王国との決戦15
〈ガルダ〉に侵入してきたロクシア軍は、着実に階を上って来た。隼人は、ロクシア軍が侵入してからずっと、動きを魔法で追っていたので、詳しくわかった。
隼人とライラが現在いるのは、〈ガルダ〉の中間地点。階数でいえば、だいたい9階くらい。
隼人はライラに尋ねた。
「さて、どうするか? このままだと、ロクシア軍と遭遇するだろうな」
ライラは肩をすくめた。
「どうするもなにも、あたしたちには関係ないことよ。国の守りは憲兵か、王国と契約しているギルドの仕事。あたしたちヤミ金ギルドには、どうでもいいことだわ」
「そこは同感なんだが。お前、いまの自分の役とか覚えているのか?」
「役?」
「おれたち、お互いはいつも通りに見えているからな。つい忘れていたとしても、まあ、無理はないが。お前は憲兵ボウル、おれは憲兵ゲルスだ」
「そうだったわね。すると、なにかしら。やっぱりロクシア軍と遭遇したら、戦わないと変に思われるかしらね。というより、こっちに戦意がなくても、ロクシア軍から積極的に攻撃されそうだわ。憲兵だしね」
「その場合、より役を意識しなくちゃならないわけだ。なんたって、おれたちは憲兵だからな。一般的なギルド民に比べれば、憲兵はレベルが高い。しかし、おれやお前の普段通りの力量を出してしまうと、憲兵の範疇を超えてしまう。少なくとも、並みの憲兵は」
ライラは顔をしかめた。
「つまり、手加減して戦闘しろ、というわけ?」
「そうだ。魔術師ゴルを見つけるまではな」
「で、そのゴルはどこにいるのよ」
隼人は一考した。考えをまとめてみる。
「探索魔法をかき消す魔法を使っているということは、だ。裏を返せば、この近くにいる。まず、〈ガルダ〉内のどこかで隠れているんだろう。そして、その理由もようやくわかった」
「理由? どんな?」
隼人は自分とライラを示した。
「おれたちだ」
ライラは意外な答えを聞いた、という様子だ。
「え?」
「ゴルは、並みの魔術師ではなかったんだな。かなり早いタイミングで、おれとお前が〈ガルダ〉を目指してきていることに気づいた。異常にステータス値の高いギルド民が2人だ。ゴルでなくとも、目的はなんだろう、と思うだろう。それで、こちらの目的がハッキリするまで、隠れることにした」
ライラは軽蔑した様子で言った。
「ロクシア軍が攻め込んできたのに?」
「まあ、そうだな。〈ガルダ〉の防衛より、自分の身の安全を優先したんだろう。ところで、5人ほどロクシア兵士がこっちに来るな。いまはまわりに憲兵の目もないし、手加減する必要もないだろ」
ライラは獰猛な笑みを浮かべた。
「了解」
階段を、5人のロクシア兵士が駆けあがってくる。白銀の鎧は、はじめて見るものだ。他国の鎧なのだから、当然だが。
ライラは、バスタード・ソードを引き抜くと、魔法呪文を詠唱した。ライラの剣の刃が青く輝く。ライラが剣を一閃させると、ロクシア兵たちは反撃することもできず、真っ二つとなった。
ライラは聞いてきた。
「で、状況はどれくらい面倒なの?」
隼人は答えた。
「探索魔法を使ってしまったからな。ゴルは、こちらの目的が、自分だということに気づいただろう。普通に探しても、見つけられない。なにか、手を考える必要があるな」