敵を見分けやすかったとしても、だ。
隼人は、飛翔魔法で高くへと飛んだ。その高みから憲兵長を探す。指揮官には、後方型と前線型の2タイプいるものだ。
ニグアは、前線にいるほうのタイプと考えられる。やがて、いまロスコーと斬りあっているのが、ニグアだとわかった。
ロスコーもステータス値の高い男ではあるが、相手が憲兵長では厳しいところだろう。逆に、よくまだ持ちこたえているものだった。
隼人は、高みから雷の攻撃魔法で、ロスコーを援護しようとした。だが、その前に火炎の攻撃魔法で、邪魔された。見ると、火炎魔法を放ってきているのは、アルドだった。
隼人は、思念伝達でライラに言った。
「アルドの相手をしておいてくれ。先に、ニグアを消しておきたい」
ライラが返した。
「それは、厄介な敵を後回しにしておこうということなの? アルドを先に片付けないと、どうにもならないわよ」
ライラの言うことは正しいが、ここでニグアを排除すれば、指揮官を失った憲兵団は総崩れになるはずだ。
そのとき、東の空の彼方から、紫電をまとった矢が飛んできた。矢は、まっすぐアルドへと飛んでいく。アルドは防御魔法でガードしたが、矢は消えることはなかった。
あの矢は、ルカが放ったものか。
アルドがルカの矢を消したところに、ライラが斬りかかった。
隼人は、この隙に、ニグアに攻撃を仕掛けることにした。このとき、ニグアはロスコーに止めをさそうとしていた。
そのためか、少しばかり隙ができていた。
その隙が命取りとなった。
隼人の雷の魔法が、ニグアを射抜いたのだ。
それでもニグアのHPはゼロにはならなかった。が、ここで体勢を立て直したロスコーが、一撃を放つ。
これによって、ニグアは絶命した。
思念伝達でルカの声がした。
「少し遅れたけど、手を貸すよ」
遅れたというのはわざとだろうし、手を貸すといいながらも、戦場には現れないつもりのようだ。
隼人は、指示を出した。
「それなら、アルドの動きを止めてくれ」
「それはボクの仕事ではないね」
どうやら、ルカは最小の助力しかしないつもりのようだ。
隼人は飛翔魔法を切って、地上へと降りた。ニグアの死によって、憲兵団は多少は乱れだした。だが、隼人の望むほどではなかった。
やはり、憲兵クラスだと指揮官を失った程度では、崩れたりはしないようだ。
隼人は、思念伝達でルカに言った。
「わかった。なら、憲兵たち全員に遠隔から攻撃魔法を放ってくれ。おれの合図で」
「それくらいなら、かまわないよ」
つづいて隼人は、ほかのヤミ金ギルド員たちに、思念伝達した。これほど大勢に思念を伝えるのははじめてのことなので、一苦労だったが。
「よく聞け。おれの合図で、近くにいる憲兵に最大の攻撃を加えろ。遠くから援護があるから、憲兵たちをうまく仕留められるはずだ」
隼人は、アルドとライラの戦っているところまで急いだ。さすがのライラも苦戦を強いられているようだった。
隼人は、不可視の魔法でアルドの背後から接近した。が、アルドは、隼人に気づき、振り向きざまに攻撃を仕掛けてきた。
隼人は、思念伝達でライラに言った。
「渾身の一撃を食らわせてやれ」
ライラは応えた。
「よくわからないけど、了解」
隼人は、ライラを空間転移させて、アルドの懐へと一気に移動させた。
急に至近距離に現れたライラに、アルドは対処できなかった。
ライラが魔力をためたバスタード・ソードを一閃させる。それがアルドに致命傷を与える。
隼人は、ルカと、全ヤミ金ギルド員へと、同時に命じた。
「いまだ、やれ!」
ルカが、憲兵たちに攻撃魔法を仕掛ける。憲兵たちがその攻撃によって、ダメージを受けるか、防御に回った。このとき、ヤミ金ギルド員たちが攻撃を仕掛けた。
同時攻撃によって、憲兵たちが倒れていく。
隼人は、それを監視魔法で確認しつつも、アルドへと意識を向けた。ライラの一撃を食らいながらも、アルドにはまだ息があった。
アルドは、隼人を見て言った。
「貴様……どうするつもりだ……」
隼人はアルドの胸部を、魔法弾で撃ちぬいた。
「新しい王を即位させるだけだ」