王国との決戦12
隼人とライラは憲兵に化けて、大城塞〈ガルダ〉へと向かった。
大城塞の出入口は、4人の憲兵によって守護されていた。この憲兵たちは、隼人とライラが変装した2人と顔馴染みらしく、親しげに声をかけてきた。
憲兵の一人が言った。
「おい、ボウル、もう戻って来たのか」
隼人とライラは下馬して、手綱を持って歩いた。馬は2頭とも、いまだ隙あらば隼人とライラから逃げようとしていた。これは隼人とライラが主人とは違う人間だから、というより、違う人間が主人の恰好をしているからだろう。
隼人は、ライラの脇腹を小突いて囁く。
「ボウル、おい、ボウル」
ライラは、隼人を見て顔をしかめた。
「ボウルは、隼人でしょ」
「ボウルは、お前だ。さっき説明しただろ」
ライラは面倒くさそうに、憲兵たちへと手を振った。
この4人の憲兵たちは、大城塞の出入口の上層にある見張り台にいた。そこまでは、地上から10メートルの高さがある。
憲兵の一人が言った。
「ボウル、お前はカミさんの出産が近いから、と立ち合いに行ったんじゃなかったのか」
ライラは、隼人に小声で言った。
「そんな理由で、このボウルという憲兵は城砦を離れたの」
隼人は返した。
「重要な理由だと思うがな。しかし、カミさんの出産に立ち会いに行ったところ、襲撃してしまったのか。少し、心が痛むな。まぁ、命までは取らなくてよかった」
「まってよ、あたしの演じているボウルが、大城塞〈ガルダ〉を離れた理由はわかったけど、隼人のゲロスは、どうして〈ガルダ〉から出て来たのよ」
「ゲロスじゃない、ゲルスだ。名前を間違えるな。おれはたぶん、付き添いかなにかだろ。それより、憲兵たちがお前の返事を待っているぞ」
隼人とライラは、出入口の前で立ち往生していた。憲兵たちとの会話を早々に打ち切って、大城塞内に入りたいところだ。だが、不用意な発言をして怪しまれても困る。
ライラは、見張り台を見上げて、困った顔をした。
「ここからだと、あたしの刃が届かないわ」
「あの憲兵たちを殺す気か? せめて、そういうのは脱出のときにしてくれ。行きで死体を出していたら、まともな侵入なんかできないだろ」
「面倒くさいわね」
ライラは隼人にそう言ってから、見張り台にいる憲兵たちに答えた。
「やり残した仕事を思い出してな。それを済ませたら、すぐに妻のもとに駆けつけるつもりだ」
これで憲兵たちは納得したらしい。隼人とライラは、速足で大城砦の中に入った。内部は暗く、壁には遠い間隔で松明が架けられていた。この松明の明かりだけが、前方を照らし出す。
ライラがふいに言った。
「さっきの憲兵たちに、魔術師ゴルの居所を尋ねればよかったわね」
「たしかに。さっきは大城塞〈ガルダ〉の中に入ることしか、考えてなかったからな」
隼人とライラは、通路を進んだ。やがて階段が見えて来た。そこを上っていると、上階のほうから騒ぎが聞こえて来た。やがて、一人の憲兵が慌てた様子で降りて来る。
隼人は、その憲兵を止めた。
「なあ、魔術師ゴルの居所を知っているか?」
だが憲兵は質問には答えず、べつのことを言った。
「それどころじゃない! 敵襲だ! ロクシア軍が攻め込んできた!」
それだけ言うと、憲兵は降りて行った。
隼人はライラに尋ねた。
「ロクシアというと?」
「隣国ね。この大城塞が建てられたのも、ロクシア王国への牽制のため」
「悪いタイミングに来てしまったようだな」