王国との決戦2
ニグアとともに王国へ向かいながら、隼人はライラに思念伝達した。
『王国と戦争するとして、なにをもって勝利とするのだろうな』
同行するさい武器の所持を禁じられたライラは、バスタード・ソードを拠点に置いてきていた。
『スイア王を殺すとか?』
『次の王が即位するだけだ。そして、前王を殺した罪で、ヤミ金ギルドはより一層、王国からの攻撃を受ける。かといって、王族を殲滅するわけにもいかないだろ』
これがギルドとの闘いならぱ、敵ギルドのギルド・マスターを仕留めれば済む話だが。
『だとしたら、王国に敗けを認めさせるしかないわね』
『どうやって?』
『考えてみるわ』
〈ギルド宮〉の前には、王国の旗を掲げた馬車が待っていた。隼人とライラはこれに乗った。
隼人とライラは武装こそしてはいないが、隼人は魔法攻撃が主としているし、ライラも破壊魔法のいくつかを使える。ここでニグアたちに不意打ちする手もあるが、プラスにはならないだろう。
やがて、〈大王宮〉の真下まできた。
そこには大がかりな魔法陣があって、そのうえに馬車がのると、〈大王宮〉の草地まで転移した。
隼人は言った。
「よくできた魔法だ」
ニグアがうなずく。
「王国付魔術師の仕事だ」
「ルカの後釜か?」
「そうだ」
ルカの後釜が、どれほどの敵かは気になるところだった。
隼人とライラは、ニグアとともに城まで行った。城内にも多くの憲兵が目立つ。やがて、2人が連れていかれたのは、王の居室だった。
そこにスイアが待っていた。
ライラが思念伝達で言った。
『王と謁見するとき、ギルド国民は跪くそうよ』
隼人は答えた。
『好き好んで謁見しているわけじゃない』
スイアは、隼人たちが跪かなくとも、気にした様子はなかった。
「呼び出して悪かったな。じつはパラド王が崩御された」
隼人は言った。
「病身だった、という噂を聞いた」
スイアはうなずいた。パラドが死んでも、とくに悲しんでいる様子はない。
「そうだ。先は短かった。それでも、あと3カ月は持つだろう、というのが王国医師団の見解だった」
「医師団は間違えた、ということだ」
「そうかもしれない。だが、私は何者かがパラド王を暗殺したのではないか、と考えている」
隼人は一考した。ライラの話では、毒物は絶対に検出されないはずだが。
隼人は尋ねた。
「王暗殺か。穏やかではない。そう思う根拠は?」
「パラド王の寝室には、魔法陣が張られていた。防衛タイプではなく、不法侵入だけを探知するものが」
隼人は、防衛魔法陣だけを探査し、不法侵入のみに働く探知魔法は、探査していなかった。
迂闊ではあった。
隼人はライラに言った。
『どうやら、おれのミスだったようだ』
それから、声に出して、隼人はスイアに言った。
「不法侵入を探知する魔法が、パラド王が病死した晩に、動いたのか」
スイアはうなずいた。
「そうだ。これをどう考える?」
「何者かが、パラド王の寝室に不法に入室した。そして、病死に見せかける毒物を使った。何者の仕業だろうか。たとえば、王位継承権第1位の者なら、動機はあるな」
「そのとき、私は大勢の王族とともに、王国の今後について話し合っていた。アリバイならばある」
「誰かにやらせた、ということもある」
そこまで言って、隼人は考えた。
すでにスイアは王となったのだから、こんなことを指摘するのは無意味だ。裁判ではないのだから。
隼人はスイアに言った。
「あんたの中での、第1容疑者は?」
スイアは答えた。
「当然ながら、ヤミ金ギルドだ」