王国との決戦11
大城塞〈ガルダ〉付近は大平原で、隠れられるようなところはなかった。そこで隼人とライラは、不可視魔法を使って姿を消し(馬も一緒に)、〈ガルダ〉から憲兵が出て来るのを待った。
30分ほどそうしていると、2人組が馬に乗って、〈ガルダ〉から走り出てきた。いきなり乗馬して現れたということは、〈ガルダ〉内に馬小屋があるらしい。
不可視状態だが、隼人とライラは互いを視認できる。
隼人は、そばにいるライラに言った。
「あの2人を捕まえて、変身魔法でなり替わるとしよう。馬も奴らのを奪ったほうがいいな。馬の違いで、偽物と気取られるかもしれない」
ライラは、不可視状態の自身の馬を見やった。
「あたしの馬はどうするの? こんなところに放置しておけないわよ」
「今朝出発した宿に、馬の世話を頼んでおいた。それに馬小屋には空間転移するためのポイント付けもした。だから、おれたちの馬は、不可視を解いてから、馬小屋に跳ばしておくとしよう」
隼人が馬2頭を空間転移させたところで、ライラがほほ笑んだ。
「宿の人たちは驚くでしょうね。ところで馬小屋にポイント付けしたということは、いざとなったら、あたしたちも〈ガルダ〉から、その馬小屋まで空間転移で脱出できるわけね」
「まぁ、そうだが、緊急で脱出するようなことにはなりたくないな」
そうこうしていると、〈ガルダ〉から出て来た2人組が、すぐそこまで迫ってきていた。まず、隼人は気づかれることなく、2人組の記憶を魔法で探った。これで、2人組の名前や、役職を入手する。
のち、手早く魔法で仕留めてから、まずは2人組の姿形を魔法でスキャンし、それから隼人自身とライラに投影する。
ライラが不愉快そうに言った。
「ねぇ、あたしが変身する相手が、男なのだけど」
その点については、ライラから不平があるだろう、と隼人は思っていた。
「変身といっても、べつにお前の肉体が変わるわけではなくて、外からはそう見える、というだけのことだ。声なども、な。だから、文句を言うな」
ライラは肩をすくめた。
「ところで、この2人の名前は?」
「お前は、ボウル。おれはゲルス。2人とも、役職では下っ端のようだ。が、〈ガルダ〉にいる時期は長いので、怪しまれることはないだろ」
ライラは首を傾げた。
「あら。まだ変身作業が終わってないみたいよ。隼人の姿は隼人のままだわ」
「お互いの姿だけは、通常どおりに見えるようにした。第三者がいるところでは、その口調は変えろよ」
「ボウルは、オカマに目覚めた──という設定でもいいけれど」
「お前な……」
隼人とライラは、それぞれ新しい馬に乗って、〈ガルダ〉を目指した。