王国との決戦10
〈ギルド宮〉は王国の中心にあるため、隼人は王国全域を移動したことはなかった。王国から西側には大平原があり、その先には隣国があるという。
この隣国とは冷戦のような状態のため、王国の西側には壁が築かれ、守りも固められているという。〈大王宮〉を追放されたとはいえ、ゴルは高位の魔術師なため、この西の守りへと回されたようだ。
隼人は、セーラから得たこの情報を、ライラにも話した。
「至急、西へ行く必要があるようだ」
「けれど、西の『壁』はとても範囲が広いわよ。ゴルはどこにいるのかしら」
「守りの拠点のようなものがあるだろ。指揮するところが。そこに行ってみれば、情報を得られるのではないか?」
西壁は、長さにして140キロあるという。そのなかで、拠点となるのは3か所ある。〈ギルド宮〉の位置からして、いちばん近い拠点は、〈ガルダ〉と呼称される城砦だ。
「〈ガルダ〉は、『壁』と一体化して建造された城砦なのよ。ただし、〈ガルダ〉には憲兵しか入れないわよ。ギルド民という身分を隠す必要があるわね。不可視の魔法を使うという手もあるけど」
「それなんだが、魔法リストを調べていて、変身魔法を見つけた。〈ガルダ〉という城砦に出入りしている憲兵を捕まえて、そいつと入れ替わるという手がある。〈ガルダ〉内を探索するなら、こっちのほうが無難ではないか」
不可視では、城砦内にいる憲兵などに、ゴルのことを尋ねることができない。もちろん記憶を読むという方法はあるが、この『記憶を読む』魔法には時間がかかるため、効率的とはいえないのだ。
ライラは一考してから、言った。
「とにかく、〈ガルダ〉の近くまで行ってみるのが先決ね」
隼人とライラは、その日のうちに出発した。だが、今回は〈大王宮〉に行ったときのように日帰りとはいかなかった。
1日中、馬を走らせても〈ガルダ〉までの行程の半分だった。日が落ちたところで、はじめに目についた宿で一泊することにした。
宿の一階で、具の少ないシチューを食しながら、隼人は言った。
「こっちに転移してきてから、旅をしたのはこれが初めてだ」
ライラはミルクを飲んでから、応えた。
「そうだったわね。これまでは、〈ギルド宮〉か、その周辺だけで済んだから。〈大王宮〉のことも含めて」
「たしかに〈大王宮〉はまだ〈ギルド宮〉の近くにあるから、〈ギルド宮〉から向かうのにもさほど苦労はしないな」
翌朝、日の出とともに出発した。昼頃になると、遠くに西の『壁』が見えてきた。視界に入ったときには、すでに『壁』はどこまでも伸びていた。高さは50メートルほどある。
隼人は、自分の馬をライラの隣まで走らせて、『壁』を指さした。
「あれを完成させるには、何千人もの労働力を必要しただろうな」
ライラは応えた。
「魔術師が魔法を活用したから、それほど大変ではなかったそうよ」
「そうか、魔法か。魔法で建築するという発想がなかったので、考えつかなかったな」
このころになると、民家はまばらになってくる。ライラいわく、元ギルド民の盗賊などが出現するかもしれないので、気をつけたほうが良い、とのことだった。
隼人は自分の身や、ライラのことは心配しなかった。盗賊ごときに、負傷させられることはないからだ。だが馬がケガでもするのは、困りものだ。比喩魔法は動物に効きが弱いかもしれない。
ここで馬が負傷すると、帰りが大変になる。もちろん馬に愛着も覚えていた。
そこで隼人は、探索魔法を使って、盗賊の有無を確認していくことにした。
そうこうしていると、城砦〈ガルダ〉が見えてきてきた。