王国との決戦20
大王宮へは何度も行っている。そのため、隼人は大王宮までは空間転移して行くことができた。それに大王宮のある浮遊島は、いまはすっかり〈ギルド宮〉から離れているので、馬などで向かっては、何日もかかることになる。
先ほどは姿を見せたルカだが、すでに消えていた。ルカなら自力で大王宮に行くことができるだろう。向こうで合流するつもりのようだ。
隼人は、ライラたちを1人ずつ、大王宮に空間転移で送った。送り先は、大森林にしたので、よほど運が悪くなければ、憲兵に出くわすことはないだろう。
最後に、隼人自身も空間転移して、大王宮に入った。
ライラたちは、木の陰などに身を潜ませていた。隼人は、探索魔法で周囲に敵兵がいないことを確認した。それから、指示を出した。
「これから、アゾナンという地点に向かう」
近くの繁みに潜んでいたセーラが、言った。
「アゾナンですか? 聞いたことのない地名です」
セーラは、ライラのそばに隠れていた。ライラはセーラの身を守る役を、自ら買って出た。だが、ライラは最前線で戦うのが好きな性格なので、隼人は心配だった。
隼人は答えた。
「一般的には、知られてないところらしい」
セーラのそばにいたライラが言った。
「セーラは王族なのに?」
王族でも上位の者しか、知らされていないということだろう。ただ、戴冠式を明日に控えていることから考えると、いまごろは下位の王族にも知らされているかもしれない。
隼人は、このまえ読み取ったゴルの記憶を地図がわりにして、アゾナンへ向かった。敵兵と遭遇しないよう、探索魔法の触手を周囲へと張りながら。
やがて、アゾナンに到着した。が、そこは変哲のない丘のてっぺんだった。ここからだと、大王宮の城塞も遠く、ほとんど視認できない。大王宮の端っこのほうか。
ライラは丘のてっぺんに不用意に立った。ただし、周囲数キロに敵はいないようなので、隼人はなにも言わなかったが。
ライラは疑わしそうな表情で言った。
「隼人、道を間違えたとか?」
ライラも昔は、ほかのギルド員がいるところだと、敬語を使っていたはずなのだが。
隼人は答えた。
「間違いじゃない。この丘がアゾナンだ」
「なにもないけど?」
「アゾナンから、戴冠式の行われる別次元に行くわけだから。べつに、ここになにもなくてもおかしくない。そっちのほうが、敵が来たときの目晦ましにもなるだろ。ただ──」
隼人は、別次元の入り口らしきものを探したが、とくに見つからなかった。
「ルカの奴、どこにいるんだ。これだと、戴冠式に先回りできない」
「どうするの?」
「いまの大王宮の最高位の魔術師は、アルドとかいう者だ。アルドは、戴冠式の前に、別次元への入口を開けに来るだろうから──」
隼人は、ライラとセーラ以外のギルド員に、大森林のほうで待機するよう命じた。
それから、残ったライラとセーラに言った。
「おれたちはここで潜んでいて、アルドが来るのを待ち伏せしよう」