神の宝物庫
何百とある警備ギルド、そのうちの一つが解体された。
そして、ヤミ金ギルドへと吸収される。
隼人は、元警備ギルド員たちを見回した。全部で15人いる。
隼人は言った。
「おれの名前は、ハヤトだ。お前たちはいまこのときから、このおれに従ってもらう。気にいらない者は出て行け。一度、おれのヤミ金ギルドに入った者に、離反は許されない。わかったな? では、去る者は去れ」
誰も出て行かなかった。
さらに、元警備ギルド員から、とくに敵意なども感じられない。隼人が殺したギルド・マスターは、人望のあついマスターというわけではなかったようだ。
「さてと、金庫探しに戻るか」
隼人は、貿易ギルド・マスターの死体を見た。
「うちの副官が殺してしまったせいで、金庫の在処を聞けなくなったが」
「申しわけございません、マスター」
ライラは敬語を使用した。サブ・マスターがギルド・マスターへと砕けた調子で話していたら、全体の規律が緩みかねないからだろう。
「よろしいでしょうか?」
元・警備ギルド員、すなわち新たなるヤミ金ギルド員の1人が挙手した。
隼人は聞いた。
「お前、名前は?」
「トムズです」
トムズは赤毛の20代前半の男だった。隼人よりは年上だろう。年上から敬語で話しかけられるのは、初めてのことだ。
隼人は、一考した。自分はギルド・マスターなのだから、それは当然のことだ。堂々としていないと、新たにできた部下に舐められてしまう。
べつに連中が反旗を翻してきても、怖くはない。だが、せっかくできた『従業員』だ。捨てるのは惜しい。
「トムズ。君は、警備ギルドのサブ・マスターだったのか?」
このタイミングで、隼人に話しかけてきた。ということは、トムズが元警備ギルド員たちの代表である可能性が高い。そう考えての問いかけだった。
トムズはうなずいた。
「おっしゃる通りです」
トムズは信用が置けるのではないか。隼人の直感がそう告げた。
トムズは、強者に従えるのを好むタイプに思える。警備ギルド・マスターを瞬殺した隼人は、従える相手として申し分ないだろう。
「このタイミングで話しかけてきたということは、金庫の在処を知っているのか? まさか、賃金の交渉とかではないんだろ?」
「金庫室の在処の件です。貿易ギルド・マスターのフコは、金庫室の在処を私に教えていました」
金庫、ではなく金庫室なのか。
隼人は聞いた。
「どこにあるんだ?」
「フコは、〈鍵〉を持っていました。その〈鍵〉を使わねば、金庫室は出現しない仕組みです。くだんの〈鍵〉は、フコが偶然に見つけたものです。神具と思われます」
「そうか、神具か。副官、ちょっといいか」
隼人はライラを連れて歩き、トムズから離れた。トムズに声が聞こえないところで、ライラに尋ねる。
「神具とはなんだ?」
「神が創った道具のことね。ありえない魔法量がこめられているわ。普通、中位ギルド・マスターが持っているようなものではないわよ」
神の道具か。
それで隼人の魔法では、隠されている金庫室を見つけられなかったのか。さすがのチート能力も、神には歯が立たないようだ。
ライラがフコの死体を探り、〈鍵〉を回収した。重厚な形をした〈鍵〉だ。
「どうぞ、マスター」
「ああ」
隼人はライラから〈鍵〉を渡された。続いて、隼人は〈鍵〉をかざしてみる。
すると、突如として黄金に輝く扉が現われた。この『黄金扉』の鍵口に、隼人は〈鍵〉を差し込む。ぴたりとあって、『黄金扉』が開錠された。
「ライラ、トムズ、ついて来い」
トムズも連れて行くのは、彼をナンバー3にすることに決めたためだ。トムズには、元警備ギルド員を束ねてもらうとしよう。
『黄金扉』の向こう側は、無限に広がる空間だった。少なくとも、入った地点からでは、どこを向いても果てがない。頭上を見上げて、目を凝らす。すると100メートルほど上に白い天井があった。
「凄まじい規模の金庫室だな。金庫室以外にも使い道がありそうだ」
ライラが言った。
「〈神の宝物庫〉と名づけましょう」
隼人はうなずいて、ライラの案に賛成した。中二病なネーミングが、この空気感にピッタリと思えたのだ。
見ると、隼人の足元に、申しわけ程度に貿易ギルドの財が置かれていた。
一山の硬貨だ。これを持ち帰っても良い、が。
「計画変更だ。この〈神の宝物庫〉を盗むとしよう。貿易ギルドの財は、この〈神の宝物庫〉のオマケだ」
隼人は、ライラとトムズを連れて〈神の宝物庫〉を出た。
隼人は、宝具の〈鍵〉をポケットにしまった。すると『黄金扉』も消滅した。
「おれが〈鍵〉を所持し続けているかぎり、この〈神の宝物庫〉は誰にも破れないな」
隼人は、ライラに向って言った。
「軍資金を強奪するため、貿易ギルドを襲った。その目的は達成された。しかも、さらに2つも大きな収穫があった。15人の部下ができた。そして神の宝具も手に入れた。おれの『運』はなかなかのものだろ?」
ライラはうなずいた。
「幸先がいいわね」