王国との決戦1
ライラが王を暗殺してから一週間が経った。
不可解なことに、パラド王崩御のニュースは入ってこなかった。
それ以外の点は順調だった。
これまで王国近辺で現れていたモンスターが、ここのところ以前ほどには見られなくなった。そのあおりで、複数の上位ハンター・ギルドの仕事がなくなり、認可金さえまともに払えなくなった。
それらのギルドは、ヤミ金ギルドからカネを借りた。こうしてヤミ金ギルドはついに上位ギルドも顧客に持つようになった。
だが、いくらヤミ金ギルドが勢力を拡大しても、王国のことがあるため、素直には喜べない。
そのことを隼人が考えていたとき、ヤミ金ギルドの拠点③(顧客に対応している拠点)から、ロスコーがやって来た。慌てている様子だ。
このとき隼人がいたのは、拠点①だった。
隼人は、なにかが起きたのか、と考えた。
「どうした?」
ロスコーは応えた。
「憲兵団です。憲兵長が自らやって来ました。ギルド・マスターを呼ぶよう、要求しています」
憲兵団とはこれまで何度かやりあってきている。さほど難敵でもないが、これまで憲兵長とは遭遇したことはなかった。
パラド王の死が隠されているのと、関係がありそうだ。
隼人はうなずいた。
「わかった。話を聞いてみようか」
ちょうどライラが外での仕事から帰ってきたところだった。拠点①に入るなり、ロスコーの緊張した様子を見て、なにかあったのだ、と悟った。
ライラは、バスタード・ソードの柄に片手を置いた。
「なにか、問題が起きたのね?」
「おそらく」
隼人は、憲兵長が直々にやって来たことを話した。
ライラはロスコーに尋ねた。
「憲兵長は、何人つれてきたの?」
ロスコーは答えた。
「確認できた限りでは、10人です」
憲兵団ならば、姿を隠す魔法を使える者もいるだろう。そういった者が潜んでいれば、10人より多い、ということになる。
ただ、たとえ倍の20人いたとしても、隼人や、ヤミ金ギルドの敵ではない(憲兵長たちがいるのは、ヤミ金ギルドの本拠なのだから)。
だが憲兵団は王国の代表ともいえる。
「ここで憲兵長たちを殺すとなると、王国との全面戦争は避けられない」
そこまで言ってから、隼人は考え直し、ライラに言った。
「いや、すでに戦争ははじまっている、と見たほうがいい」
ライラが言った。
「指示をちょうだい」
隼人は一考してから、言った。
「とりあえず、憲兵長と話してみよう」
隼人は、ライラとロスコーを連れて、拠点③へ向かった。
憲兵長とは長身の男で、隼人がこれまで遭遇した敵のなかでは、ルカの次に厄介そうだった。
憲兵長は、ニグアと名乗った。
「ヤミ金ギルドのマスター、我々と同行してもらいたい。スイア王がお待ちだ」
隼人は少し驚いた。
「スイアはすでに王になったのか」
パラドが死んだのだから、当然だが。
「戴冠式を行った、という話は聞いていない」
「極秘裏に行われた。事態が事態だからな」
「どういう事態だ?」
「パラド王は暗殺された」
すかさずライラからの思念伝達があった。
『ありえないわ。あたしの使った毒薬なら、病死としか判断されないはずよ』
隼人も思念伝達で応じた。
『わかっている。とにかく、表情には出すな』
ニグアが続けた。
「そして、スイア王は下手人はヤミ金ギルドと見ておられる」
隼人は溜息をついた。
「勝手に決めつけられても困るな。証拠はあるのか?」
「証拠はまだない。そのため、ひとまず話し合いの場を持とう、というスイア王の寛大なお考えだ」
隼人は一考してから、うなずいた。
「わかった、行こう」
ライラが強い口調で言った。
「あたしも同行するわ」
ニグアはライラを見た。
「いいだろう。だが、2人だけだ」
隼人は考えた。
いよいよ戦争か。