〈魑魅〉乗っ取り戦④
隼人は、賭博場のまわりを探索魔法で調べた。反ヤミ金ギルド同盟の連中は、隼人たちがどこから出てきても良いように、賭博場のまわりを囲んでいる。
そのため、一か所を突破すれば、敵の数はそれほどでもない。もちろん、ほかのところで待ち伏せているギルド員が、騒ぎを聞きつけてすぐに駆けつけてくるだろうが。その前に、包囲網を突破してしまえばこちらの勝ちか。
隼人は言った。
「陣形を組もう。おれが先頭を行く。セーラを守る形で、左と右にルーナとロスコーがつけろ。最後尾はライラだ。いずれにせよ、ほかの皆から離れるなよ」
ライラたちがうなずいたところで、隼人は正面入口へと近づき、外へと閃光の魔法を放った。敵ギルド員の目を晦ませたところで、外へと飛び出る。
つづいて隼人は四方へと魔法球を連続して放つ。この魔法球は、着弾時に爆裂するタイプだ。すぐに周囲は混乱に陥り、隼人たちはその中を突き進んだ。
隼人は前方の敵を蹴散らしながらも、後ろについてきているセーラを、つねに防衛魔法で守った。あとの3人は、自分の身を守る能力はちゃんとあるはずだ。
やがて、包囲網も突破するかというときに、ライラからの思念伝達があった。
『ルーナが負傷して、陣形から外れたわよ。あたしが助けにいきましょうか』
包囲網もほとんど突破したも同然だ。先頭を隼人が行かなくても、問題はないだろう。
そこで隼人は思念伝達で応えた。
『ライラ、お前が先頭を行ってくれ。セーラとロスコーを連れていけ。おれはルーナを拾ってから、すぐに追いつく』
『了解』
隼人はすぐ後ろにいるセーラに言った。
「ルーナを助けてくる。君はこのまままっすぐ進め」
セーラはうなずいた。
「ルーナをお願いします」
隼人は、敵ギルド員が集中しているほうへと戻り、途中でライラとすれ違った。
ルーナは右足を負傷したらしく、動きを取れないでいた。そこを敵ギルド員が取り囲んでくる。ルーナは敵ギルド員たちへと魔法攻撃を放って、なんとか凌いでいる。
隼人は跳躍した。敵ギルド員たちの上を飛び越え、ルーナの隣に着地する。
この間にも、敵ギルド員の数は増していく。
包囲網を突破したライラたちを追尾するのではなく、まだ包囲網の中にいる隼人とルーナを確実に仕留めようという考えのようだ。
敵ギルド員が隼人の正体(ヤミ金ギルドのギルド・マスター)に気づいているかは不明だが、戦術的には正しいといえる。
隼人は迷った。
ルーナの右足の傷を治癒魔法で回復させるか。このていどの傷ならば、10秒もあればすむ。
だが治癒魔法を使っていると、敵ギルド員たちへの攻撃魔法を使えなくなる。その間に敵から攻撃を受けた場合、隼人が負傷することはないだろうが、ルーナはわからない。
隼人は一考してから、ルーナを抱き上げた。
ルーナがなにやら囁いた。
おそらく迷惑をかけたことを詫びているのだろう。
隼人はライラへと思念伝達した。
『いまはどこだ?』
『包囲網を無事に突破したわ。追手もずいぶんと引き離したわ。そっちは?』
『囲まれている。おれだけなら問題ないが、手負いのルーナが一緒だと、突破するのは無理かもしれない』
『引き返す?』
『いや、その必要はない。ライラ、そこで止まって一点だけを見ていてくれ』
『了解』
ライラとやり取りしているあいだも、隼人は四囲へと破壊魔法を放って、敵ギルド員たちをけん制していた。
隼人はルーナに言った。
「行くぞ」
隼人は、抱いているルーナとともに空間転移した。
次の瞬間には、ライラ、セーラ、ロスコーのもとへと転移が終わっていた。
ライラが隼人に言った。
「空間転移して来たのね。あれはリスクが高いのではなかった?」
空間転移の魔法は、転移先の情報が確かではないので、事故が起きやすい。そこで隼人はライラの視界を魔法で読み取り、その視界の情報を使って空間転移したのだ。これならリスクはほとんどない。ライラに一点を見るように言ったのも、このためだ。
隼人はライラたちに言った
「追手が来る前に急ごう」